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第226話 裏の顔しかない男

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「その話が表面化したのは、シュレッダー事件の翌朝だ。その作業員が頬を腫らせて現場に来たからだ」
 ユキの説明は続く。
「本人は雪道で転んだと言い張るのだが、どう見ても殴られたとしか見えない。なので、そこの現場監督は誰もいない場所でその作業員に問いただした。すると、大泣きしながらことの次第を全て説明し、顔は星崎に横流しの手伝いを断ったら殴られたのだと言った。そして、この件はどうかここだけの話にして欲しいと頼んだそうだ」
「ああー……。多分、その若い作業員とは、入社したばかりの新卒社員かと」
 佐野はその後輩の心情を思い、ひどく胸を痛ませる。そして話を続ける。
「仮にこれが先輩や同僚であれば、『いつも資材倉庫には人がいるので』とかなんとか適当なことを言って、のらりくらりと下請契約が切れる日までやり過ごすでしょう。自分だってそうします。でも、まだ社会経験の少ない新人であれば、そんな悪知恵は働かない。しかも就職難のなかでようやく採用してもらった会社となれば、上司の命令は絶対だと思い詰めてしまう。まだ立場も弱いですし」
「あいつは、そんな新人の足元を見て、命令をしたんだな」
 ユキが眉間に縦じわを寄せる。
「ええ。けれどさすがに後輩も、横流しの荷担には抵抗があった。犯罪行為ですから」
「そこで新人は勇気を奮って断った。そしたら、顔が腫れ上がるほどぶん殴られたと」
「一方の星崎も、自分のしていることが周囲に知られたらまずいので、その新人にきつく口止めをしたのでしょう。自社はもとより、元請にも、このことは絶対に言うなと」
「あいつのことだ。バラしたらクビどころか、命に関わるような脅しもしたんだろう」
「それはもう、間違いなく。なので後輩は現場監督へ、ここだけの話にして欲しいと泣いて頼んだんです。過酷な就職活動に再び身を投じるのも辛いし、星崎の仕返しも恐ろしいので」
「全く、あいつは裏の顔しかない男だな。そういえば、ケイも殴られたよな。あいつに」
「はい。星崎に意見したら、鉄拳が飛んできました」
 佐野はそう言って、今ではもうすっかりきれいに治っている左の頬を手でさすった。




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