「リリー」

『むらさき』

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読み切り短編

「おばさん」と言った令嬢に復讐する

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 かつて、遥か彼方の国に、アイリーンという名の令嬢がいた。彼女はその鋭い目と堂々たる態度で、多くの人々を圧倒していた。しかし、その心の内には、深い愛と繊細さが隠されていた。

 彼女の恋人であり、地位も名誉もある伯爵ルドルフは、彼女の心の支えであった。だが、その愛はある日、裏切りによって粉々に砕かれる。

 ある晩、アイリーンは、ルドルフが八方美人の令嬢レナと密会しているのを目撃した。その瞬間、アイリーンの世界は暗闇に包まれた。さらに屈辱的なことに、レナからは「おばさん」呼ばわりされていた。

 アイリーンは、その夜、自室に戻り、涙にくれながらも、復讐を決意した。彼女の心は痛みに満ちていたが、同時に冷静な計算と策略で満たされていく。ルドルフとレナに対する復讐の炎は、静かに、しかし確実に燃え上がり始めた。

 翌日、アイリーンはまず、ルドルフとレナの弱点を探り始める。彼女は、自らの情報網を駆使し、ルドルフが部下から本当の信頼を得ていないこと、レナが父親の財産を無駄遣いしていることを突き止めた。そして、彼女はある計画を思いつく。それは、一つの噂から始まった。

「ある山に、莫大な金が眠っているという話を聞いたことがあるかい?」

 この一言が、すべての始まりだった。

 ◇

 レナは、父親の豪奢な書斎に足早に入り、興奮を隠せずに話し始めた。

「父上、聞いてください!この町で最近噂になっている、あの金山の話。あのおばさんも、その山を大金で買おうとしているらしいのです」

 父親は、重厚な革張りの椅子に深く腰掛けながら、娘の言葉に耳を傾けた。彼は、レナがよく言う「アイリーンおばさん」という言い方にいつも苦笑いを隠せないでいたが、今は彼女の言葉に深い関心を示していた。

「金山だと?本当にそんなものがあるのか?」父親は、眉をひそめながら尋ねた。

 レナは、自信満々に答えた。

「はい、確かです。あのおばさんが興味を持っているなら、間違いなく価値があるはずです。私たちが手を打たなければ、彼女が先に手に入れてしまいますよ」

 父親は、しばし沈黙した後、慎重に言葉を選びながら話し始めた。

「レナ、その山を手に入れることができれば、我が家の財産は大いに増えるだろう。しかし、もし失敗したら、私たちはすべてを失うかもしれない。本当にそのリスクを冒す価値があると思うのか?」

 レナは、熱意を込めて父に迫った。

「父上、チャンスは今しかありません。おばさんに先を越されるわけにはいきません。私たちがその山を手に入れれば、きっと莫大な富を得られるはずです。私たちの未来のためにも、ぜひとも賭けてみてください」

 父親は、娘の瞳に映る情熱と確信を見て、深いため息をついた。そして、ゆっくりと頷き、「わかった、考えてみる」と答えた。

 レナは、勝利を確信したように笑みを浮かべ、父親に感謝の言葉を述べた。

 ◇

 レナは、市場の賑わいの中でアイリーンを見つけ、彼女に近づいた。アイリーンは、市民と談笑しながら、何気ない日常を楽しんでいるように見えた。レナは、その平穏な様子に内心で苛立ちを感じつつも、表面上はにこやかに声をかけた。

「アイリーン様、こんにちは。まあ、こんなところでお会いするなんて、偶然も奇妙ですわね。」

 アイリーンは、レナの声に振り返り、静かに微笑んだ。

「レナ様、こんにちは。ええ、確かに偶然ですね。何かお探しですか?」

 レナは、意図的に嫌味を込めた口調で答えた。

「いえ、特に。ただ、あなたがここにいるとは思わなかったの。ルドルフ様とのお付き合いは、順調なんですか?」

 アイリーンの表情は変わらず、彼女は冷静に答えた。

「ありがとうございます。私たちのことを気にかけてくださって。しかし、私たちの関係は、他人が気にするようなものではありません。それに、私たちはお互いの道を尊重しています」

 レナは、アイリーンの落ち着いた態度に内心でいら立ちを感じながらも、表面上は笑顔を保った。

「なるほど、それは素晴らしいことね。でも、私たちは金山を手に入れようとしているの。あなたが興味を持っていると聞いたけれど、私たちが先に手に入れるわ」

 アイリーンは、その言葉にも動じることなく、静かに答えた。

「それは、どうなるかわかりませんね。何が起こるかは、時の流れに委ねられています。レナさんも、無理をなさらずに」

 言葉を交わした後、レナはアイリーンを一瞥し、その場を後にした。

 ◇

 数日が過ぎ、レナは金山の価値が予想以上に高騰していることを知り、驚愕した。彼女は、この機会を逃すわけにはいかないと決意し、どうしても手に入れなければならないと感じた。しかし、そのためには莫大な資金が必要であり、父親からの資金だけでは足りないことを悟った。

 そこで、レナはルドルフと密会することにした。密会の場所は、町のはずれにある古い屋敷で、二人きりで話すにはぴったりの場所だった。

「ルドルフ、私はあなたの助けが必要なの。金山の価格が急騰していて、今が買い時なの。でも、足りない資金をどうにかする方法が見つからないの」と、レナは切実に話し始めた。

 ルドルフは、レナの言葉に驚きながらも、彼女の瞳に映る真剣な光を見て、深刻な様子を察した。

「どれほどの金が必要なんだ?」

「大金よ。でも、私たちがこのチャンスを掴めば、後日倍にして返せるわ。非合法な手段でも、金を工面してほしいの。あなたなら、方法を知っているはずよ」と、レナはルドルフに頼み込んだ。

 ルドルフは、しばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。

「わかった、レナ。君のためなら、何でもする。しかし、この行動には大きなリスクが伴うことも理解してほしい。だが、君がそう望むなら、私は力になろう」

 レナは、ルドルフの言葉に安堵の息を吐き、彼に深く感謝した。

「ありがとう、ルドルフ。あなたがいてくれて、本当に心強いわ」

 ルドルフは、レナのために非合法な手段で金を工面することに同意したが、その決断が後にどのような結果を招くのか、その時点では誰にも予測できなかった。

 ◇

 金山を手に入れたレナは、その勝利を確信し、満足げに高笑いした。彼女は、この投資が自分たちの未来を確実に豊かにすると信じて疑わなかった。

 しかし、その後数か月が経過しても、金山から金が取れないという報告が相次いで届いた。最初は、単なる運の問題か、作業の効率が悪いからだろうと考えていたレナだったが、次第にその深刻さを理解し始めた。

 そしてある日、レナの父親が重苦しい表情で彼女のもとを訪れた。彼は、ルドルフが国庫から金を盗んで金山購入の資金を工面していたことが発覚し、その罪で部下から糾弾され、投獄されたと告げた。

「ルドルフが...どうして...」

 レナは言葉を失い、衝撃と混乱で言葉も出なかった。彼女はルドルフが非合法な手段を使うことを承知の上で頼んだが、こんな結果になるとは夢にも思っていなかった。

 父親は深いため息をついた。

「レナ、これは深刻な問題だ。ルドルフが国庫から金を盗んだという事実は、我々の家族にも大きな影を落とす。彼の行動が我が家の名誉を汚すことになる。そして、金山から金が取れないというのも、事態をさらに悪化させている」

 レナは、自分の短絡的な判断と行動が引き起こした結果に、深く後悔した。彼女はルドルフを助け出すことを考えたが、その方法も見つからず、絶望感に苛まれた。

 ◇

 後日、アイリーンのもとに執事がやってきて、重苦しい知らせを伝えた。レナ、彼女の父親、そしてルドルフが処刑されたというのだ。この衝撃的なニュースを、アイリーンは驚くほど冷静に受け止めた。

 そして、執事からルドルフの元部下であったジョセフからの手紙を渡された。

 ルドルフの過ちを糾弾し、正義のために戦ったジョセフは、今や不正を正した英雄として広く認識されていた。彼の手紙には、ルドルフの不正を事前に正せなかったお詫びと、アイリーンの告発への深い感謝の気持ちが綴られていた。

 「貴女の立場において、不肖ルドルフが犯した過ちを考えると、心からのお詫びの言葉も見つかりません。しかし、私たちは過去に縛られるのではなく、それを乗り越え、より良い未来を築くために努力しています。貴女の知恵と勇気に深く感謝しております。もしよろしければ、私の感謝の気持ちを直接お伝えしたく、お茶をご一緒にいただけないでしょうか」

 ジョセフの手紙を読み終えたアイリーンは、しばらくの間、手紙をじっと見つめていた。そして、突如、彼女は高らかに笑い始めた。その笑い声は、部屋中に響き渡り、執事さえも驚かせるほどだった。
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