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第268話 再就職の報告にもタイミング有り
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こうして、ひとかけらも残さずユキの手作りクッキーを食べ終えると、佐野はスマホを手に取り、実家へ転職したことを伝えた。
電話に出たのは母親だ。父親はまだ会社から帰って来ていない。
母親は最初は驚いたものの、とても喜び、『お父さんにも伝えておくからね』と言って通話は終わる。
それから佐野は、しばしスマホを持ったまま視線を宙に泳がせる。
鈴木に連絡すべきか否か、迷っているのだ。
というのも、何せ転職先は大手ゼネコンの橋本建設。学生時代の就職活動では手が届かなかった大企業である。
しかもユキの紹介があるとはいえ、己の技量不足で辞めざるを得ない状況に陥る可能性はかなり高い。
もしそうなってしまえば、両親は別として、鈴木へ早々に連絡した場合、こちらが非常に恥ずかしい思いをすることになる。
でも、あの地獄のような工事部で頑張った仲である。黙っているのも水臭い。
こうして佐野は色々と悩んだあげく、入社して三か月が経過したら報告しようと決めた。その頃にはきっと、自分の立場もある程度は定まっているだろうから――と。
これが昨日の昼から夜にかけての顛末であり、その回想が終ったとほぼ同時に、窓の向こうでユキの運転する車がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
ユキが帰ってきた。
もうそれだけで佐野の胸は温かくなり、顔もほころぶ。
と、その時、佐野のスマホが鳴った。
電話だ。鈴木からである。
電話に出たのは母親だ。父親はまだ会社から帰って来ていない。
母親は最初は驚いたものの、とても喜び、『お父さんにも伝えておくからね』と言って通話は終わる。
それから佐野は、しばしスマホを持ったまま視線を宙に泳がせる。
鈴木に連絡すべきか否か、迷っているのだ。
というのも、何せ転職先は大手ゼネコンの橋本建設。学生時代の就職活動では手が届かなかった大企業である。
しかもユキの紹介があるとはいえ、己の技量不足で辞めざるを得ない状況に陥る可能性はかなり高い。
もしそうなってしまえば、両親は別として、鈴木へ早々に連絡した場合、こちらが非常に恥ずかしい思いをすることになる。
でも、あの地獄のような工事部で頑張った仲である。黙っているのも水臭い。
こうして佐野は色々と悩んだあげく、入社して三か月が経過したら報告しようと決めた。その頃にはきっと、自分の立場もある程度は定まっているだろうから――と。
これが昨日の昼から夜にかけての顛末であり、その回想が終ったとほぼ同時に、窓の向こうでユキの運転する車がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
ユキが帰ってきた。
もうそれだけで佐野の胸は温かくなり、顔もほころぶ。
と、その時、佐野のスマホが鳴った。
電話だ。鈴木からである。
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