上 下
32 / 33

最終話「いつまでも一緒」(※赤井翼先生のゲスト執筆です!)

しおりを挟む
最終話「いつまでも一緒」
 拓海と海斗がどうしても見たかった、2種類のサメはなかなか出会うことができなかった。事前に調べていたオグロメジロザメとホワイトチップシャークの出現しやすいスポットは、少し先だった。残存酸素が30分あることを確認し、もう一潜りしてサメを探しに行くことにした。軽い流れの中で三人は、カレントフックをかけた。
 拓海を先頭に七海、海斗がそれに続いた。前方の魚群が急に下方に流れた。「!」拓海が後方のふたりに「ストップ」のサインを送った時には遅かった。急激な潮の流れが3人を襲った。あっという間に潮に流され、拓海と海斗のカレントフックから繋がったロープが伸びきり、潮流の中で体が止まった。「あっ!」っと思った瞬間、七海だけが、更に流されていくのが視界に入った。最後にロープの端のねじ式のカラビナが目に入った。水中眼鏡越しの不安な顔を残し、七海は流されていった。

 (クニオのやつ、きちんとカレントフックロープのロックをしてなかったんや!)と拓海が考えると同時に、海斗は、ふくらはぎに着けたダイバーナイフでロープを切ろうとしていた。ロープは簡単には切れず、七海の姿は視界から消えた。ロープを切った海斗は拓海のロープも切り、ふたりで七海の後を追った。
 海底潮流に合わせて、ふたりは周囲に目を凝らしながら先を追った。5分ほど流されると、潮流は弱まった。
 約10ノットの潮流として、5分間の漂流は直線距離にすると約1.5キロになる。拓海と海斗は左右に視線を分け、七海を探した。10分、20分と捜索する間にもボンベの酸素残量のメーターはどんどん減っていく。

 (七海さんのボンベももう切れるころや…。ウエイトとボンベを外して海面に上がってるかも…。)と空になったタンクを背負ったまま海面に上がった。視力2.0のふたりの四つの眼をもってしても、半径500メートル以内に海面に出ていれば出ているであろう七海の頭部の影は見えなかった。
 やむを得ず、拓海と海斗は5分のタイムラグをあけ、エマージェンシーキットの中の信号弾を上空に向けて発射した。七海もそれに気づけば、信号弾を上げるだろうと期待したが、七海の信号弾は上がることが無かった。2発目の信号弾が着水する前に、クニオの操縦するジェットボートが拓海と海斗をピッキングした。その後、燃料が尽きる直前まで、近海領域を捜索したが七海は見つからなかった。クニオは水上警察に連絡を入れた。周辺のガイドにも目撃情報を求めた。しかしガイド仲間も水上警察が捜索に飛ばしたドローンも七海を発見することはできなかった。
 
 夕方、日本領事館の担当者がホテルに来たが朗報は得られなかった。翌日の観光はキャンセルし、丸一日、拓海と海斗は領事館と警察からの連絡をホテルの部屋で待った。しかし、帰国日に至っても何の情報も得られなかった。
 領事館員に空港に送ってもらい、七海の荷物は期限付きで領事館で預かってもらうことになった。
 失意の中、拓海と海斗は七海無しのふたりでの帰国となった。

 1週間後、外務省に拓海と海斗は七海の消息を問い合わせたが、生存の情報も遺体発見の情報も得られなかった。2週間後、ふたりで七海のマンションを訪れたがポストには多数のチラシと郵便物がはみ出るほど詰まっていた。
 七海のマンションの前にある公園のブランコにふたりで腰掛けた。
「なぁ、海斗…、七海さんってもしかしたら、竜宮城のお姫様やったんとちゃうんかなぁ…。海斗はどない思う?」
「はぁ?拓海、お前頭沸いてしもたんとちゃうか?竜宮城のお姫様って、そんな子供のおとぎ話を信じてるんかいな?そりゃ、七海さんがいなくなってしもたって僕も信じたくはないけどな…。」
 真面目な顔で海斗に語りかける拓海の言葉に海斗がぞんざいに返しかけたが拓海の顔を見て言葉を濁した。
 
 「僕な、きっと七海さんは「海」が好きな僕らに、「女の人」と「海の怖さ」を教えるために現れた天女様とちゃうかって思うことがあんねん。そもそも、ふたりの童貞を卒業させてもろただけやなくて、パラオまで連れて行ってくれたんやで。
 そんなん、「天女様」か「海の女神様」か「竜宮城のお姫様」くらいやろ。きっと、僕らを導き終わって、ブルーコーナーのアオウミガメに乗って竜宮城に帰ったとしか思われへんねんけどな…。」
拓海が、空を仰ぎながらつぶやくと海斗も応じた。
「そういわれたらそうかもしれへんな。七海さんみたいに美人が僕らみたいにさえへん高校生を相手にすることなんかあれへんよな。なんか、僕もそんな気になってきたわ。あんな美人が僕ら何かを相手にするわけあれへんわな。」

 自然とふたりの目から涙が溢れた。拓海と海斗はブランコを漕ぎながら叫んだ。
「七海さーん!ありがとー!好きでした!ホンマに好きでしたー!もう会われへんのはめちゃくちゃ辛いけど、成仏してくださいー!さよなら―!」
「僕も一緒でーす!七海さんと会えてよかったです!七海さんのせいで他の女には興味なくなってしもてしもたけど、最初の人が七海さんでよかったですー!」
 突然、漕いでいたブランコが止められた。背中から強い圧力を感じた。そこに七海が立っていた。

 「おいおい、拓海君も海斗君も人を死んだみたいに言わんとってーや!あの時、流されて、ペリリュー島の漁船に救われたんやけど、日本語がわかる人がおれへんかって、そのまま7日間の漁に付き合わされて大変やったんやで!スマホは防水ケースが流されたときにサンゴ礁に擦れて水没して、拓海君も海斗君の連絡先が分からへんようになるし、担当の領事館員は、感染症にかかって面会不可になってたし、そりゃもうどないしようもなかったんやから…。
 まあ、助けてくれた船の人らは、私が日本人やってわかって、凄く優しくもてなしてくれたんやけどな。毎日、見たことない魚の刺身三昧やったんやで!
 ペリリュー島に戻って、イソロクさんに連絡とったら、クニオのミスやったからってお詫びでいろいろ接待してくれてな!
 ペリリュー島の観光に連れていってもろたり、最後には、地元のインストラクターでもまともにガイドできへんって言われてる潮読みが難しい上級者向けの「ペリリューコーナー」も一緒に潜ってくれたんやで!
 凄い激流やったけど、そりゃ、イソロクさんのガイドでばっちりやったわ!今度行くまでに、「上級資格」とってまた3人で行こな!
 それはともかく、私は生きてたし、海斗君が他の女に興味が無くなったからって、二人がホンマのゲイカップルになられたら嫌やから今から「する」か?2週間空いたから、なんぼでもいけるやろ!私も、久しぶりに「女」に戻りたいしな!」
とふたりの背後から二人を「ギュっ」と抱きしめた。

 拓海は鼻水を垂らしながら、海斗は泣きじゃくりながら
「七海さん、ホンマに七海さんですよね!あー、生きててよかったー!もう、僕の身も心も捧げますんで「何でも」言いつけてください!ずるるるる。」
「うわーん、七海さーん!また会えてよかったです!生きてたお祝いに何でもしますんで、「好きに」言うてください!」
と七海に抱き着いた。七海はにやりと笑って、ふたりに言った。
「拓海君は「何でも」、海斗君は「好きに」って言うてくれたよな!じゃあ、今から、私を「天国」に連れて行ってもらおうかな?パラオのスタイルで「ポリネシアンセックス」っていう、激しく動かんとねっとりゆっくりと入れたままイチャイチャするスタイルがあんねんけど、それを今晩は試してもらおうかな!
 そうとなったら、まずは、ご飯やな!何食べたい?一緒に買い物行くで!あんたらに彼女ができるまで、これからもずっと3人でいつまでも一緒やからな!」
「はい!喜んで!一生ペットでいさせてください!」
「うん、僕もペット2号として七海さんについていきます!」
元気に答える二人と腕を組み、七海は最高の笑顔でスーパーに買い出しにむかった。       

おしまい




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

自由時間720hours~北の大地ののんびりコラム~

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:781pt お気に入り:12

あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:37

ニコニココラム「R(リターンズ)」 稀世の「旅」、「趣味」、「世の中のよろず事件」への独り言

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:28

処理中です...