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第221話 準備は既に整っている
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「もちろん社長には、ケイが会社を辞めたことはその日のうちにすぐ伝えた。その経緯もな」
ユキが言う。
「そして、彼ら――テナントビルの改修工事の現場責任者と技術者達――がケイの退職を知ったのは、この会議の時だ。というのも、俺も計画が思いがけず頓挫してしまい、ほとほと困っていたんで、会議の休憩時間に現場責任者へ、『佐野さんが勤務先のブラック企業ぶりに嫌気がさして、先日、会社を辞めてしまった』と何の気なしにグチったんだ。そうしたら――」
「そうしたら?」
佐野は思わず身を乗り出す。
「とても喜んで、『じゃあ早速、うちの会社に呼ぼう。準備は既に整っているから』って言うんだよ」
「準備……?」
はて。何のことやら。
佐野は当時の現場の様子を改めて事細かく思い起こす。
だが、いくら記憶を辿っても、いたたまれない空気と居場所のなさしか頭に浮かばない。
「僕、あの現場でそんなことは一言も言われなかったし、そんな空気すらありませんでしたよ。しかも、ほとんど徹夜の突貫工事だったし」
「うん。それは当然だ。なぜなら、『絶対に佐野さんには悟られないように、技術者全員と口裏を合わせていた』って言ってたから」
「口裏……」
またしても、『例』の予感。
ユキが言う。
「そして、彼ら――テナントビルの改修工事の現場責任者と技術者達――がケイの退職を知ったのは、この会議の時だ。というのも、俺も計画が思いがけず頓挫してしまい、ほとほと困っていたんで、会議の休憩時間に現場責任者へ、『佐野さんが勤務先のブラック企業ぶりに嫌気がさして、先日、会社を辞めてしまった』と何の気なしにグチったんだ。そうしたら――」
「そうしたら?」
佐野は思わず身を乗り出す。
「とても喜んで、『じゃあ早速、うちの会社に呼ぼう。準備は既に整っているから』って言うんだよ」
「準備……?」
はて。何のことやら。
佐野は当時の現場の様子を改めて事細かく思い起こす。
だが、いくら記憶を辿っても、いたたまれない空気と居場所のなさしか頭に浮かばない。
「僕、あの現場でそんなことは一言も言われなかったし、そんな空気すらありませんでしたよ。しかも、ほとんど徹夜の突貫工事だったし」
「うん。それは当然だ。なぜなら、『絶対に佐野さんには悟られないように、技術者全員と口裏を合わせていた』って言ってたから」
「口裏……」
またしても、『例』の予感。
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