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24話 松永一成登場

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 翌日の放課後。授業が終わったら道場に来てって悠真から言われて、来てみたけど……。

 ほとんど立ち寄らない場所だから、入りづらい。
 勝手に入ってもいいものなのかな?

 なんとなく入りづらくて、道場の周りをうろつく。
 しばらくして、前から悠真が歩いてくるのが見えた。

「入らないの?」
「ここで何するの?」
「攻略」
「えっ? ま、まってよ」

 一言だけ言って、悠真はさっさと道場に入ってしまう。あわててその後を追って、私も中に入る。

 畳の敷かれた道場の半面は、柔道部。もう半分は、剣道部員が使っていた。

 それから、片隅で練習をしている人が一人。道着を着てるし、あの人も柔道部なのかな? にしては、空手っぽい動きだけど。

 どうして一人で練習してるんだろうとか色々考えていたら、悠真がその人に近づいていく。

「松永さん」

 え。あの人が、松永一成先輩?

 私もゆっくりと近づいて、松永先輩らしい人の顔を盗み見る。

 マロンブラウンの髪、濃い茶色の瞳。
 誰からも好かれそうな、癖がなくさわやかな顔立ち。キリッとしてるのに、優しそうな雰囲気。

 道着がよく似合うその人は、たしかに以前悠真から写真を見せられた松永一成先輩だった。

 写真よりも、実物の方がもっとかっこいい。
 この人がモテないって、絶対嘘だよ。

「久しぶりに相手してくれるの?」
「道着持ってきてないから無理」
「相変わらずつれないヤツだな」

 そんなことを言いながらも、松永先輩はずっとニコニコしている。

 あれ? なんかフツーに会話してるけど、悠真と松永先輩って知り合い? そんなことある?

「今日は僕じゃなくて、彼女に教えてやってくださいよ」

 疑問に思いながらも二人の会話を聞いていたら、悠真が私に視線を向けた。すぐに松永先輩もこちらに目をやり、ニコリと笑いかけられる。

 うっ、かっこいい。
 やっぱり私には、松永先輩みたいな人は荷が重すぎる気がする。

「初めましてだね?」
「あっ、は、はい。花井杏です!」
「花井さんは、合気道に興味あるの?」
「いえっ」

 あっ。緊張して思わず否定しちゃったけど、今のは失礼だったかな?

 案の定、松永先輩は苦笑いを浮かべる。

「やっぱり悠真に無理矢理連れてこられた?」
「そ、そういうわけではっ」

 ダメだ、全然まともに話せない。
 助けを求めようと悠真を見たけど、そこに悠真の姿はなかった。

 えっ、いつの間に帰ったの?
 ここからどうすればいいの? 気まずい……。なんて思いつつ、もう一度松永先輩の方に視線を戻す。

「嫌じゃなかったら、見ていってよ。いつも一人だから、張り合いないんだ」

 気を遣ってくれたのか、松永先輩は優しく笑いかけてくれた。い、いい人……っ!
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