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2話 やり直したい人生
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「花井さんは、なぜ以前の会社を退職されたのですか?」
四十代ぐらいの男性面接官と向かい合い、小さな部屋での面接。ほとんど表情が変わらない面接官は、しっかりと私を見据える。
それを聞いた瞬間、頭が真っ白になってしまった。
「え、と。それは……」
前の職場の退職理由を聞かれるなんて、基本中の基本。当たり前に聞かれること。
だから、しっかり予習してきた。それなのに、いざ答えようと思ったら、何も言葉が出てこない。
半年前までは、私は銀行員として働いていた。
でも、ギスギスした最悪の人間関係に耐えられなくなって、辞めちゃったんだ。
表では仲良しの振りをしていても、裏ではお互いの悪口を言い合う社員。そういう空気が苦手で他の社員と距離を置いてたら、いつのまにか完全に孤立してて……。
正直あまり思い出したくないし、こんなこと正直に答えたら印象が悪くなる気がする。
「本日はお忙しいなかありがとうございました。面接の結果は、追って連絡させて頂きます」
私が答えられないでいる間に、面接が終わってしまう。面接官は軽く息をつき、部屋から出るように私を促した。
◇
どんよりとした気分のまま帰宅すると、リビングでテレビを見ていたお母さんと目が合った。
「どうだった?」
「……うん」
答えになっていない答えを返す。
お母さんも何かを察したのか、それ以上は聞いてこない。しばらくして、お母さんはおもむろにソファーから立ち上がった。
チェストの引き出しをゴソゴソしていたと思ったら、お母さんはそこから長方形のベージュの額縁を取り出し、それを私に差し出した。
「何? これ」
「すごく誠実で優しい人らしいのよ。お勤めもちゃんとしたところだから安心だし、良かったら一度会ってみない?」
お見合い写真?
結婚するつもりはないけれど、とりあえず中を開いてみる。
そこには、髪の毛が大幅に後退した小太りの五十代ぐらいの男性が写っていた。
そっと額縁を閉じて、無言でそれをお母さんに返す。
「ごめん、私の好みとは少し違うみたい」
「どこがダメなの? 一度会ってみるぐらい、良いじゃない」
「どこがって……、年も離れてるし。それに、あんまりお見合いとか興味ないから」
相手の男性に失礼にならないよう、慎重に言葉を選びながら縁談?を断る。
「彼氏がいるの?」
「彼氏……は、いない」
「それなら、会うだけ会ってみたら? お仕事が見つからないのなら、他の道も考えてみてもいいんじゃない?」
「他の道も何も、今は女性も働く時代だし。それに仕事が見つからないからって、結婚に逃げるつもりもないよ」
好きな人と結婚して、それで話し合ってどっちかが家庭に入るのなら、私としても全然アリだけど。いくら切羽詰まってるからって、申し訳ないけどさっきのお見合い写真の男性とは結婚出来ない。
私の発言を聞いたお母さんは視線をさまよわせ、それから私をじっと見つめた。
「でも、無職でしょ?」
……うっ!
そうだよね。手に職があったり、まともに働いてる人が言うのならともかく。「今は女性も働く時代だから(キリッ)」なんて、無職がどの口で言ってんだって話だよね。まずはちゃんと職見つけてから言えって話だよ。
ためらいがちだったにしろ、はっきりと耳に届いたお母さんの言葉。RPGだったら、今の発言で私は瀕死になっていたに違いない。
「たしかに無職だし才能も夢もないし、おまけに彼氏もいないし、コミュ障のダメ人間だよ。それでも、その人とは結婚できない」
一気にまくしたて、私は自室に戻った。
四十代ぐらいの男性面接官と向かい合い、小さな部屋での面接。ほとんど表情が変わらない面接官は、しっかりと私を見据える。
それを聞いた瞬間、頭が真っ白になってしまった。
「え、と。それは……」
前の職場の退職理由を聞かれるなんて、基本中の基本。当たり前に聞かれること。
だから、しっかり予習してきた。それなのに、いざ答えようと思ったら、何も言葉が出てこない。
半年前までは、私は銀行員として働いていた。
でも、ギスギスした最悪の人間関係に耐えられなくなって、辞めちゃったんだ。
表では仲良しの振りをしていても、裏ではお互いの悪口を言い合う社員。そういう空気が苦手で他の社員と距離を置いてたら、いつのまにか完全に孤立してて……。
正直あまり思い出したくないし、こんなこと正直に答えたら印象が悪くなる気がする。
「本日はお忙しいなかありがとうございました。面接の結果は、追って連絡させて頂きます」
私が答えられないでいる間に、面接が終わってしまう。面接官は軽く息をつき、部屋から出るように私を促した。
◇
どんよりとした気分のまま帰宅すると、リビングでテレビを見ていたお母さんと目が合った。
「どうだった?」
「……うん」
答えになっていない答えを返す。
お母さんも何かを察したのか、それ以上は聞いてこない。しばらくして、お母さんはおもむろにソファーから立ち上がった。
チェストの引き出しをゴソゴソしていたと思ったら、お母さんはそこから長方形のベージュの額縁を取り出し、それを私に差し出した。
「何? これ」
「すごく誠実で優しい人らしいのよ。お勤めもちゃんとしたところだから安心だし、良かったら一度会ってみない?」
お見合い写真?
結婚するつもりはないけれど、とりあえず中を開いてみる。
そこには、髪の毛が大幅に後退した小太りの五十代ぐらいの男性が写っていた。
そっと額縁を閉じて、無言でそれをお母さんに返す。
「ごめん、私の好みとは少し違うみたい」
「どこがダメなの? 一度会ってみるぐらい、良いじゃない」
「どこがって……、年も離れてるし。それに、あんまりお見合いとか興味ないから」
相手の男性に失礼にならないよう、慎重に言葉を選びながら縁談?を断る。
「彼氏がいるの?」
「彼氏……は、いない」
「それなら、会うだけ会ってみたら? お仕事が見つからないのなら、他の道も考えてみてもいいんじゃない?」
「他の道も何も、今は女性も働く時代だし。それに仕事が見つからないからって、結婚に逃げるつもりもないよ」
好きな人と結婚して、それで話し合ってどっちかが家庭に入るのなら、私としても全然アリだけど。いくら切羽詰まってるからって、申し訳ないけどさっきのお見合い写真の男性とは結婚出来ない。
私の発言を聞いたお母さんは視線をさまよわせ、それから私をじっと見つめた。
「でも、無職でしょ?」
……うっ!
そうだよね。手に職があったり、まともに働いてる人が言うのならともかく。「今は女性も働く時代だから(キリッ)」なんて、無職がどの口で言ってんだって話だよね。まずはちゃんと職見つけてから言えって話だよ。
ためらいがちだったにしろ、はっきりと耳に届いたお母さんの言葉。RPGだったら、今の発言で私は瀕死になっていたに違いない。
「たしかに無職だし才能も夢もないし、おまけに彼氏もいないし、コミュ障のダメ人間だよ。それでも、その人とは結婚できない」
一気にまくしたて、私は自室に戻った。
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