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第225話 良からぬ話

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「うちの会社も、ほかのゼネコンも、犯人は星崎だと確信している。でも、犯行の瞬間を取り押さえるのがどうにも難しくてな。防犯カメラの位置とか、その場にいる人達の死角とかを巧妙に計算して盗むんだ。手慣れているというか、何というか、実に手癖の悪い男だよ」
 ユキが眉をしかめて言う。
「社内でもそうです。無人の時は当然として、誰かが所用でちょっと席を立った隙に、星崎はその人の机の横を通り過ぎるていで、サッと盗んでいくんです。しかも小さい物を狙うので、誰にも気づかれません」
「じゃあ、現場事務所も同じ手口だな。そのままさりげなくポケットへ入れるんだな」
「ええ。僕も買ったばかりのプリペイドカードをその方法でやられました。なので、うかつに机の上へ私物なんか置けませんよ」
「そこまで行くと、もう盗癖の域だな。それで――その泥棒野郎のことなんだが、さらに良からぬ話がほかのゼネコン仲間から流れてきてな」
「良からぬ話?」
 けれど佐野は、たいして驚かない。
 なぜなら元旦に、星崎がレイナと連れだって現場事務所へ来た時に着ていたブルゾンが、けばけばしい配色の浮世絵が全面にプリントされたもので、しかも子供には絶対に見せられない絵柄だったからだ。
 そんな野卑なデザインの服を身につけて意気揚々としている人間が、善を施すとは到底思えない。
「あの男、現場事務所の倉庫に保管している資材を自分の部下に盗ませて、それをレイナの背後にいる怪しい連中へ、横流しをしようとしたんだ」
「横流し――」
 やはりレイナ絡みか。佐野は元勤務先がレイナ一族に食い潰されつつあるのを思い出す。
「でも幸い、未遂だった。その部下――つまり古山建設の、二十代前半とおぼしき若い作業員は、さすがにそれは犯罪行為だからできませんと、その命令を拒否したからだ」





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