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スローライフ始めます?
その6
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「ってわけよ。もうホントに最悪じゃない?洗脳されてキッモイハゲのためにこの私の大事な時間がさんざん浪費されてたってわけ!」
ああ考えるだけで腹が立つ。
「--キモイハゲ……」
「そう。キモハゲよ、キモハゲ!」
私がキモハゲを主張していると、クルドは小さく笑った。
「なんか嘘っぽすぎて逆に真実味がある」
「そりゃそうよ。だってホントだもの」
私はふん、と胸を張った。
「で、情報って何が知りたいんだ?」
「あら、教えてくれるの?」
意外。もう少しゴネられるかと思ってたわ。
「助けられたのは確かみたいだし、な」
クルドはそう言って髪を手でかきあげる。
なんだかクルドって妙に仕草が大人びてるわね。
騎士って皆こんな感じなのかしら。
おかげで変な気分。
もっと年上の男の人と話しているみたいな気になる。
「そうね。まずは……まずは、何かしら?」
情報収集をって思ってたけど、実際何を知りたいのかっと言われてみると何から聞いたらいいのかよくわからない。
えっと、私はしばらくここでのんびりしてから人間の村か町に行くつもりなのよね?
木を隠すには森の中。
人のいない場所で隠れてるよりも人に紛れている方が見つかりにくいだろうと思うのだ。
「まずはー、まずは、常識?」
首を傾げつつも、私はそう答える。
うん。
人間の中に混じって暮らしていくのなら人間の常識は知っておくべきだろう。
「……常識って」
クルドは何故かこめかみを押さえている。
私、何か変なこと言った。
「一つ言っていいか?」
「なに?」
クルドはこめかみを押さえたまま私と目を合わせた。
私はドキッとしてしまう。
考えてみれば男の人とこんな風に目を合わせたことってあんまりないかも。
や、ガキだから!
私、しっかりして!
相手は年下。
ガキんちょ!!
目を合わされただけでこんなんなるとかって私ってもしやチョロイン?
もしくはクルドが魔性なのだろうか。
魔性の男?恐ろしい。
ガキんちょのくせに。
「今ここで俺が人間の常識を教えたとして」
「うん?」
「たぶんユナは一人だと絶対非常識なことすると思う」
なんだと?
「それはクルドの教え方が悪いん」
「じゃなくて。聞いただけと実際のとこは違うっていうことだ」
私の言に被せたクルドは、ちょっと考え込むように眉をひそめてから、ため息をついて言った。
「提案があるんだが」
♢♢♢♢♢
「……おおぉっ!」
クルドが持っていた馬車の中。
私は窓から身を乗り出して前方に見える木製の柵と小さな家々に興奮した声を上げた。
「クルド、クルド!家が見えるよ!あれって人間の村?それとも町?ちっこいけど」
ちっこいといっても家々の周囲を覆う木製の柵は一辺で2キルあまりはあるだろうか。
『移動』の魔法を改良した際に何度か人間のふりをして人間の村を訪れたことはあるけど、口うるさいお目付役はいたし、こそこそ入口付近を歩いただけだ。
唯一一人でまともに見て回ったのは私が当面の拠点にするつもりだった草原そばの集落だけ。
何故そこだけ一人だったのかというと単純に魔力が足りなくて私しか転移できなかったという話。
それだって許された時間はわずかで、小さな集落だから見るものも少ない。
ボロい藁の屋根と長屋と明らかに育ちの悪い畑と痩せた人間と家畜。
それでも小間物屋で持っていた屑の魔鉱石とちっちゃな琥珀の指輪が売れて、人間の国のお金を手に入れられたから、私にとっては僥倖だった。
どや!と私が手に出してみせた硬貨を見たクルドの反応は「いや、思いっきり買い叩かれてるからな?」というセリフと残念な子を見るような視線だったけど。
「魔鉱石なら屑でも一匙で銀貨二枚にはなる」
クルドのその言葉に、私はぱちぱちと瞬きをして自分の手の中を見た。
そこには銀貨が一枚と銅貨が二枚。
琥珀の指輪分も入ってるんだから、相場の半値以下で買われていたということである。
あのオヤジ、人の良さそうな顔して……。
「やっぱり一緒に行動することにして正解だったな」
クルドはそう言って私のお団子頭のてっぺんをポンと叩いた。
私がクルドを助けてから、今日で10日目になる。
クルドが私にした提案はしばらく一緒に旅をすることだった。
一緒に旅をして、見て、聞いて、教えてもらいながら人間の常識や一人で暮らしていくのに必要なことを覚えていく。
クルドは私にあまり多くのことを語らない。
ただ貴族であることは確かなようだ。
もしかしたらあった、になってるかも知れないようだけど。
どうも人間の国というのは政権争いというのが激しいようだ。
クルドが簡単に語った話からすると、クルドは政争に負けた。と、いうか争っていた相手に冤罪をかけられ貶められた挙げ句に何やら呪いを仕掛けられたとか。
なんでか何度聞いても呪いの内容は教えてくれないけども、そういうことらしい。
そのうえ謹慎先として草原の集落に移送されていた途中で護衛だったはずの傭兵たちに襲われて死にかけていたと。
うん、まあお気の毒?
まだまだ若いのに色々あるものだ。
クルドはこのまま集落には向かわずに呪いを解くために旅をするという。
一応手がかりというか呪いを解けるかも知れない人物には心当たりがあるらしく、その人物を訪ねてみるそうだ。
私はそのクルドの旅のお供に誘われたというわけ。
旅に飽きたり一人でやっていける目処がつけばその時点で別れればいいし、一人よりも話し相手がある方が退屈しない。
もし私に追っ手が差し向けられてもまさか人間と共に旅しているとは誰も思うまい。つまり時間稼ぎにもなる。クルドにしても同じ。
追っ手がきても私という戦力があれば心強い。
私はふむ、と少し考えてクルドのその提案をのんだ。
そうしてすぐそのまま私たちは馬車の旅を始め、10日目にしてどこぞの村か町に着こうとしているのである。
何かを忘れているような気がするけど、たぶん大したことではないはずだ。
ああ考えるだけで腹が立つ。
「--キモイハゲ……」
「そう。キモハゲよ、キモハゲ!」
私がキモハゲを主張していると、クルドは小さく笑った。
「なんか嘘っぽすぎて逆に真実味がある」
「そりゃそうよ。だってホントだもの」
私はふん、と胸を張った。
「で、情報って何が知りたいんだ?」
「あら、教えてくれるの?」
意外。もう少しゴネられるかと思ってたわ。
「助けられたのは確かみたいだし、な」
クルドはそう言って髪を手でかきあげる。
なんだかクルドって妙に仕草が大人びてるわね。
騎士って皆こんな感じなのかしら。
おかげで変な気分。
もっと年上の男の人と話しているみたいな気になる。
「そうね。まずは……まずは、何かしら?」
情報収集をって思ってたけど、実際何を知りたいのかっと言われてみると何から聞いたらいいのかよくわからない。
えっと、私はしばらくここでのんびりしてから人間の村か町に行くつもりなのよね?
木を隠すには森の中。
人のいない場所で隠れてるよりも人に紛れている方が見つかりにくいだろうと思うのだ。
「まずはー、まずは、常識?」
首を傾げつつも、私はそう答える。
うん。
人間の中に混じって暮らしていくのなら人間の常識は知っておくべきだろう。
「……常識って」
クルドは何故かこめかみを押さえている。
私、何か変なこと言った。
「一つ言っていいか?」
「なに?」
クルドはこめかみを押さえたまま私と目を合わせた。
私はドキッとしてしまう。
考えてみれば男の人とこんな風に目を合わせたことってあんまりないかも。
や、ガキだから!
私、しっかりして!
相手は年下。
ガキんちょ!!
目を合わされただけでこんなんなるとかって私ってもしやチョロイン?
もしくはクルドが魔性なのだろうか。
魔性の男?恐ろしい。
ガキんちょのくせに。
「今ここで俺が人間の常識を教えたとして」
「うん?」
「たぶんユナは一人だと絶対非常識なことすると思う」
なんだと?
「それはクルドの教え方が悪いん」
「じゃなくて。聞いただけと実際のとこは違うっていうことだ」
私の言に被せたクルドは、ちょっと考え込むように眉をひそめてから、ため息をついて言った。
「提案があるんだが」
♢♢♢♢♢
「……おおぉっ!」
クルドが持っていた馬車の中。
私は窓から身を乗り出して前方に見える木製の柵と小さな家々に興奮した声を上げた。
「クルド、クルド!家が見えるよ!あれって人間の村?それとも町?ちっこいけど」
ちっこいといっても家々の周囲を覆う木製の柵は一辺で2キルあまりはあるだろうか。
『移動』の魔法を改良した際に何度か人間のふりをして人間の村を訪れたことはあるけど、口うるさいお目付役はいたし、こそこそ入口付近を歩いただけだ。
唯一一人でまともに見て回ったのは私が当面の拠点にするつもりだった草原そばの集落だけ。
何故そこだけ一人だったのかというと単純に魔力が足りなくて私しか転移できなかったという話。
それだって許された時間はわずかで、小さな集落だから見るものも少ない。
ボロい藁の屋根と長屋と明らかに育ちの悪い畑と痩せた人間と家畜。
それでも小間物屋で持っていた屑の魔鉱石とちっちゃな琥珀の指輪が売れて、人間の国のお金を手に入れられたから、私にとっては僥倖だった。
どや!と私が手に出してみせた硬貨を見たクルドの反応は「いや、思いっきり買い叩かれてるからな?」というセリフと残念な子を見るような視線だったけど。
「魔鉱石なら屑でも一匙で銀貨二枚にはなる」
クルドのその言葉に、私はぱちぱちと瞬きをして自分の手の中を見た。
そこには銀貨が一枚と銅貨が二枚。
琥珀の指輪分も入ってるんだから、相場の半値以下で買われていたということである。
あのオヤジ、人の良さそうな顔して……。
「やっぱり一緒に行動することにして正解だったな」
クルドはそう言って私のお団子頭のてっぺんをポンと叩いた。
私がクルドを助けてから、今日で10日目になる。
クルドが私にした提案はしばらく一緒に旅をすることだった。
一緒に旅をして、見て、聞いて、教えてもらいながら人間の常識や一人で暮らしていくのに必要なことを覚えていく。
クルドは私にあまり多くのことを語らない。
ただ貴族であることは確かなようだ。
もしかしたらあった、になってるかも知れないようだけど。
どうも人間の国というのは政権争いというのが激しいようだ。
クルドが簡単に語った話からすると、クルドは政争に負けた。と、いうか争っていた相手に冤罪をかけられ貶められた挙げ句に何やら呪いを仕掛けられたとか。
なんでか何度聞いても呪いの内容は教えてくれないけども、そういうことらしい。
そのうえ謹慎先として草原の集落に移送されていた途中で護衛だったはずの傭兵たちに襲われて死にかけていたと。
うん、まあお気の毒?
まだまだ若いのに色々あるものだ。
クルドはこのまま集落には向かわずに呪いを解くために旅をするという。
一応手がかりというか呪いを解けるかも知れない人物には心当たりがあるらしく、その人物を訪ねてみるそうだ。
私はそのクルドの旅のお供に誘われたというわけ。
旅に飽きたり一人でやっていける目処がつけばその時点で別れればいいし、一人よりも話し相手がある方が退屈しない。
もし私に追っ手が差し向けられてもまさか人間と共に旅しているとは誰も思うまい。つまり時間稼ぎにもなる。クルドにしても同じ。
追っ手がきても私という戦力があれば心強い。
私はふむ、と少し考えてクルドのその提案をのんだ。
そうしてすぐそのまま私たちは馬車の旅を始め、10日目にしてどこぞの村か町に着こうとしているのである。
何かを忘れているような気がするけど、たぶん大したことではないはずだ。
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