2 / 3
中編
しおりを挟む
公園の出口の手前にたむろしていた四人ほどの集団を避けて公園を出ようとした。その先はすぐに駅があり、着替えることのできる場所もあるし、タクシーを拾えば帰るのもすぐだ。
だが、彼女の道を塞ぐように、たむろしていた中の一人が立ち塞がった。狙っていたという感じではなく、小走りに来る若い女性にちょっかいを出そうという程度のものだったのだろう。
だが、そういう事に慣れていない彼女は、過剰に反応してしまい、結構大きめの声で相手をなじってしまった。
一瞬は怯んだものの、彼女の発した言葉もあり、仲間の手前もあってか大きな態度にでてきた。
「おいおい、別に何かしようて言うんじゃねえんだ。そう大声を張り上げることもないだろう」
「急いでるの。どいて」
「今から急いでどこに行くってんだよ」
多少はアルコールも入っているのだろう。それに相手は女性一人で自分らは四人もいる。まだ残る三人は寄ってきてはいないが、遠巻きに状況は見ている。
駅の方からは離れてしまうが、別の通りに行くしかないと思い、彼女は走ろうと体勢を変えた。しかし、仲間の方がそれを察していたのか、真ん前ではないが行こうとした方向にいた。体は抜けられるかもしれないが、バッグの下げ紐を掴まれたらどうにもならない。バッグには身分証も入っている。自分がこの時間にこの場所にいたということの証拠になってしまう。簡単に手放すわけにはいかなかった。
いよいよ切羽詰まった状況になったかと思った時、公園の方から声がした。
「おまわりさん、こっちです」
その声を聞いて、四人組は散り散りに逃げ出した。自分らが良くないことをしているという意識はあったのだろう。だが、彼女も今警察の厄介になるわけにはいかない。いかないと解っているのだが、足がすくんでしまい、動けなかった。そしてその場に座り込んでしまう。
誰かが走ってくる足音が聞こえた。警官だろうか。
ああ、これでもう屋敷から出してもらえなくなるのかと思い、絶望というのではないが、暗鬱とした気分になった。
「大丈夫ですか」
声がして顔を上げると、そこにいたのは警官ではなく、エプロンをした男性だった。
「君は…リュカの店にいた…」
あのバーの女店主の名前である。男はあの時配達に来ていた教授(?)であった。
「あ…ありがとう…」
普段であれば、ありがとうございます、まで言っていたところだろうが、まだ気が動転していた彼女はそれが精一杯だった。
「ケガかないか」
「は…はい。無理矢理掴んでくるような事はなかったんで」
「それは良かった。立てるか」
彼女はゆっくり立ち上がった。だが、今になって急に震えがきた。
「心配ない。見たことのある連中だ。あんな風にからかいはするものの、乱暴なことはしないよ」
「でも、怖かった」
「まあ、こんな時間に暗い夜道にいる事もどうかと思うところもあるがね」
「ごめんなさい」
その点については、素直に謝った。屋敷を抜け出したり、色々とやらかしている彼女は気持ちに負い目もあったのだろう。
「名前を聞いてもいいかい。私はメンデル・セイローだ」
「セイコ・クレイオス…」
まだ気が動転しているセイコはつい言ってしまってから、ハッとして口を押さえた。クレイオスの名前と、その様子を見てメンデルは色々と察したようだ。
「あー、その、なんだ。これからはあまり遅い時間に一人歩きとかはしないことだ。家まで送って行くか?」
メンデルの言葉が微妙にゆらぐ。相手が何者かと解ったというだけではない感じなのだが。
「…荷物をコインロッカーに入れたままなの」
「それくらいなら付き合うよ」
セイコは駅前のコインロッカーから荷物を取り出し、着替えてメイクを落とした。
メンデルのところへ行くと、流石に驚いたようである。
「はああ。変わるもんだねえ。あとは、どうする? 送っていってもいいが」
「あの…お願いします」
酒屋のバンに乗って、屋敷へと向かう。クレイオスの名前を聞いて、西の丘の大邸宅を連想しないのは、よそ者であろう。
この地域の名士であり、先祖はこの国の建国に関わった十傑の一人である。昨今は大きな話は聞かないが、国においても有名人と言える家柄である。そんな家の娘がこんな奔放なことをしていると知れたら、ゴシップ誌にとっては格好のネタであろう。
「正面玄関はまずいんだろ。どこからどうするかは知らんが、どこで降ろしたらいいんだ?」
「二丁目のコンビニがあるでしょ。あそこでいいわ」
「あいよ」
メンデルはそれ以上特に話はせずに運転していた。
目的地のコンビニに到着した時、今一度メンデルは確認をとった。
「本当にここでいいのかい」
「うん。ありがとう。助けてくれた事にも、ありがとう。おかげでまたライブにも行けそうだよ」
「今度は帰り道には気をつけてな」
メンデルはセイコを置いて車を出した。
セイコはコンビニで足らなくなったメイク道具を買って帰途に着いた。邸宅の正面玄関ではなく、少し離れた家に入る。家人はいないが、整理された場所で、その家のトイレに入ると、中はトイレの装備はなく、また扉があった。そこの鍵を開けて入ると、屋敷までの抜け道がある。この抜け道を知ったのは多分に偶然もあった。それとなく聞いたことはあるが、このことを知っていたのは執事だけで、両親も兄も全く知らなかった。
だが、彼女の道を塞ぐように、たむろしていた中の一人が立ち塞がった。狙っていたという感じではなく、小走りに来る若い女性にちょっかいを出そうという程度のものだったのだろう。
だが、そういう事に慣れていない彼女は、過剰に反応してしまい、結構大きめの声で相手をなじってしまった。
一瞬は怯んだものの、彼女の発した言葉もあり、仲間の手前もあってか大きな態度にでてきた。
「おいおい、別に何かしようて言うんじゃねえんだ。そう大声を張り上げることもないだろう」
「急いでるの。どいて」
「今から急いでどこに行くってんだよ」
多少はアルコールも入っているのだろう。それに相手は女性一人で自分らは四人もいる。まだ残る三人は寄ってきてはいないが、遠巻きに状況は見ている。
駅の方からは離れてしまうが、別の通りに行くしかないと思い、彼女は走ろうと体勢を変えた。しかし、仲間の方がそれを察していたのか、真ん前ではないが行こうとした方向にいた。体は抜けられるかもしれないが、バッグの下げ紐を掴まれたらどうにもならない。バッグには身分証も入っている。自分がこの時間にこの場所にいたということの証拠になってしまう。簡単に手放すわけにはいかなかった。
いよいよ切羽詰まった状況になったかと思った時、公園の方から声がした。
「おまわりさん、こっちです」
その声を聞いて、四人組は散り散りに逃げ出した。自分らが良くないことをしているという意識はあったのだろう。だが、彼女も今警察の厄介になるわけにはいかない。いかないと解っているのだが、足がすくんでしまい、動けなかった。そしてその場に座り込んでしまう。
誰かが走ってくる足音が聞こえた。警官だろうか。
ああ、これでもう屋敷から出してもらえなくなるのかと思い、絶望というのではないが、暗鬱とした気分になった。
「大丈夫ですか」
声がして顔を上げると、そこにいたのは警官ではなく、エプロンをした男性だった。
「君は…リュカの店にいた…」
あのバーの女店主の名前である。男はあの時配達に来ていた教授(?)であった。
「あ…ありがとう…」
普段であれば、ありがとうございます、まで言っていたところだろうが、まだ気が動転していた彼女はそれが精一杯だった。
「ケガかないか」
「は…はい。無理矢理掴んでくるような事はなかったんで」
「それは良かった。立てるか」
彼女はゆっくり立ち上がった。だが、今になって急に震えがきた。
「心配ない。見たことのある連中だ。あんな風にからかいはするものの、乱暴なことはしないよ」
「でも、怖かった」
「まあ、こんな時間に暗い夜道にいる事もどうかと思うところもあるがね」
「ごめんなさい」
その点については、素直に謝った。屋敷を抜け出したり、色々とやらかしている彼女は気持ちに負い目もあったのだろう。
「名前を聞いてもいいかい。私はメンデル・セイローだ」
「セイコ・クレイオス…」
まだ気が動転しているセイコはつい言ってしまってから、ハッとして口を押さえた。クレイオスの名前と、その様子を見てメンデルは色々と察したようだ。
「あー、その、なんだ。これからはあまり遅い時間に一人歩きとかはしないことだ。家まで送って行くか?」
メンデルの言葉が微妙にゆらぐ。相手が何者かと解ったというだけではない感じなのだが。
「…荷物をコインロッカーに入れたままなの」
「それくらいなら付き合うよ」
セイコは駅前のコインロッカーから荷物を取り出し、着替えてメイクを落とした。
メンデルのところへ行くと、流石に驚いたようである。
「はああ。変わるもんだねえ。あとは、どうする? 送っていってもいいが」
「あの…お願いします」
酒屋のバンに乗って、屋敷へと向かう。クレイオスの名前を聞いて、西の丘の大邸宅を連想しないのは、よそ者であろう。
この地域の名士であり、先祖はこの国の建国に関わった十傑の一人である。昨今は大きな話は聞かないが、国においても有名人と言える家柄である。そんな家の娘がこんな奔放なことをしていると知れたら、ゴシップ誌にとっては格好のネタであろう。
「正面玄関はまずいんだろ。どこからどうするかは知らんが、どこで降ろしたらいいんだ?」
「二丁目のコンビニがあるでしょ。あそこでいいわ」
「あいよ」
メンデルはそれ以上特に話はせずに運転していた。
目的地のコンビニに到着した時、今一度メンデルは確認をとった。
「本当にここでいいのかい」
「うん。ありがとう。助けてくれた事にも、ありがとう。おかげでまたライブにも行けそうだよ」
「今度は帰り道には気をつけてな」
メンデルはセイコを置いて車を出した。
セイコはコンビニで足らなくなったメイク道具を買って帰途に着いた。邸宅の正面玄関ではなく、少し離れた家に入る。家人はいないが、整理された場所で、その家のトイレに入ると、中はトイレの装備はなく、また扉があった。そこの鍵を開けて入ると、屋敷までの抜け道がある。この抜け道を知ったのは多分に偶然もあった。それとなく聞いたことはあるが、このことを知っていたのは執事だけで、両親も兄も全く知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
戦いの終わりに
トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。
父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。
家には、母と幼い2人の妹達。
もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで…
そしてマーガレットの心には深い傷が残る
マーガレットは幸せになれるのか
(国名は創作です)
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる