19 / 22
呪いと真実
その6
しおりを挟む
家が決まって住めるようになるまでにクルドと同じ宿屋に泊まることになった。
部屋は別々。
お金はクルドが出してくれた。
クルドは旅の間に狩った獣の皮や牙なんかを売ってお金にしていた。
騎士なのに剣よりも弓の方が得意みたいだ。
武器はナイフを一つと弓矢のセット、短剣を私が魔法で作ってあげた。
お肉は私たちのお腹に収まった。
塩胡椒で焼いただけとかなのに、やたらとうまかった。たぶん気分的なものが良い調味料になったのだろう。
宿屋の部屋に入ると、私はさっそく『空間収納魔法』から一つの魔法具を取り出す。
備え付けのテーブルの上に置いて、軽く魔力を流す。
すると、魔法具から若い女性の声が聞こえてきた。
「よかったんですか?」
不動産屋のカウンターには受付嬢らしい女性がいた。最初、その女性に条件を伝えて、案内はオヤジだった。
この声は受付嬢のものだ。
「何がだ?」
ちょっぴり不機嫌そうなオヤジの声。
うん。ばっちり盗聴できてます。
ぐふふ。
私がオヤジの襟に仕込んでおいたのは『盗聴』の魔法具だ。
半径2メルほどと範囲は狭いけれど、範囲内の声はしっかり拾ってくれる。
テーブルに置いたのは対の魔法具。
『すぴーかー』である。
「さっきのお客さんに勧めてたの、例の物件ですよね?」
ほほう、例の!
私は興味津々で『すぴーかー』に耳を寄せる。
口元が緩んで仕方ない。
なんともバッチグーなタイミングである。
さすが私!
クルドを急かして大急ぎで宿に駆け込んだかいがあったというものだ。
「ああ。それが何だ?客の要望に応えて案内しただけだろう」
「ですが……」
少しだけ咎めるような声を上げて、女性が口を噤んだ気配が伝わってきた。
オヤジに睨まれでもしたかな?
いかんよ!『ぱわはら』わ!
「それに他の物件だって案内してるんだ。なんの問題もない」
わずかに気持ち悪い笑い声がした。
うえぇキッモ!
「借り手のない不良物件を世間知らずのお嬢さんが借りてくれるかも知れないんだ。まったくありがたい話じゃないか」
「でも」
「だいたいなんだ。怪我でもする危険があるわけでもないだろう?ちょっとおかしな噂があるってだけで。その分賃料だって格安なんだ。それともいちいちここにはこういう噂があるんですとでも説明しろって言うのか。その噂だって大したものでもない。たかが夜な夜な女の声が聞こえるとかだったか?どうせ隣近所の声が聞こえてるんだよ」
はあん、女の声ねぇ?
それって、もしかして?
あれですか。
ゆがつく四文字だったり?
「でも若い女性なんですよ?きっと……」
「いいじゃないか。見ただろ?あの二人組。どうせ金持ちのお嬢さんが庶民の暮らしを体験してみたいとか言って家出してきたんだよ。あの子供はきっと小間使いか何かか。お嬢さんの我が儘につきあわされてるのに違うない。少しばかり怖い思いをすればサッサと家に泣いて帰るに違いない。親御さんからすればむしろ感謝されてもいいくらいじゃないか」
「……」
ザザザ。
と雑音が入り始める。
これは便利道具だけど、込められる魔力がまだ少ないものであまり時間がもたない。
「もういいだろ。ああ、お茶でも入れてくれ」
雑音に紛れて小さくなったオヤジの声。
私はパチンと指を鳴らした。
面白い情報をくれたのはいいけど、受付嬢への『ぱわはら』といい、私を我が儘扱いしたことといい、お仕置きは必要だろう。
『すぴーかー』の向こうからオヤジの切羽詰まった悲鳴が聞こえた。
別に暴力的なことは何もしていない。
役目を終えた魔法具が一つポン、と火花を散らして燃え尽きただけ。
ただその場所が襟の裏からオヤジの頭頂部に移動するようにしただけだ。
被害はおそらく頭頂部のちびっとな円形ハゲくらいのものだろう。
サイズはたぶん小皿一つ分くらいかな?
カッパみたいな素敵頭になっていてほしい。
部屋は別々。
お金はクルドが出してくれた。
クルドは旅の間に狩った獣の皮や牙なんかを売ってお金にしていた。
騎士なのに剣よりも弓の方が得意みたいだ。
武器はナイフを一つと弓矢のセット、短剣を私が魔法で作ってあげた。
お肉は私たちのお腹に収まった。
塩胡椒で焼いただけとかなのに、やたらとうまかった。たぶん気分的なものが良い調味料になったのだろう。
宿屋の部屋に入ると、私はさっそく『空間収納魔法』から一つの魔法具を取り出す。
備え付けのテーブルの上に置いて、軽く魔力を流す。
すると、魔法具から若い女性の声が聞こえてきた。
「よかったんですか?」
不動産屋のカウンターには受付嬢らしい女性がいた。最初、その女性に条件を伝えて、案内はオヤジだった。
この声は受付嬢のものだ。
「何がだ?」
ちょっぴり不機嫌そうなオヤジの声。
うん。ばっちり盗聴できてます。
ぐふふ。
私がオヤジの襟に仕込んでおいたのは『盗聴』の魔法具だ。
半径2メルほどと範囲は狭いけれど、範囲内の声はしっかり拾ってくれる。
テーブルに置いたのは対の魔法具。
『すぴーかー』である。
「さっきのお客さんに勧めてたの、例の物件ですよね?」
ほほう、例の!
私は興味津々で『すぴーかー』に耳を寄せる。
口元が緩んで仕方ない。
なんともバッチグーなタイミングである。
さすが私!
クルドを急かして大急ぎで宿に駆け込んだかいがあったというものだ。
「ああ。それが何だ?客の要望に応えて案内しただけだろう」
「ですが……」
少しだけ咎めるような声を上げて、女性が口を噤んだ気配が伝わってきた。
オヤジに睨まれでもしたかな?
いかんよ!『ぱわはら』わ!
「それに他の物件だって案内してるんだ。なんの問題もない」
わずかに気持ち悪い笑い声がした。
うえぇキッモ!
「借り手のない不良物件を世間知らずのお嬢さんが借りてくれるかも知れないんだ。まったくありがたい話じゃないか」
「でも」
「だいたいなんだ。怪我でもする危険があるわけでもないだろう?ちょっとおかしな噂があるってだけで。その分賃料だって格安なんだ。それともいちいちここにはこういう噂があるんですとでも説明しろって言うのか。その噂だって大したものでもない。たかが夜な夜な女の声が聞こえるとかだったか?どうせ隣近所の声が聞こえてるんだよ」
はあん、女の声ねぇ?
それって、もしかして?
あれですか。
ゆがつく四文字だったり?
「でも若い女性なんですよ?きっと……」
「いいじゃないか。見ただろ?あの二人組。どうせ金持ちのお嬢さんが庶民の暮らしを体験してみたいとか言って家出してきたんだよ。あの子供はきっと小間使いか何かか。お嬢さんの我が儘につきあわされてるのに違うない。少しばかり怖い思いをすればサッサと家に泣いて帰るに違いない。親御さんからすればむしろ感謝されてもいいくらいじゃないか」
「……」
ザザザ。
と雑音が入り始める。
これは便利道具だけど、込められる魔力がまだ少ないものであまり時間がもたない。
「もういいだろ。ああ、お茶でも入れてくれ」
雑音に紛れて小さくなったオヤジの声。
私はパチンと指を鳴らした。
面白い情報をくれたのはいいけど、受付嬢への『ぱわはら』といい、私を我が儘扱いしたことといい、お仕置きは必要だろう。
『すぴーかー』の向こうからオヤジの切羽詰まった悲鳴が聞こえた。
別に暴力的なことは何もしていない。
役目を終えた魔法具が一つポン、と火花を散らして燃え尽きただけ。
ただその場所が襟の裏からオヤジの頭頂部に移動するようにしただけだ。
被害はおそらく頭頂部のちびっとな円形ハゲくらいのものだろう。
サイズはたぶん小皿一つ分くらいかな?
カッパみたいな素敵頭になっていてほしい。
0
あなたにおすすめの小説
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした
朝陽千早
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。
だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。
――私は静かに調べた。
夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。
嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる