嫌われ者の僕

みるきぃ

文字の大きさ
20 / 91
チャラ男会計

1

しおりを挟む



学校が休日である土曜日。


「あおいはいつも偉いね」



ゆうが感心したように僕に言った。別に僕は感心されることなんてしていない。ちなみに今は玄関で靴の靴ひもを結んでいる。



「そんなことないよ。じゃあ行ってきます!」



「うん。なるべく早く帰ってくるんだよ」



「うん!」



靴ひもを結び終え履いて部屋から出た。ゆうはいつも優しい言葉を僕にかけてくる。それで頑張ろうという気持ちが倍に増えるのだ。ゆうの言葉は魔法みたいだ。

今、僕が向かっているのは自分のクラスであるZクラス。毎週土曜日にはいつも一人でこうやって、机とか拭きに行っている。

基本、Zクラスは誰も掃除はしない。正確にいうとやる人がいないのだ。少しでも皆の役に立てればと思って陰で頑張っている。それしか僕はできないから。



「おーーい!!あーおーい!!!!」



すると、ダッダッとすごい勢いで誰かが走ってきた。僕の名前を呼んでいるその声には聞き覚えがあった。



「あ、花園くん。おはよう…こんな早くにどうしたの?」



「ちょっと早起きして廊下を走り回っていたら、あおいを見かけたから吹っ飛んできたんだ!」



「そうなんだ…ありがとう」



花園くんは、誰も差別なんてせず、こんな僕にまで話をかけてくれる。そ、それに…と、友達だからこうも心が温かくなる。嬉しい。



「そういうあおいは何してんだ?」



「ぼ、僕?僕は…その今からクラスに行こうかと思って…」



「クラス?も、もしかして、俺に内緒で誰かと会う気とかじゃないだろうな!!許さないぞ!!!」



「え、!?そ、それはないよ。ちょっと机とか拭いたり掃除したりするだけだよ」



「あー、まじビビった。それなら安心だ!!てかあおい掃除好きだな~!」




「う、うん。好きだよ」


僕がそう伝えたら、急に顔を赤くする花園くん。




「…や、やばい。俺が好きって言われたみたいで妄想したら興奮してきた。あ!そうだ!!俺も一緒にZクラス行っていいか?」


目をキラキラと輝かせながらお願いと頼まれた。



「え、で、でも…」



「別に気にすんなって!ほら、行くぞ!!」



手をぎゅっと握られ、僕は断ることはできずにゆっくりと頷いた。


Zクラスに着き、花園くんは握っていた手をゆっくり離した。



「な!あおい!!もしかして土曜日はいつもここに来て掃除なんかしてるのか?」




「う、うん。そうだよ…」


僕は返事をしながら、ベランダに出て干してある布巾を取った。



「そっかー、だから月曜日、いつの間にか綺麗になってるって思ったのはそれか!」



綺麗になってる…嬉しいな。




「ありがとう」



そう言われて、掃除をして良かったと思えた。



「あ!そうだ!眼鏡外してもいいか?」


花園くんはそう大声で言い、僕の横に来た。




「え、そ、それはちょっと…」



人前で外すのはできない。でも、実は毎週土曜日いつもここに掃除をする時は誰も見ている人がいないから外している。そしたら、眼鏡も曇らないし、掃除がはかどる。

だけど、人前では外せない。素顔なんて見せられないよ…。



「何でだよ!!俺が外せって言ってんだ!外せよ!」



花園くんは前のめりになって前から僕に近寄る。



「え、っと…そう言われても」



僕は自然と後ろの机に手をつける形になった。




「なぁ…いいじゃん!俺らそーいう関係だろ?」



「で、でも…」



そーいう関係って…友達だからってことだよね。


だけど、僕の顔なんて見ても不快を与えるだけで面白味もないよ…。



「は、花園くん…痛いっ」



僕の今の体勢は、背中と机がくっついている状態で足は軽く浮いている。上からは花園くんに挟まれ、両腕も押さえつけられて逃げ場がなかった。



「あおい!誰のものにもなるなよ。俺だけ考えていればそれでいいんだぞ!わかったか!!」



「ちょ、あ、は、花園くんっ!」


スルリと眼鏡を奪われた。その瞬間、視界がぼやける。花園くんがどんな顔をしてこっちを見ているかわからない。


僕は顔をなるべく見られないように横を向いた。


「あー!逸らしちゃだめだろ!!こっち向け!俺を見ろよ!!!」


クイッと戻され、うっすらとした視界の中、花園くんと目を合わせることになった。


すると上からゴクン、と息をのみこむ音が聞こえてきた。ほら…やっぱり、僕の顔が酷すぎて何も言えないんだ。



「は、花園くん…も、もういいかな…っ?」




「…やばい。下半身がおかしくなりそうだ!!」




「え?」




「あ!この眼鏡は俺が今は預かっておく!!」




花園くんは、そう言って僕から少し離れて眼鏡を自分のポケットにしまってしまった。

僕は床に足をつけて、花園くんの元へ行く。



「は、花園くん…め、眼鏡…っ」


人にこんな顔を見られるのは嫌だ。返してもらわないと…困る。



「今の顔すごくいい!!やばい俺って結構Sっ気あったのか!!」





「…っ」

ど、どうやったら眼鏡を返してくれるんだろ…。


「…返してほしい?」


花園くんはいたずらっ子みたいにニヤリと口の端をあげた。




「か、…返してほしいです」



コクりと、頷く。ほ、本当に返してくれるのかな…?




「じゃあ、あおい!返してほしければここまでこい!!」




「え、は、花園くん…!?」



花園くんは、僕から逃げるように離れていく。





「今、取り返さないと一生返さないってきーめたっ!!」



え!?



「ま、待って…花園くん!」


う、嘘。一生なんて…それはとても困る。僕は、返してもらうために花園くんのあとを追う。

だけど、僕の体力と運動神経じゃ花園くんには到底敵わなかった。




「はぁはぁ…も、う無理…っ」


もう息があがって自分の体力の無さにはお手上げ。地面に崩れ落ちるように尻餅をついた。


「あーー!もうギブアップかー!!もうちょいイチャイチャしたかったのに!」



花園くんはそう言いながら僕のところまで来てくれた。




「ご、ごめんね…っ、ぼ、僕体力無くて…っ」




「しょうがねぇな、全く!!眼鏡はちゃんと後で返す!それよりちょっと立てるか?」


花園くんは、僕の様子を伺いながら手を差し伸べてくれた。



「う、うん!な、なんとか…っありがとう」



僕は花園くんの手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。







「、わっ!」



立った瞬間、突然花園くんは僕の顎をクイッとあげた。






「…どうしよう。すっごく今キスしたい。…いい?」




「え?」





キ、ス…?耳を疑った。




ガラッー



唖然としたまま、急に僕と花園くんしかいなかった教室の扉が開いた。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

佐倉海斗
BL
侯爵家の三男、セシル・アクロイドは『悪役令息』らしい。それを知ったのはセシルが10歳の時だった。父親同士の約束により婚約をすることになった友人、ルシアン・ハヴィランドの秘密と共に知ってしまったことだった。しかし、セシルは気にしなかった。『悪役令息』という存在がよくわからなかったからである。 セシルは、幼馴染で友人のルシアンがお気に入りだった。 だからこそ、ルシアンの語る秘密のことはあまり興味がなかった。 恋に恋をするようなお年頃のセシルは、ルシアンと恋がしたい。 「執着系幼馴染になった転生者の元脇役(ルシアン)」×「考えるのが苦手な悪役令息(セシル)」による健全な恋はBLゲームの世界を覆す。(……かもしれない)

処理中です...