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呪いと真実
その7
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翌日。
さっそく朝から不動産屋に行って◯霊屋敷の賃貸契約をした。
ホクホク顔で「いい選択だと思いますよ。これだけの物件でこの賃料はなかなかないですからね」と何度も頷くオヤジの頭には丸いベレー帽が乗っている。
「掃除はサービスでつけさせて頂きます。生活魔法具の点検も行ってからになりますので、鍵の引き渡しは今日の夕方以降でもよろしいですか?」
一軒丸ごとの掃除といっても魔法を使ってのことなので、半日もかからない。
私が頷くと、オヤジの隣に座っている受付のお姉さんはスラスラと紙に何やらペンを走らせている。
何でもない顔を装っているけど、私が例の物件を選んだからか、少し表情が強張っていた。
「はい、よろしくお願いします」
そう頭を下げて、私たちは店を後にした。
「ほんとにあそこで良かったのか?」
店を出てしばらく歩いた所でクルドが念を押す。
クルドも怪しいとは思っていたらしい。
私が魔法具で聞いた会話を話して聞かせると、案の定「他にしろ」と言われたが、私は頑として意志を貫き通した。
だって幽◯屋敷、気になるじゃないか!
そう言うと何故か生暖かい目で見られた。
「もっちろん!でも声だけなのかな~?見てみたいな生ユーレイ」
「生ってなんだ」
「ね、脅かしてても効果がないってなったらそのうち出てこないかな?」
うお~。どんなだろう。
なんかテンション上がるな。
「……脅かしてるとは限らないけどな。何か訴えたいことがあるのかも知れないし」
どんどん視線がなんとも言えない凪いだ海のような静かすぎる眼差しになってきているけど、それでもちゃんと反応を返してくるあたり、クルドは根が真面目なんだろうな。
いいとこの坊ちゃんっていうか。
不動産屋の後は冒険者ギルドに向かう。
こういった開拓地の村にギルドの支店があるのは珍しいらしい。
普通はある程度大きな町に近い規模の村か有力な貴族の領地にある村にしかない。
ここにある理由は『常闇の森』のすぐそばだから。
『常闇の森』には珍しい植物や獣が数多く生息している。
その分危険も多いし何より森の奥には魔女がいる。
私は魔女というのは人間の中で『英雄』とか『勇者』とかと同じような存在なのかと思っていた。
けどクルドが言うにはどうも違うらしい。
人間の中で、人間以上の魔力を持つ人間を『英雄』とか『勇者』とか呼ぶ。
彼らは生まれた時からすでに『英雄』であり『勇者』だ。
通常の何倍もの魔力を持って生まれときたり、特殊な力を持って生まれてきた人間。
多くは国に仕える騎士であったり自由を尊ぶ者なら冒険者であることが多い。
中には教会に属する『聖人』やら『聖女』やらもいるみたいだけど。
組織に属する人間も多いけれど、基本的に『自由』な人間。
行こうと思えばどこにでも行けるし、縛られない。
比べ、『魔女』というのは『縛られた人間』だ。
魔女は『土地』に縛られる。
特定の縛られた『土地』でだけ、他の人間以上の力を持つ人間。
魔力に満ちた『土地』と特別な契約を結んだ人間。
魔女はその『土地』以外の場所ではただの人間でしかない。
ただしその『土地』でのみ、最強なのだという。で
何故ならその地では、すべてが魔女の味方であるから。土も木も水も、その地に住む獣ですら。
『土地』は魔女の聖域。
魔女の土地。
王ですら犯すことのできない場所。
魔女の『土地』に立ち入るなら魔女に許可を得なければならない。
許可なく立ち入った者は必ず報いを受ける。
問題なのは、その報いが時として立ち入ったその者のみならず周辺のあらゆるものに向けられること。
そのため魔女の『土地』から恩恵を受けようとするなら、仲介が必要となる。
その仲介を担うのがギルド。
『土地』に立ち入る者を監視し、管理する。
「この村自体が森に立ち入る者を監視するために作られたものなんだ」
「へぇ?」
「このところ、勝手に森に立ち入ろうとする冒険者やならず者が多くて、それを監視する場を作るために」
頷きながらも、それをくわしく知っているクルドはいったいどういった身分の人間だったのかと思う。
それとも貴族やギルドに関わる人間なら誰でも知っている事柄なのか。
「それにしては私みたいな得体の知れないものを中に入れるんだな」
「森への入口はちゃんと監視されてる。それ以外は入れないように結界も。監視し、管理しようというならその人間が生活できる場所を作る必要がある。
この村はそのための場所ということだよ」
ふうん、だ。
わかるようなわからないような。
ま、どうでもいいか。
クルドはギルドで森に立ち入り魔女と面会するための手続きをするらしい。
ずいぶん面倒な手続きらしく、下手をしたら一月ほどギルドに日参することになるそうだ。
さっそく朝から不動産屋に行って◯霊屋敷の賃貸契約をした。
ホクホク顔で「いい選択だと思いますよ。これだけの物件でこの賃料はなかなかないですからね」と何度も頷くオヤジの頭には丸いベレー帽が乗っている。
「掃除はサービスでつけさせて頂きます。生活魔法具の点検も行ってからになりますので、鍵の引き渡しは今日の夕方以降でもよろしいですか?」
一軒丸ごとの掃除といっても魔法を使ってのことなので、半日もかからない。
私が頷くと、オヤジの隣に座っている受付のお姉さんはスラスラと紙に何やらペンを走らせている。
何でもない顔を装っているけど、私が例の物件を選んだからか、少し表情が強張っていた。
「はい、よろしくお願いします」
そう頭を下げて、私たちは店を後にした。
「ほんとにあそこで良かったのか?」
店を出てしばらく歩いた所でクルドが念を押す。
クルドも怪しいとは思っていたらしい。
私が魔法具で聞いた会話を話して聞かせると、案の定「他にしろ」と言われたが、私は頑として意志を貫き通した。
だって幽◯屋敷、気になるじゃないか!
そう言うと何故か生暖かい目で見られた。
「もっちろん!でも声だけなのかな~?見てみたいな生ユーレイ」
「生ってなんだ」
「ね、脅かしてても効果がないってなったらそのうち出てこないかな?」
うお~。どんなだろう。
なんかテンション上がるな。
「……脅かしてるとは限らないけどな。何か訴えたいことがあるのかも知れないし」
どんどん視線がなんとも言えない凪いだ海のような静かすぎる眼差しになってきているけど、それでもちゃんと反応を返してくるあたり、クルドは根が真面目なんだろうな。
いいとこの坊ちゃんっていうか。
不動産屋の後は冒険者ギルドに向かう。
こういった開拓地の村にギルドの支店があるのは珍しいらしい。
普通はある程度大きな町に近い規模の村か有力な貴族の領地にある村にしかない。
ここにある理由は『常闇の森』のすぐそばだから。
『常闇の森』には珍しい植物や獣が数多く生息している。
その分危険も多いし何より森の奥には魔女がいる。
私は魔女というのは人間の中で『英雄』とか『勇者』とかと同じような存在なのかと思っていた。
けどクルドが言うにはどうも違うらしい。
人間の中で、人間以上の魔力を持つ人間を『英雄』とか『勇者』とか呼ぶ。
彼らは生まれた時からすでに『英雄』であり『勇者』だ。
通常の何倍もの魔力を持って生まれときたり、特殊な力を持って生まれてきた人間。
多くは国に仕える騎士であったり自由を尊ぶ者なら冒険者であることが多い。
中には教会に属する『聖人』やら『聖女』やらもいるみたいだけど。
組織に属する人間も多いけれど、基本的に『自由』な人間。
行こうと思えばどこにでも行けるし、縛られない。
比べ、『魔女』というのは『縛られた人間』だ。
魔女は『土地』に縛られる。
特定の縛られた『土地』でだけ、他の人間以上の力を持つ人間。
魔力に満ちた『土地』と特別な契約を結んだ人間。
魔女はその『土地』以外の場所ではただの人間でしかない。
ただしその『土地』でのみ、最強なのだという。で
何故ならその地では、すべてが魔女の味方であるから。土も木も水も、その地に住む獣ですら。
『土地』は魔女の聖域。
魔女の土地。
王ですら犯すことのできない場所。
魔女の『土地』に立ち入るなら魔女に許可を得なければならない。
許可なく立ち入った者は必ず報いを受ける。
問題なのは、その報いが時として立ち入ったその者のみならず周辺のあらゆるものに向けられること。
そのため魔女の『土地』から恩恵を受けようとするなら、仲介が必要となる。
その仲介を担うのがギルド。
『土地』に立ち入る者を監視し、管理する。
「この村自体が森に立ち入る者を監視するために作られたものなんだ」
「へぇ?」
「このところ、勝手に森に立ち入ろうとする冒険者やならず者が多くて、それを監視する場を作るために」
頷きながらも、それをくわしく知っているクルドはいったいどういった身分の人間だったのかと思う。
それとも貴族やギルドに関わる人間なら誰でも知っている事柄なのか。
「それにしては私みたいな得体の知れないものを中に入れるんだな」
「森への入口はちゃんと監視されてる。それ以外は入れないように結界も。監視し、管理しようというならその人間が生活できる場所を作る必要がある。
この村はそのための場所ということだよ」
ふうん、だ。
わかるようなわからないような。
ま、どうでもいいか。
クルドはギルドで森に立ち入り魔女と面会するための手続きをするらしい。
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