暗躍英雄のアフターライフ

雪乃瀬

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第2章 翠玉の英雄と復讐の黒

2-6 事の顛末と早すぎる再会

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 心の中で「床を濡らしてすいません」とギルド役員さんに謝りつつ、カウンターへと向かっていく。

 そこには受付嬢さんが立っていて、僕らの一連のやり取りを眺めていたのか苦笑を浮かべていた。

 仕事はしっかりやるタイプらしい。
 僕らが近づくと、白・黒・黄色のウェイトレスのような服を着た彼女は笑みを浮かべ、

「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのいったご用件でしょう?」

 小さく礼をしながらそう言ってきた。
 僕も小さく頭を下げて挨拶をしつつ、早速本題へと切り出す。

「七年くらい前に作ったこのギルドカードなんですが、まだ使えますかね?」

 先程の冒険者達が知らなかった旧型であろうギルドカードを取り出し、茶髪ツインテールの受付嬢さんに提示する。

 彼女は「七年前……?」と言葉を反芻し、疑惑、そして驚きの目で僕をマジマジと見てくる。
 だがすぐに失礼だと気付いたのか、一言謝られてからギルドカードを手に取った。

「これは一つ古い型のギルドカードですね……って、え!?」

 冒険者ギルドの盾の紋章エスカッシャンを見た後、その裏を見た彼女は大声を上げて驚いた。

 あー、なんとなく理由は分かった気がする。
 おそらく、そこに刻まれた『等位』が原因だろう。
 ギルドカードと僕を交互に見比べる。

 なんだろう、その見た目と等位が合っていないとでも言いたげな顔は。
 気が動転しているのか、受付嬢さんが大声を上げてしまいそうになった所で、僕は唇に指を当てて制止した。

「しっ。声に出さない様に。個人情報を漏らすのはあまりよくないのでは?」
「――あっ、も、申し訳ございません!」

 表情を曇らせた受付嬢さんは深々と頭を下げた。

「いえ、大丈夫ですよ。でも次からは気を付けてくださいね?」

 僕はそんな彼女を宥めつつ、話を前に進めようと先を促す。

「それで、このギルドカードは使えるのでしょうか? 新しいのに変えるにしても、お金が掛かると思うので出来れば使えると嬉しいのですが」

 僕の問いかけに、受付嬢さんは少し心苦しそうな表情で応じた。

「申し訳ございません。ギルドカードを新しくする際、ギルドカードを読み取る法具も新しいものに差し替えたので、新規のギルドカードを発行する必要があります」
「……そうですか、分かりました。では新しいものをよろしくお願いします」
「か、かしこまりました」

 受付嬢さんはそう言ってから、「えっ……えっ?」とか呟いている。

 大方、ギルドカードに刻まれた登録日時や型が新調された年数を照らし合わせ、僕が今の等位になった時期を割り出そうとしているのだろう。

 やがて彼女は、おずおずと尋ねてくる。

「あ、あの、フェンリット様は今おいくつなんでしょう?」
「……いくつだと思いますか?」

 ここで正直に答えるのは何だか釈然としないので、僕は意地悪な顔を浮かべてそう尋ね返した。
 案の定、受付嬢さんは困った表情をして「うむむ」と唸る。

「じ、一六歳……?」
「ハズレです。答えは教えません」

 素っ気なく返して受付嬢さんを軽く落ち込ませつつ、

「それで、後二つほど要件があるのですが」
「はい……なんでしょうか」
「先日、近くの山道で山賊に襲われ、それらを殲滅しました。全員気を失っていて、山道と山の中にあるアジト――小さな洞窟の中に倒れています。もしかすれば討伐依頼が出ているかも、と思ったのですが……」

 彼女はキョトンとした顔を浮かべてから、ハッと気付いた様子で声を上げる。

「――あっ! そうです、山賊殲滅の話ですね。ええ、先日、二人の女性冒険者様からそのお話はお聞きしました」
「え?」

 聞き返すと受付嬢さんは人差し指を頬に当てて、あざとい考える仕草を見せながら、

「確か……アリザ様とリーネ様、でしたか。フェンリットという冒険者が来たら、山賊殲滅の報酬を渡してくれと頼まれました」
「そうだったんですか」

 あの二人には感謝をしなければいけない。
 おそらく、既にギルドが確認に向かったのだろう。

 本来ならば報告→確認→報酬となっているので、報酬をもらえるのは今日の午後辺りだと思っていたが、もしかしたら今にでも金が手に入るかもしれない。

 昼食は少し豪華にいこう。

「それで今朝、ギルドから役員を派遣して確認に向かわせたのですが……既に山賊達の姿はありませんでした」
「既になかった……?」

 どういうことだ。
 僕は確かに、【咆哮ロア】で気を失わせてあそこに放置したはずだ。
 効き目が浅くて、逃げられた? もしくは――、

「彼等はおそらく、一人残らず魔物に喰べられたのだと思います」

 運が良いのか悪いのか。
咆哮ロア】で昏睡している状態なら、痛み無くして逝けただろう事が唯一の救いかね。

「痕跡を見受けられましたし、報酬は出させていただきます。ギルドとしては、『誰が山賊団を殲滅したか』よりも『山賊が殲滅されたという情報』の方が大事なので。勿論、一番尊重されるのは『実際に討伐した方』ですが、それが魔物ならば話になりませんし、アリザ様とリーネ様以外にこの事を報告してくる方もいないので」

「分かりました」

 実際、山賊団の全ての構成員が死んだという確証は取れない。
 ただ確認に出たギルド役員から見て、危険が薄れているというのは確かなのだろう。

 近辺の町の冒険者ギルドにはこの後、山賊出現の危険が減ったと報せが届き、時間経過とともに話が風化していくはずだ。

「これが報酬です」

 カウンターに乗せられたのは、両掌の上に乗せられる程の布袋。
 ジャラリと音が鳴る。

 結構な額が入っていると思う。
 確かにあの親玉は実力者だった。
 彼一人でも懸賞金は高かったのだろう。

 僕はそれを受け取ってから、今度は自分の懐から布袋を取り出す。
 道中に集めた魔結晶マナスフィアが入ったものだ。

「では、これの換金をお願いしていいですか」
「承りました」

 受付嬢は袋から魔結晶マナスフィアを取り出していく。
 大きさがまちまちなそれらは全て、魔力の内包量が違っている。

 加工された魔結晶マナスフィアをはめ込み、その中にある魔力を利用して使われる法具が多いため、
 需要は無くならないのだ。

 夜の町に明かりを灯す法具などが代表的である。

 換金が終わり、渡された貨幣を布袋に詰める。
 取りあえずの目的は完遂した。
 受付嬢さんに礼を言ってから、僕らは踵を返す。

「さて、どうしようか」
「まずは食事をしませんか? 私、久しぶりにまともな料理が食べたいです」
「確かに移動中は保存食がメインだったからなあ」


「こんにちわ、フェンリット君」


 適当にシアと話しながら歩いていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
 その方向を視線で辿ると、そこにいたのはやはり見覚えのある二人の女性と、もう一人。

「こんにちわ、皆さん。次に出会う事が合ったら、なんて言ったくせに早速会ってしまいましたね」

 僕が苦笑しながら言うと、声を掛けてきた金髪清楚な女性――リーネさんが微笑みながら、

「フェンリット君を見つけてから、受付嬢さんと話し終わるのを待ってたの」
「そうだったんですか。少し長話をしてしまったので、待たせてしまって申し訳ないです」
「いいのよ、それくらい気にしなくたって」

 割って入ってきたのは、赤紫の髪が特徴のアリザさんだ。
 二人の名前を思い返している内に、僕は受付嬢さんから聞いた話を思い出す。

「そういえば、山賊討伐の件、報告ありがとうございます。手間が省けました」
「最初は迷惑かなぁと思ったんだけど、リーネが大丈夫って言うからね」
「ありがとうございます。今日は早速、貰ったお金で贅沢をしようと思ってました」
「その事なんだけど」

 アリザさんが一歩前に出てきて、僕の肩に手を置いた。
 首を傾げていると、彼女はギルドの出口に親指を向けながら、

「もし昼食がまだなら、今日は昨日のお礼も兼ねて良いお店を案内と思って。どうかな?」
「それはありがたいですね」

 流石にどこで昼食をとるかまでは決めていなかったので、オススメを紹介してもらえるならば嬉しい限りだった。

 シアも乗り気なようで、隣で小さな手を握りしめている。

「では、よろしくお願いします」
「任せて」

 リーネさんが嬉しそうにそう言ってくるので、僕までも薄らと笑ってしまった。
 それと、と付け足す様にアリザさんが言う。

「こちらがあたし達パーティの要――」

 アリザさんに背中を押されて前に出たのは、濡羽色の長髪を結んでポニーテールにした女性だった。

 歳の頃は……大体僕と同じくらい。
 濃い青色の瞳は透き通っていて、誠実そうな顔つきをしている。

 要所に攻撃から身を守る鎧を付けた、動きやすい紺色のコートを羽織った彼女は、丁寧に礼をしてからこう言った。

「初めまして、フェンリットさん、シアさん。私はアマーリエ=セルレスカ。先日は二人を助けていただき、本当にありがとうございました」
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