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◆覆面系男子注意報。
しおりを挟む会計チャラ男受け
立花 壱(たちばな いち)
二重人格会長攻め
結城 秋哉(ゆうき あきちか)
◇◇◇
朝の窓からの光と共にミンミンと蝉の鳴き声が聞こえる。
今日も暑いね~。俺、立花壱は生徒会の会計をつとめている。
なぜか軽い男、チャラ男、淫乱、下半身野郎とかよく言われちゃう。この話し方のせいかな~?いや、でも実はこれ元からなんだよねー。
ほんと参っちゃう。直せって言われてもそんなの無理だし~。もう癖になっているから直すは難しい。
それともあれかな。誰構わず可愛いとか言っちゃうからかな~?
だって、本当に可愛い子がいたら言うのは当然だよね~。もうこのお口さんは黙っていられないんだよー。
特に親衛隊のチワワちゃんたちすっごく可愛いんだよ~。俺の一言一言に目を輝かせて嬉しそうに笑うんだもん。仕方ないよね~。
まあ、見た目が少し、チャラいからと言っていろんな子と遊んでるわけじゃない。
どう考えてもチャラ男=セフレっておかしくない~?
うん、絶対おかしいと思う。
うん。そ、それよりさあ……さっきから俺の右胸に何やら違和感を感じるんだよね~。その正体は誰だか想像はつくけど。
「もう~、あっくん起きてよぉ。それより何でまた俺のベッドに勝手に入ってきて胸揉んでるのー」
あぁもうこれは毎朝の恒例となっている。
気づくといつも生徒会長兼幼馴染みの結城秋哉が俺のベッドに入ってきて背後から抱き締めるように胸を揉むのだ。
多分、ベッドに入って胸を揉むのは無意識だと思われる。
だって、あっくんは小さい頃から紳士でとても優しいし、無意識でなければこんな変なことはしない。
あっくんは俺と同じ生徒会であり、自分の仕事が終わったら俺の仕事まで手伝ってくれる良いやつなんだ。
ちなみにあっくんとは同室であり、相変わらず小さい時からの付き合いでとても仲が良いんだよ~ふふっ。
でもこれには全く、困ったものだなぁー。いまだに胸を揉み続けてなかなか起きてくれないあっくんに痺れを切らして腕をとんとんと叩く。
「あっくんほら、起きてよ~」
もう一度、試しに起こしてみると次は『んー』と反応してくれた。
「んー、いっちゃん、おはよう。…あ、寝癖ついてる」
欠伸をしながら俺の髪を気にしてきたあっくん。
あっくんは俺のことをいっちゃんと呼ぶ。
胸を揉む手が止まったのはいいけど、まだ寝ぼけてるのかわからないけど挟むように自身の足を俺の体に乗せてきた。
「あっくん、重たいよー。俺、そろそろ起きたいんだどな~」
「んー……もうちょっと」
あっくんはいつもしっかりしているけど朝は弱いみたい。
それから数分経ってやっと目が覚めたらしく体を起こし俺は解放された。
「いっちゃんごめんね。また勝手にベッドに入ってきてしまって」
「別にいつものことだから大丈夫だよ~。でも胸は揉まないで欲しいなぁ」
「なんで」
「え?」
「あ、ううん!ごめん。なんでもない」
「?」
あっくんの変なのー。まだ寝ぼけてるのかな。
おかげで俺はあっくんに揉まれた感覚が今も残ってるよー。
俺の平たい胸なんか揉んでも柔らかくないし、毎度毎度触ってきて、変な癖のあっくん。
「あ、そうだ。朝ごはん何食べたい?」
「んー、今日はあっくんにお任せするよ」
「わかった。じゃあ、準備するから待っててね」
「はーい」
あっくんは、料理も美味しく作れるし身の回りのことはなんでもできる。
ご飯はいつもあっくんが作ってくれていて、部屋の掃除とかも家事全般は全てやってくれる。
あと、テスト勉強とかも難しいところは分かりやすく説明してくれたりして助かっている。
おかげで俺はあっくんに甘えてばかりだけどね~。
もし、あっくんに恋人とかできたら嫌だなあ。もう甘えられないし。
あっくん、背高いしイケメンだし紳士だしモテ要素ありまくりな人間だからすぐに付き合おうと思えば付き合えると思う。
俺が女の子だったら即OKしちゃう域だもん。
んー。これではもう少しあっくん離れできなそう。
きっとあっくんの彼女は幸せなんだろうなあ。
そう思いながら、俺もあっくんのような恋人を早く見つけて置かないとなぁと思った。
あっくんが朝ごはんを作っている間、俺は布団を抱き枕のようにしながら抱きつき待っていた。
「いっちゃん、何考えてるの?」
何分後かして、彼女欲しいなーとか思いながらまた眠りにつきそうになった時に、優しい声でご飯できたよと言いながら聞いてきた。
「んーとね。彼女欲しいなと思って」
「は…?」
パリンッ!
すると、何が割れる凄い音がした。
俺は驚いてあっくんの方を見ると、透明のコップを床に落としたみたいだった。
「あっくん!?だ、大丈夫!?」
俺はベッドから飛び起きてあっくんのところに行く。
あっくんから表情が消えていた。しかもコップ割れちゃってる!
俺はケガはないかと駆け寄って、コップの破片は運良く足には当たってないみたいで血は出てない。
よ、良かった…。
「もうどうしたの~?あっくん」
と、あっくんの顔を覗くと今までに見たことない表情で目が据わっていた。
「…今何つった?」
「あっくん…?」
「ねぇ聞いてんだけど」
低く冷たい声。聞いたことない。
「か、彼女が欲しいなー…と」
も、もしかして気分悪くさせることしたかな…?
思い返してみても心当たりがなく、ただ自分がわかっていないだけかもしれない。
「彼女だぁ……?」
次は怒ったような低い声。
つい、ビクッと肩が跳ねる。
こんなあっくん見たことないし狼狽えてしまう。
「あ、あっくん…急にどうしたの?あ、ほらこれ片付けなきゃ」
俺は叱られた子供のように目を逸らし、さっきあっくんが落として割ったコップの破片を拾おうとした時。
「いっちゃん、それは触っちゃだめだよ」
と、いつも通りの優しい口調になった。
「あ、あっくん」
良かった、いつものあっくんだと思って上を向くと、じーっと真っ直ぐ見つめられていた。
「それはあとで俺が片付けておくから、ちょっとベッドに座って?」
「え?な、なんで…」
「聞こえないの?」
「あ、あっくん…?」
「俺は座れって言ってんだけど」
「…はい」
あっくん一体どうしちゃったんだろう…。
俺はあっくんの言う通りにベッドに腰かけた。
座ったのはいいけど…あっくんは目の前に立って黙ったまま。
何か言わなきゃと頭を巡らせた。
「み、見て~あっくん。外超晴れてるよー、暑そうだね~」
だけど、特に気の利いた言葉なんて出てこなかった。
あっくんを見上げて、ハッと気付いた。
怖いくらいに無表情で暗く冷たい目で俺を見ていた。
「飯、洗濯、掃除…家事全般」
「え?」
急にそう呟き始めたあっくん。
「テスト勉強でわからないところは教える、寝癖をとかす、たまにお風呂の背中流したり、小さい時はちょっかい出す奴らから助けてやった」
「……?」
あっくん…?
「…こんなに尽くしてやってんのに、彼女だぁ?何が不満なんだよ、壱」
「え、…ちょ、」
俺のこといっちゃんではなく、壱と呼んだ。
雰囲気がちが…っ。口調も違う。本当に俺の知ってるあっくんじゃない。
「わぁっ!」
ぐいっと、あっくんの顔が近くにあった。
うわぁ、あっくんこんな間近でもかなりのイケメンだね~。なんてこの状況で考えられる自分が凄いと思った。
「…よそ見すんなよ馬鹿」
ま、まさか、あっくんから馬鹿と言われる日が来るなんて…っ。
急にいつもと違うあっくんに俺は寂しく感じ涙目になった。
「やば。そんな顔するんだ。カワイイ…」
にやり、と笑った。どことなく嬉しそうな感じだった。
もしかして、全部大変なことはあっくんに押し付けてきたから怒ってるんだ。
「や、やだ…あっくんじゃないみたいでやだよ」
悪いとこ全部直すから!と言ってあっくんのシャツの一部を掴んだ。
「俺、いつもこんな感じだけど?」
「…違うっ!」
あっくんはいつも優しくて俺に甘くて、こんな怖いあっくん俺は知らない。
怖くなって、何も言い返せなくて唇を噛んだ。
「…ああもう何で可愛いの」
「?」
「ごめんね。可愛すぎていじめすぎた。許して?」
参ったと言わんばかりに申し訳なさそうな顔をする。
「あっくん…?」
ごめんと謝りながら額を合わせて擦り付ける。
い、いつものあっくんだ~!
ぱあっと単純なのか俺は明るくなった。
「でも、いっちゃんが悪いんだからね?」
「俺…?」
「急に彼女欲しいとか言い出すから」
もしかして、
「あっくん、まさか…」
「あぁ、もうそのまさかだよ」
グシャっとあっくんは自分の前髪を恥ずかしそうに触る。
あっくんが怒ってた理由…わかったよ。
「全く、いっちゃんはマジ鈍感」
「ごめんね?気づいてあげられなくて」
「いや、いいよ。今ちゃんとわかってもらえたから」
「うん、驚いたよ。まさかあっくんが俺に先を越されるのが嫌だなんてさ~」
「…は?」
またあっくんの顔が曇り歪んだ。
「え?、違うの…?」
固まる。
「ほんとに…っお前って奴は全然わかってねぇな!」
「イテッ」
軽くポンッと頭を叩かれた。初めてのあっくんからの暴力。
あっくんは、自分より格下だと思っていた相手が彼女欲しいとか言って先を越されることがプライド的に許せないと思った。
…ち、違うの?
「俺が言いたいのはそうじゃない」
「…じゃ、じゃあ何?」
「お前はちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないんだな」
と、あっくんはため息を吐いた後そっと俺の耳元に近づいた。
「…いっちゃん。彼女なんか作らなくてさ、…俺にしとけよ」
と、甘い声で囁かれ不覚にもドキっとした。
さらりとそんなこと言ってのけるあっくんは目を細めて嬉しそうなイケメンスマイルを浮かべていた。
「俺の気持ちわかったか?…壱」
怪しい笑みを浮かべ、俺の髪に触れてキスをした。
「これで心置きなくお前の胸が揉める」
あっくんが覆面を被った二重人格と知るのはまだ先の話。
…また、恋人になるのも。
【完】
応援ありがとうございます!
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