14 / 31
合宿2日目
ずっと、ここにいたい
しおりを挟む「わ、すげぇ!これ、映画のそのまま!」
エリアに入ると、亜熱帯っぽい植物がわさわさ生えていて、映画のテーマソングも聞こえる。そこに、映画のロゴを模した看板や、映画に登場したのと同じ乗り物なんかが置いてあったりして、自ずと声が弾む。
最近、新シリーズが公開されたこの映画。最新作をサークルメンバーで観に行ったのは記憶に新しい。
「お前も観たか?」
「ううん、観てない」
ニコニコと答える蓮。
観てねぇのかよ。
もしかして、旧シリーズガチ勢か?
「そういえば、お前の好きな映画、聞いてなかったな」
あまり時間もないから、1番乗りたかったアトラクションに並ぶ。映画の雰囲気がよく出ていると評判の、急流すべりだ。
旧シリーズの世界観を引き継いでいるらしいから、蓮も楽しめるはずだ。
「昨日、自己紹介のとき、蓮は好きな映画言ってなかっただろ?」
「あ、うん」
「…」
「…」
なぜ黙る。
「お前、映画が好きだからこのサークル入ったんだろ?選べないなら、1つに絞んなくてもいいし、よく観るジャンルとかでも」
「…」
尋ねているのは俺なのに、俺から答えを引き出そうとするかのように、じっと見つめられる。
おもちゃのサングラス越しの、綺麗な瞳と目が合う。
「伊織さん」
「あ?なんだよ」
「映画じゃなくて、伊織さん」
「…?」
誰か通訳してくれ。
日本語字幕を頼む。
意味が分かんねぇ。
「映画の話してんだよな?」
気を取り直して、前提の整理をする。
アトラクションの待ち時間は長い。コイツと話す時間はたっぷりある。
この映画の主人公が、恐竜と心を通わせるシーンを思い出しながら、俺もこの、難解な金髪イケメンに歩み寄ってやろう。
「伊織さん、本当に俺のこと覚えてない?」
またコレかよ。
歩み寄ろうと意気込んだばかりなのに、思わずガクッと肩が落ちる。
顔も異次元に綺麗だけど、会話も異次元。
仕方ねぇから、合わせてやる。
「だから知らねぇよ。お前の勘違いだろ」
コイツほどの目立つ容姿の奴、知り合ってたら絶対に印象に残ってるはずだ。
俺の答えを聞いて、蓮はどこか寂しげに長いまつ毛を伏せ、視線を逸らす。
何だよ、俺が悪いのか?
「でも、やっぱいい!あの時の俺、カッコ悪かったし!」
「?」
「これから知ってもらう!」
パッと顔を上げて、俺に笑顔を見せる。
よく分かんねぇが、コイツの中で何かが解決したらしい。
そして、ニコニコの笑顔で、元気よく続けた。
「俺、映画は、あんま観ない!」
「………」
マジで何なんだ、コイツ。
この世界的に有名な恐竜映画を、なんと新旧シリーズの、いずれも一度も見たことがないという蓮に、俺はストーリーと見どころを解説してやる。
「…そこで、ティラノサウルスの咆哮が入るんだよ!」
「うんうん」
「ここはマジで鳥肌もんだからな?…、おい、前進め」
「うん」
すげぇ聞いてくれる。
すげぇ聞いてくれるのはいいが、進行方向を向く俺の前に手すりを持って立ち塞がるのは、やめてほしい。あと、やたら近い。どんどん近づいてきてる気さえする。これがコイツの距離感なのか?
列が進むたびに、前向け、進め、と言ってやらないと、コイツは俺を巻き込んだまま列を止めそうだ。
「…どうだ?面白い映画だろ?」
「うん!面白いし、伊織さんが、たくさん話してくれて嬉しい!もっと聴きたい!」
「…」
なんか想定してた感想とズレてるところがある気もするけど、まあいいか。
コイツのコミュニケーションは、ちょっと独特。でも、慣れてきた。
それに、俺の趣味の話を、こんなに楽しそうに聞いてくれる人間は貴重だ。
「あ、千冬からも聞いただろうけど、映画同好会は、大体月2で部室で映画観てんだよ。次から蓮も来んだろ?この映画観てみるか?」
「…、うん」
さっきまでのニコニコが一瞬曇る。
なんだ?
そこでまた列が進む。
「おい、お前いい加減前向け」
腕を掴んで、体の向きを変えてやる。
やたら近い上に、俺より高い位置にある顔を見上げる姿勢のせいで、首が痛くなってきた。
普通に並べ、普通に。
並び始めて1時間程。まだあるな。
俺に強制的に前を向かされた蓮は、そのまま俺たちの前に並ぶカップルの後ろ姿をじっと見た。
待機列でいちゃつくカップル。
あんまり見てやるなよ。
蓮は、また振り返ると、俺の背後に回って肩に手を置いた。
そのまま耳元に顔を寄せて、小声で話す。
「伊織さん、前の2人、大学生かな?」
「あ?…あー、そうかもな」
「手、繋いでるよ」
「…そうだな」
手も繋いでるし、なんなら彼女の方が彼氏の肩にもたれかかって、完全に2人の世界に入ってる。
見てるこっちは恥ずかしいけど、デートで浮かれてんだろ。
そっとしといてやれよ。
「買い物じゃなくて、アトラクション待ちなら、手繋いでも恥ずかしくない?」
「…???」
頭の中にハテナマークが浮かぶ。
蓮の意味不明な問いに気を取られていると、肩に置かれていた手が腕を滑り、俺の手の甲に、手のひらが這う。
するりと、指も絡められる。
は?何してんの?
前のカップルの真似か?
「おい、放せ。俺らがやるのはおかしいだろ」
「…」
俺の抗議を無視して、ぎゅっと握った手を、俺の体の前で組み、後ろから抱きつくような格好になる。
前のカップルも、ここまではやってねぇぞ。
「おい、やめろ」
「…」
蓮の拘束する力が強まる。
耳元に、蓮の息遣いを感じる。
背中に、腕に、指の間に、蓮の高めの体温が移る。意外に逞しい筋肉があることも、トクトク鳴る鼓動も、布越しに伝わってくる。
「…やだ」
耳元で囁かれた切なげな声に、背筋がぞわっとする。
耳が、熱い。
「っ、やだって、お前、」
「俺…、ずっと、ここにいたい」
吐息を含んだ囁きは、どこか甘さを伴っていて、一瞬、抵抗する力を弱めてしまう。
「ここ、って…、待機列にか?」
「…」
言ってることは、マジで意味わかんねぇけど。
「とにかくっ、放せっ!」
「あっ」
思い切り身を捩って、腕の拘束を振り払って抜け出す。
まだ少し、体が熱い。
「デート中の人間をからかうな。ほら、進んだぞ」
「からかってない!」
「うるせぇ、早く歩け」
「う…」
やっぱりこの異次元イケメンの、異次元コミュニケーションは難解。
コイツと分かりあうのは、恐竜と分かりあうより難しいかもしれねぇ。
28
あなたにおすすめの小説
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!
むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___
俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。
風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。
俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。
そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。
まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。
しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!?
メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
転生したが陰から推し同士の絡みを「バレず」に見たい
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる
綿毛ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。
総受けです。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる