公女は祖国を隣国に売ることに決めました。

彩柚月

文字の大きさ
4 / 27

後編

しおりを挟む



この国の王侯貴族達を悩ませていた問題。それは、子が生まれにくくなっていることだった。特に爵位の高い家ほど出産率が低く、現王に至っては、何人かのあてがわれた愛人の中の1人がやっと孕ったのが、リチャードだったのだ。

多すぎる愛人達の存在に、頭ではわかっていても心が追いつかなかった王妃は病んでしまった。なにせその愛人達ですら、遡ればどこかに王族の血が混じっている。

従兄弟やら再従兄弟やらが自分を差し置いて子を作るかもしれないという現実は、どれほど自尊心を傷つけ、惨めにさせたことだろう。

高位貴族は、多かれ少なかれ王族の血が混じっており、また、神聖な血が薄まらないよう、なるべく王族に近しい関係での婚姻が繰り返された歴史がある。おそらく、血が濃すぎるのが原因だろうと、頭の良い人達は想像するものの、特に解決策もなく、ここまできてしまった。

カートレット公爵はロザリアが王家に望まれた時に、その問題点を指摘した。ロザリアとて王族の血縁者である。いずれ来るお世継ぎ問題の時に、子ができなければどうするのか。そのために、多くの女性を侍らせて、王妃のように娘が苦しむことは許しがたかった。

他国の姫を貰い受けるか、王族の血が混ざっていない伯爵以下の娘を据えるべきだと訴えた。


しかし王家はこれに難色を示した。もしも、リチャードが種無しだったなら、隣国の姫を貰い受けることはリスクが高い。だからと言って、王室の資金難を解決できるほどの資産を持った伯爵家は存在しない。

そして、ロザリア1人を妃とし、子を成すための愛人は置かないこと。3年以内に子が成せなければ隣国へ渡った先王弟の血筋の先端の男子を養子に貰い受けること。

これが守られる間は支援する。守られなければ、公爵家の全てはこの国から離脱する。これを現王に認めさせた。

あまりにもポンコツな王子にロザリアは大変な苦労を強いられた。条件などつけても意味がわからなくなるほどに。それでも国の為を想えばこそ。

既に傾きかけているこの国を立て直そうと、いずれ王妃に就くロザリアと、それを永く支えるべく公爵の父は力を尽くしてきた。

先に裏切ったのは王家だ。

指導者としても人間としても、もう心を残すところはない。

たとえ国として残れなくとも、国民が今と変わらない文化を保ちつつ、尚、より良い生活を得られる可能性があるのなら、それだけの国力のある国に下った方が、よほど建設的だ。


だから、祖国を売ることにした。

そして

この国の支配権は、

正しい血筋に戻される。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

契約通り婚約破棄いたしましょう。

satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、 『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。  ・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合  ・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合  ・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合  ・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合    』 です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。 相手が身内だろうとも契約は契約です。

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら
恋愛
留学生に選ばれることを目標にして頑張っていたヨランダ・アポリネール。それを知っているはずで、応援してくれていたはずなのにヨランダのために父にそっくりな子息と婚約させた母。 そんな母が亡くなり、義母と義姉のよって、使用人の仕事まですることになり、婚約者まで奪われることになって、母が何をしたいのかをヨランダが突き詰めたら、嫌われていた気がし始めてしまうのだが……。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

処理中です...