3 / 27
中編(後)
しおりを挟む「何故ここに居る?」
王子だ。腕に可愛らしい女性をぶら下げている。挨拶もしないでいきなり上からの物言いに苛としながらも、こちらも挨拶抜きでこたえる。
「もちろん公務でございますわ。今は時間が空きましたので息抜きに散歩を。もちろん許可は得ておりますわ。」
「誰にだ。ああ、あの小娘だろうな。あの女、あの仰々しい離宮を建ててから、あそこに閉じこもっている癖に偉そうなことをする。」
「いいえ。わたくしの滞在および庭園の散策の許可は陛下にいただいております。それから、あの方はクレイドの王女様でございます。失礼な物言いはどうかと思われますが。」
「失礼?失礼なのはあちらだろう。クレイドの王女がわざわざこの国へ来たからには、王太子の私のところへ嫁ぎにきたに違いない。なのに一度も会いにこない。まあ今更、謁見の申請があっても却下するがな。」
「…そうでございますか。」
「そもそも。解消だと言ったのにそっちからの破棄となるなど。お前があれほどの慰謝料を請求するから我が王室には金がなくなってしまったのだ。そのせいで王女を娶らなくてはならなくなった。金を持ってきたからとあの女は好き勝手に財政を動かしている。こうなったのはお前のせいだと罪悪感はないのか?」
「ありませんわね。だいたい、わたくし達の婚約は政略的なものだというのに、一方的に婚約の解消を押し付けたのは殿下です。それならば、この10年に対して清算をするのは当然のことでございましょう。どちらにしろ、そのことについてのお話は、陛下とわたくしの父との間で、やはり政略的に解決なさったのでしょうから、わたくしは一切関知しておりません。」
「相変わらず可愛げのない。まあ、婚約を破棄されたお前など、仕事をするしか道はないだろうからな。そうだ。お前は王妃教育を受けていたではないか。私の仕事もやらせてやろう。」
「殿下に仕事がお有りなのですか?」
些か驚いて思わず言ってしまった。
「当たり前だろう!私は王太子だぞ!それに加えて、あの女には手に負えないからと毎日相当数の仕事を回してくる。」
何故か勝ち誇ったような顔で仕事をしていることを自慢してくる。王子が仕事をするのは当たり前でしょうに。少しでも仕事を回して貰えることに感謝するべきだわ。と心の中で呟きながら、あえて何も指摘しない。でも、これだけは。
「殿下。婚約は、破棄されたのではなく、こちらから破棄したのですわ。」
「どちらにせよ、破棄で傷つくのは女性の方だろう。気を遣って解消を申し出たのに、無碍にしたのはそちらだからな。」
この方は…もしかしたら、可哀想な人なのかもしれないと思った。もう少し、殿下の状況を鑑みて、寄り添うべきだったのかもしれない。
確か前にも、同じように思ったことがあったことを思い出した。
ーー私は楽しんではいけないのか!
そう叫んだ殿下に、初めて憐憫の情を感じたのだ。この方に慰めが必要だと思ったのもその時だった。だからわたくしは…
いいえ。もう過ぎたこと。
お互い様。確かにお互い様だったのかもしれないわ。わたくしは国の犠牲になるつもりだったけれど、この方は、生まれた時から犠牲者だったのかもしれない。
しかしもう、何を思っても全ては遅い。だいたい、この男だって、わたくしとの仲を良好に保とうとする意識が足りなかったのだから、やはりお互い様だったのだろう。
もう、この男が何を言っても、事態は変わらない。
殿下。あなたは既にお飾りなのですよ。
211
あなたにおすすめの小説
『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』
鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」
――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。
理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。
あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。
マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。
「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」
それは諫言であり、同時に――予告だった。
彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。
調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。
一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、
「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。
戻らない。
復縁しない。
選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。
これは、
愚かな王太子が壊した国と、
“何も壊さずに離れた令嬢”の物語。
静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?
朝陽千早
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」
そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち?
――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど?
地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。
けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。
はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。
ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。
「見る目がないのは君のほうだ」
「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」
格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。
そんな姿を、もう私は振り返らない。
――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです
珠宮さくら
恋愛
留学生に選ばれることを目標にして頑張っていたヨランダ・アポリネール。それを知っているはずで、応援してくれていたはずなのにヨランダのために父にそっくりな子息と婚約させた母。
そんな母が亡くなり、義母と義姉のよって、使用人の仕事まですることになり、婚約者まで奪われることになって、母が何をしたいのかをヨランダが突き詰めたら、嫌われていた気がし始めてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる