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呪いと真実
小話 とある魔族のお話②
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「……いない?」
「はい。ご主人様はその、お出かけ中で……」
ユナの屋敷、その門の前でライルは眉をしかめた。
呼び出しのチャイムに出てきたのは年若いメイド服の少女だった。
ユナはおっさんおばさんは口うるさいのが多いから嫌だ、とか言って若い少女ばかりを雇っている。
前にここを訪れた時は、一人いかにも執事な風貌の年嵩の男性がいたはずだが、その執事も外出中らしい。
「セバスさんはご主人様を探しに……ぁ」
主人が留守な時に屋敷を預かるあの執事までがいないというのは不自然に過ぎる。
それでさり気なく「へぇ、どこに?」と尋ねてみると、返ってきた答えがこれだった。
駄目過ぎる。
セバスちゃんと教育しとけ。
まあほとんど研究所にいるユナだ。
客は少ないはずだし普段はセバスが対応しているのだろう。
ユナは血筋も魔力の量も身分も教育の有無も気にしない。
「キレイな子を拾ってくるのよ?」
昔、どのような基準で使用人を雇うのか聞いてみるとあっさりとそう言っていたのを思い出す。
「ミサは髪がキレイだしマーヤは瞳の色がキレイ。セバスはおじさんだけど耳の上にあるくるんと丸まった角がスッゴい可愛いのよ!」
ユナは知らない。
ユナが魔王第一主義だから、使用人たちも皆そうであるフリをしていると。
いざというときに魔王とユナ、どちらを選ぶか、ユナは知らない。
何度目だったか、この屋敷を訪れた時にユナが席を外した時だ。
「わたくしはこのお屋敷の前はフェムト卿の家令をしておりました」
突然セバスがそんな話を始めた。
フェムト卿、それは魔王の機嫌を損ねて没落した貴族である。
「魔王様の怒りを買った家に雇われていた者など普通ならどなたも雇いません。ここはそういう国ですから」
本人や家族だけでなく、ただ雇われていただけの使用人であっても、その者に関わっていた以上罪人も同然であると。
「ですがユナ様は『そんなの気にしすぎよ。だってあなたが何か悪いことをしたわけでもないでしょう?』と笑ってわたくしに仕事と、居場所を下さいました。」
この屋敷に雇われている者は皆同じような者だと。
セバスはそう言った。
「魔力が少なく蔑まれていた者。身分の低い者。あの方は気づいてらっしゃいませんがわたくしたちを救って下さったのです」
――どうか、とセバスは深く頭を下げた。
セバスからすればまだ年若い若僧でしかないライルに。
身分も、ライルはけして高いとはいえない。
魔力はそれなり以上にあるし、研究者としては成功している方ではあるが、血筋がない。
それでもセバスは深く深く頭を下げた。
「ユナ様をよろしくお願いします。ユナ様はよく言えば天真爛漫な方です。ですがそれゆえに危うい。
いつか、何かがある。そんなこと気がならないのです。どうか、どうか、ユナ様を助けて差し上げて下さい」
何かがある、ではなく何かをしでかすの間違いだろうとは思ったが、そこに突っ込むのはやめておいた。代わりに「なんで俺に?」と聞いた。
なんとなく答えには気づいていたが。
「……あなたはわたくしたちと同じだと思いましたので。他のこの国の人間とは違う、方だと。それに……」
「あー、いい、いい。それ以上言わなくて」
ライルは自分の髪を指でグシャグシャにかき混ぜながら、セバスの言葉を遮る。
自身の頬がわずかに熱を帯びているのを自覚しながら。
「まったく、しょうがねぇなあ」
ユナがいない。
そしてセバスはユナを探している。
それはつまりユナは誰にも言わずにどこかへ行ってしまったということ。
そしてそれは、この国では罪だ。
しょうがない。
ユナがいなければ自分の大事な研究も進まないのだから。
逆にユナさえいれば、どこででも研究はできる。
「ああ、心配すんな。誰にも言わないから。ところでユナの部屋はそのままだな?」
メイドの少女は「はい」と戸惑いながらも答える。
それに一つ頷いて、ライルはなら、と口を開いた。
「ちょっと、その部屋見せてくれるか」
「はい。ご主人様はその、お出かけ中で……」
ユナの屋敷、その門の前でライルは眉をしかめた。
呼び出しのチャイムに出てきたのは年若いメイド服の少女だった。
ユナはおっさんおばさんは口うるさいのが多いから嫌だ、とか言って若い少女ばかりを雇っている。
前にここを訪れた時は、一人いかにも執事な風貌の年嵩の男性がいたはずだが、その執事も外出中らしい。
「セバスさんはご主人様を探しに……ぁ」
主人が留守な時に屋敷を預かるあの執事までがいないというのは不自然に過ぎる。
それでさり気なく「へぇ、どこに?」と尋ねてみると、返ってきた答えがこれだった。
駄目過ぎる。
セバスちゃんと教育しとけ。
まあほとんど研究所にいるユナだ。
客は少ないはずだし普段はセバスが対応しているのだろう。
ユナは血筋も魔力の量も身分も教育の有無も気にしない。
「キレイな子を拾ってくるのよ?」
昔、どのような基準で使用人を雇うのか聞いてみるとあっさりとそう言っていたのを思い出す。
「ミサは髪がキレイだしマーヤは瞳の色がキレイ。セバスはおじさんだけど耳の上にあるくるんと丸まった角がスッゴい可愛いのよ!」
ユナは知らない。
ユナが魔王第一主義だから、使用人たちも皆そうであるフリをしていると。
いざというときに魔王とユナ、どちらを選ぶか、ユナは知らない。
何度目だったか、この屋敷を訪れた時にユナが席を外した時だ。
「わたくしはこのお屋敷の前はフェムト卿の家令をしておりました」
突然セバスがそんな話を始めた。
フェムト卿、それは魔王の機嫌を損ねて没落した貴族である。
「魔王様の怒りを買った家に雇われていた者など普通ならどなたも雇いません。ここはそういう国ですから」
本人や家族だけでなく、ただ雇われていただけの使用人であっても、その者に関わっていた以上罪人も同然であると。
「ですがユナ様は『そんなの気にしすぎよ。だってあなたが何か悪いことをしたわけでもないでしょう?』と笑ってわたくしに仕事と、居場所を下さいました。」
この屋敷に雇われている者は皆同じような者だと。
セバスはそう言った。
「魔力が少なく蔑まれていた者。身分の低い者。あの方は気づいてらっしゃいませんがわたくしたちを救って下さったのです」
――どうか、とセバスは深く頭を下げた。
セバスからすればまだ年若い若僧でしかないライルに。
身分も、ライルはけして高いとはいえない。
魔力はそれなり以上にあるし、研究者としては成功している方ではあるが、血筋がない。
それでもセバスは深く深く頭を下げた。
「ユナ様をよろしくお願いします。ユナ様はよく言えば天真爛漫な方です。ですがそれゆえに危うい。
いつか、何かがある。そんなこと気がならないのです。どうか、どうか、ユナ様を助けて差し上げて下さい」
何かがある、ではなく何かをしでかすの間違いだろうとは思ったが、そこに突っ込むのはやめておいた。代わりに「なんで俺に?」と聞いた。
なんとなく答えには気づいていたが。
「……あなたはわたくしたちと同じだと思いましたので。他のこの国の人間とは違う、方だと。それに……」
「あー、いい、いい。それ以上言わなくて」
ライルは自分の髪を指でグシャグシャにかき混ぜながら、セバスの言葉を遮る。
自身の頬がわずかに熱を帯びているのを自覚しながら。
「まったく、しょうがねぇなあ」
ユナがいない。
そしてセバスはユナを探している。
それはつまりユナは誰にも言わずにどこかへ行ってしまったということ。
そしてそれは、この国では罪だ。
しょうがない。
ユナがいなければ自分の大事な研究も進まないのだから。
逆にユナさえいれば、どこででも研究はできる。
「ああ、心配すんな。誰にも言わないから。ところでユナの部屋はそのままだな?」
メイドの少女は「はい」と戸惑いながらも答える。
それに一つ頷いて、ライルはなら、と口を開いた。
「ちょっと、その部屋見せてくれるか」
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