269 / 334
第269話 私用電話は気を使う
しおりを挟む
佐野は通話ボタンを押す前に、もの凄い勢いで思考を巡らせる。
まず、鈴木には橋本建設へ転職したことを伝えていないので、それを念頭に置いて会話をしなければならない。
次に、今は業務中である。現場事務所には技術者達がいるうえに、ユキもちょうど帰ってきたところだ。
しかも今日は正社員としての第一日目だから、極力、私用電話はしたくない――
佐野はこれらの事柄をふまえ、鈴木には悪いが話を手短に済ませ、後で連絡すると言って早々に電話を切る段取りを組む。
「すみません。すぐに終らせますので」
佐野は鳴り続けるスマホをつかんで席を立ち、技術者達に何度も頭を下げながらそう言って、玄関へと足早に向かう。
ありがたいことに技術者達は笑顔でうなずいてくれた。これが星崎だったら、罵声とともに背中へ蹴りを入れられているところである。
「もしもし」
佐野は長靴を履きながら電話に出た。
『今、どこにいる?』
その声は、かなり動揺している。
「現場事務所だよ――橋本建設の」
外に出てから慎重に答える。まだ古山建設の下請として働いていることにしておいたほうが一番無難と考えた末の返事である。
『じゃあ、今日は会社へは寄らず、部屋から事務所に直行か』
そこでいくらか落ち着いた口調になる。
「うん。そうだよ――会社には行ってない」
一月の仕事始めに星崎と大喧嘩をして古山建設を辞めて以来、移動の際は遠回りをしてでも社屋の近くを通らないようにしているほどだ。なのでこれは嘘ではない。
それにしても、なぜ鈴木はこんなにも慌てているのだろう。佐野は首をかしげる。
まず、鈴木には橋本建設へ転職したことを伝えていないので、それを念頭に置いて会話をしなければならない。
次に、今は業務中である。現場事務所には技術者達がいるうえに、ユキもちょうど帰ってきたところだ。
しかも今日は正社員としての第一日目だから、極力、私用電話はしたくない――
佐野はこれらの事柄をふまえ、鈴木には悪いが話を手短に済ませ、後で連絡すると言って早々に電話を切る段取りを組む。
「すみません。すぐに終らせますので」
佐野は鳴り続けるスマホをつかんで席を立ち、技術者達に何度も頭を下げながらそう言って、玄関へと足早に向かう。
ありがたいことに技術者達は笑顔でうなずいてくれた。これが星崎だったら、罵声とともに背中へ蹴りを入れられているところである。
「もしもし」
佐野は長靴を履きながら電話に出た。
『今、どこにいる?』
その声は、かなり動揺している。
「現場事務所だよ――橋本建設の」
外に出てから慎重に答える。まだ古山建設の下請として働いていることにしておいたほうが一番無難と考えた末の返事である。
『じゃあ、今日は会社へは寄らず、部屋から事務所に直行か』
そこでいくらか落ち着いた口調になる。
「うん。そうだよ――会社には行ってない」
一月の仕事始めに星崎と大喧嘩をして古山建設を辞めて以来、移動の際は遠回りをしてでも社屋の近くを通らないようにしているほどだ。なのでこれは嘘ではない。
それにしても、なぜ鈴木はこんなにも慌てているのだろう。佐野は首をかしげる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
81
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる