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第168話 三十歳の老害上司

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「現場が終わったんなら、その足で会社に来るのが普通だろう!」
「徹夜明けで、体力的にそれは無理です」
 半分は嘘だが、半分は本当だ。事実、疲労が腰に来ている。
「はあー? オレの若い頃は、いくら徹夜が続いても、ちゃんと毎日、会社に顔を出したもんだ。たるんでるぞ!」
 佐野は吹き出しそうになる。星崎は夜間作業はもちろん、徹夜など絶対にしないからだ。昼間の施工でさえ部下に押しつけ、自分は社内でふんぞり返り、スマホでゲームをしたり漫画を読んだりとさぼり放題。
 そのうえ、星崎はまだ三十歳だ。「若い頃」と表現するには違和感がありすぎる。
 これはきっと、貫禄をつけたいから言っていると思われる。でもそれが逆に器の小ささを強調してしまっていることに気がついていない。
「しかも今日は仕事始めだ。一年のうちで一番大切な日だぞ」
 いつの時代のものの考え方だ。この若さでもう発想がジジイ。完全な老害上司だ。
「申し訳ありません。でも今日はまっすぐ帰って寝ないと明日の作業に差し支えますので」
「だめだ、だめだ! 今すぐ会社に来いッ! 社長がてめえに急ぎの話があるんだよッ」
 だんだん腹が立ってくる。疲れているのもあるが、たとえ上司でも、てめえ呼ばわりされる筋合いはない。
「急用であれば、今この電話でお願いしたいのですが」
 どうせ橋本建設の会議の件だ。下手に会社へ行けば社長室に監禁されて、星崎と社長に暴力をふるわれながら口止めの強要をされるに決まっている。
「きさまは、社長とオレ様の命令を聞けないのかッ!」 
 スマホから、とんでもない音量の怒鳴り声が飛んでくる。この口調によって、やはり会議の件だと確信する。
 焦っているのだ。これからは下請が元請を選ぶ時代だと豪語しているものの、実際に元請のリストから外されたら収入は途絶える。だからどうしても口封じがしたいのだ。しかも今度は、きさま呼ばわり。
「とにかく来い! 五分以内に来い! 一分でも遅かったら、ぶっ殺す!」  
「……」
 佐野の眉間に強い不快を表すしわが寄る。
 
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