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4、元社長令嬢、愛を知る
十九話 クリスマスの夜に
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猫が連れて行かれてから三日が過ぎ、何気なくスマホをチェックすると、今日がクリスマスイブだということに気が付く。
……もうそんな時期なのね。例年なら、友人か恋人と豪華なパーティーやクルーズに出かけていたものだけど、今年はどう考えても無理ね。社長令嬢という肩書きとお金を失ったいま、恋人も友人もいないし、そもそも今年はクリスマスなんて全く意識していなかった。
あの猫のせいで毎日が慌ただしくて、クリスマスどころじゃなかったのよね。その猫ももういなくなってしまったし、そのせいで秋人とも気まずいんだけど。
別に秋人の方は気にしていないのかもしれないけど、正直どんな顔で顔を合わせたらいいのか分からないわ。ここのところ仕事が忙しいらしく、家にはほぼ寝に帰っているだけで、あれから直接顔を合わせる機会がないのが不幸中の幸い。
だけど、いつかは顔を合わせるんだろうし、その時どうしたら……。良い案が全く思い浮かばなくて、深くため息をつく。
でも、まあよくあることよね。寂しさから、ついうっかり上司?と寝てしまうことくらい……。別に一回寝たくらい大したことないんだから、堂々としていたらいいのよね。
そんなことを思いながら、ぼーっとスマホを眺めていると、ドアノブを回す音とドアが開く音が玄関から聞こえてきてハッとする。
「ただいま」
どうしよう考える暇もなく、リビングに現れた秋人は腹立たしいくらいにいつも通りだった。全く……。私がアレコレ考えてたのが馬鹿みたいね。
「……おかえりなさい。今日も遅くなるんじゃなかったの? まだ5時よ?」
動揺を誤魔化すために早口で尋ねると、秋人はネクタイを外しながらこちらを振り向く。
「抱えていた案件に片がついたから、今日は早く上がったんだ」
「そう。何か食べる? 今から用意するから、時間かかるけど」
「たまには外で食べないか?」
「え……。いいけど、着替えてくるから待って」
予想外の提案をされ、一瞬反応が遅れてしまった。この前の一件もあったので、クリスマスの夜に秋人と二人きりでディナーなんて気まずいけど、断るのもおかしいわよね。
デート……ではないだろうけど、秋人の行く店だから格式高いところなのだろうし、この前買った落ち着いたエンジ色の冬物ワンピースに着替えよう。家事がしやすいようにと結っていた髪を下ろし、ローズの口紅を引き、最後に茶色のコートを羽織る。
リビングに戻ると、秋人も黒のビジネススーツから着替えたみたいで、紺色のスーツに薄緑色のシャツを合わせていた。
「よく似合うな」
「当たり前でしょ?」
「ああ。美妃はどんな服もよく似合うが、その新しいワンピースもよく似合っている。綺麗だ」
嫌味っぽく言ったはずなのに、真顔で褒められ、返す言葉に詰まる。私の着てる服をいちいち覚えてるのかしら?
秋人は一見ファッションには興味がなさそうだけど、無頓着というわけではないのよね。流行り物や斬新な格好に挑戦しているところは見たことがないけど、いつも高級で洗練されたものを着ているもの。自分のことはまだしも、私のことまで見ていたなんて……。
「そろそろ行こうか」
「そうね、行くお店は決まってるの?」
なんともいえない妙な空気が流れていたけど、秋人から切り出してくれて助かったわ。デートじゃないんだから、意識する必要はないのよね。
「一応な。美妃が行きたいところがあるならそこでもいいが、特にないなら任せてくれないか?」
「クリスマスだし、どこもいっぱいでしょう。秋人に任せるわ」
そう答えると、自然な動作で手を差し出さたので、その手を取るべきなのか迷ってしまう。
デートじゃない、意識する必要はない、と自分に言い聞かせたばかりなのに、嫌がらせなの?
でも、振り払うのもおかしいわよね。そもそも、私みたいな美人をクリスマスに誘うのに、エスコートをしない方が失礼だわ。
そう納得した私は、ドキドキしている心臓は無視することにして、すました顔で秋人の手を取った。
……もうそんな時期なのね。例年なら、友人か恋人と豪華なパーティーやクルーズに出かけていたものだけど、今年はどう考えても無理ね。社長令嬢という肩書きとお金を失ったいま、恋人も友人もいないし、そもそも今年はクリスマスなんて全く意識していなかった。
あの猫のせいで毎日が慌ただしくて、クリスマスどころじゃなかったのよね。その猫ももういなくなってしまったし、そのせいで秋人とも気まずいんだけど。
別に秋人の方は気にしていないのかもしれないけど、正直どんな顔で顔を合わせたらいいのか分からないわ。ここのところ仕事が忙しいらしく、家にはほぼ寝に帰っているだけで、あれから直接顔を合わせる機会がないのが不幸中の幸い。
だけど、いつかは顔を合わせるんだろうし、その時どうしたら……。良い案が全く思い浮かばなくて、深くため息をつく。
でも、まあよくあることよね。寂しさから、ついうっかり上司?と寝てしまうことくらい……。別に一回寝たくらい大したことないんだから、堂々としていたらいいのよね。
そんなことを思いながら、ぼーっとスマホを眺めていると、ドアノブを回す音とドアが開く音が玄関から聞こえてきてハッとする。
「ただいま」
どうしよう考える暇もなく、リビングに現れた秋人は腹立たしいくらいにいつも通りだった。全く……。私がアレコレ考えてたのが馬鹿みたいね。
「……おかえりなさい。今日も遅くなるんじゃなかったの? まだ5時よ?」
動揺を誤魔化すために早口で尋ねると、秋人はネクタイを外しながらこちらを振り向く。
「抱えていた案件に片がついたから、今日は早く上がったんだ」
「そう。何か食べる? 今から用意するから、時間かかるけど」
「たまには外で食べないか?」
「え……。いいけど、着替えてくるから待って」
予想外の提案をされ、一瞬反応が遅れてしまった。この前の一件もあったので、クリスマスの夜に秋人と二人きりでディナーなんて気まずいけど、断るのもおかしいわよね。
デート……ではないだろうけど、秋人の行く店だから格式高いところなのだろうし、この前買った落ち着いたエンジ色の冬物ワンピースに着替えよう。家事がしやすいようにと結っていた髪を下ろし、ローズの口紅を引き、最後に茶色のコートを羽織る。
リビングに戻ると、秋人も黒のビジネススーツから着替えたみたいで、紺色のスーツに薄緑色のシャツを合わせていた。
「よく似合うな」
「当たり前でしょ?」
「ああ。美妃はどんな服もよく似合うが、その新しいワンピースもよく似合っている。綺麗だ」
嫌味っぽく言ったはずなのに、真顔で褒められ、返す言葉に詰まる。私の着てる服をいちいち覚えてるのかしら?
秋人は一見ファッションには興味がなさそうだけど、無頓着というわけではないのよね。流行り物や斬新な格好に挑戦しているところは見たことがないけど、いつも高級で洗練されたものを着ているもの。自分のことはまだしも、私のことまで見ていたなんて……。
「そろそろ行こうか」
「そうね、行くお店は決まってるの?」
なんともいえない妙な空気が流れていたけど、秋人から切り出してくれて助かったわ。デートじゃないんだから、意識する必要はないのよね。
「一応な。美妃が行きたいところがあるならそこでもいいが、特にないなら任せてくれないか?」
「クリスマスだし、どこもいっぱいでしょう。秋人に任せるわ」
そう答えると、自然な動作で手を差し出さたので、その手を取るべきなのか迷ってしまう。
デートじゃない、意識する必要はない、と自分に言い聞かせたばかりなのに、嫌がらせなの?
でも、振り払うのもおかしいわよね。そもそも、私みたいな美人をクリスマスに誘うのに、エスコートをしない方が失礼だわ。
そう納得した私は、ドキドキしている心臓は無視することにして、すました顔で秋人の手を取った。
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