洗脳されていたことに気づいたので逃げ出してスローライフすることにします。ー元魔王四天王の村娘ライフー

黒田悠月

文字の大きさ
8 / 22
スローライフ始めます?

その6

しおりを挟む
「ってわけよ。もうホントに最悪じゃない?洗脳されてキッモイハゲのためにこの私の大事な時間がさんざん浪費されてたってわけ!」

ああ考えるだけで腹が立つ。

「--キモイハゲ……」
「そう。キモハゲよ、キモハゲ!」

私がキモハゲを主張していると、クルドは小さく笑った。

「なんか嘘っぽすぎて逆に真実味がある」
「そりゃそうよ。だってホントだもの」

私はふん、と胸を張った。

「で、情報って何が知りたいんだ?」
「あら、教えてくれるの?」

意外。もう少しゴネられるかと思ってたわ。

「助けられたのは確かみたいだし、な」

クルドはそう言って髪を手でかきあげる。
なんだかクルドって妙に仕草が大人びてるわね。
騎士って皆こんな感じなのかしら。 

おかげで変な気分。
もっと年上の男の人と話しているみたいな気になる。

「そうね。まずは……まずは、何かしら?」

情報収集をって思ってたけど、実際何を知りたいのかっと言われてみると何から聞いたらいいのかよくわからない。

えっと、私はしばらくここでのんびりしてから人間の村か町に行くつもりなのよね?
木を隠すには森の中。

人のいない場所で隠れてるよりも人に紛れている方が見つかりにくいだろうと思うのだ。


「まずはー、まずは、常識?」

首を傾げつつも、私はそう答える。
うん。
人間の中に混じって暮らしていくのなら人間の常識は知っておくべきだろう。

「……常識って」

クルドは何故かこめかみを押さえている。
私、何か変なこと言った。

「一つ言っていいか?」
「なに?」

クルドはこめかみを押さえたまま私と目を合わせた。
私はドキッとしてしまう。
考えてみれば男の人とこんな風に目を合わせたことってあんまりないかも。
や、ガキだから!
私、しっかりして!
相手は年下。
ガキんちょ!!

目を合わされただけでこんなんなるとかって私ってもしやチョロイン?

もしくはクルドが魔性なのだろうか。
魔性の男?恐ろしい。
ガキんちょのくせに。

「今ここで俺が人間の常識を教えたとして」
「うん?」
「たぶんユナは一人だと絶対非常識なことすると思う」

なんだと?

「それはクルドの教え方が悪いん」
「じゃなくて。聞いただけと実際のとこは違うっていうことだ」

私の言に被せたクルドは、ちょっと考え込むように眉をひそめてから、ため息をついて言った。

「提案があるんだが」




♢♢♢♢♢




「……おおぉっ!」

クルドが持っていた馬車の中。
私は窓から身を乗り出して前方に見える木製の柵と小さな家々に興奮した声を上げた。

「クルド、クルド!家が見えるよ!あれって人間の村?それとも町?ちっこいけど」

ちっこいといっても家々の周囲を覆う木製の柵は一辺で2キルあまりはあるだろうか。
『移動』の魔法を改良した際に何度か人間のふりをして人間の村を訪れたことはあるけど、口うるさいお目付役はいたし、こそこそ入口付近を歩いただけだ。
唯一一人でまともに見て回ったのは私が当面の拠点にするつもりだった草原そばの集落だけ。

何故そこだけ一人だったのかというと単純に魔力が足りなくて私しか転移できなかったという話。

それだって許された時間はわずかで、小さな集落だから見るものも少ない。
ボロい藁の屋根と長屋と明らかに育ちの悪い畑と痩せた人間と家畜。

それでも小間物屋で持っていた屑の魔鉱石とちっちゃな琥珀の指輪が売れて、人間の国のお金を手に入れられたから、私にとっては僥倖だった。

どや!と私が手に出してみせた硬貨を見たクルドの反応は「いや、思いっきり買い叩かれてるからな?」というセリフと残念な子を見るような視線だったけど。

「魔鉱石なら屑でも一匙で銀貨二枚にはなる」

クルドのその言葉に、私はぱちぱちと瞬きをして自分の手の中を見た。

そこには銀貨が一枚と銅貨が二枚。
琥珀の指輪分も入ってるんだから、相場の半値以下で買われていたということである。

あのオヤジ、人の良さそうな顔して……。

「やっぱり一緒に行動することにして正解だったな」

クルドはそう言って私のお団子頭のてっぺんをポンと叩いた。



私がクルドを助けてから、今日で10日目になる。

クルドが私にした提案はしばらく一緒に旅をすることだった。
一緒に旅をして、見て、聞いて、教えてもらいながら人間の常識や一人で暮らしていくのに必要なことを覚えていく。


クルドは私にあまり多くのことを語らない。
ただ貴族であることは確かなようだ。
もしかしたらあった、になってるかも知れないようだけど。

どうも人間の国というのは政権争いというのが激しいようだ。
クルドが簡単に語った話からすると、クルドは政争に負けた。と、いうか争っていた相手に冤罪をかけられ貶められた挙げ句に何やら呪いを仕掛けられたとか。
なんでか何度聞いても呪いの内容は教えてくれないけども、そういうことらしい。
そのうえ謹慎先として草原の集落に移送されていた途中で護衛だったはずの傭兵たちに襲われて死にかけていたと。

うん、まあお気の毒?
まだまだ若いのに色々あるものだ。

クルドはこのまま集落には向かわずに呪いを解くために旅をするという。
一応手がかりというか呪いを解けるかも知れない人物には心当たりがあるらしく、その人物を訪ねてみるそうだ。

私はそのクルドの旅のお供に誘われたというわけ。
旅に飽きたり一人でやっていける目処がつけばその時点で別れればいいし、一人よりも話し相手がある方が退屈しない。
 
もし私に追っ手が差し向けられてもまさか人間と共に旅しているとは誰も思うまい。つまり時間稼ぎにもなる。クルドにしても同じ。
追っ手がきても私という戦力があれば心強い。

私はふむ、と少し考えてクルドのその提案をのんだ。


そうしてすぐそのまま私たちは馬車の旅を始め、10日目にしてどこぞの村か町に着こうとしているのである。



何かを忘れているような気がするけど、たぶん大したことではないはずだ。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした

朝陽千早
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。 子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。 だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。 ――私は静かに調べた。 夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。 嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...