公女は祖国を隣国に売ることに決めました。

彩柚月

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王太子の事情

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マリアを伯爵家の養子にしていたことが無駄にならなかったようだ。

もしも男爵令嬢のままだったら、愛人にできなかったと聞いて、自分がマリアとの未来のために努力したことは報われたのだと、達成感もあった。

これで、心ゆくまでマリアと愛し合える。

マリアは何か微妙な表情かおをしていたが、最近まで男爵令嬢だったことを思えば、不安でも仕方ないだろう。

式も挙げることはできなくとも、私の心も体も全てマリアに捧げる。

初夜のマリアは少し涙を流した。

なんといじらしく可愛らしいことか。

もう離さない。
一生大切にする。
ずっと側に居てくれ。

毎日、大切に愛を注いだ。

学生の時ほど刺激はなくなったが、それでも、他愛のない会話を交わし、時折散歩を共にし、時には街歩きもした。ほんの数回ではあるが、共に夜会にも出た。

私に割り当てられる予算が随分少なくなったせいで、何度かクレイドの王女に直談判することもあったが、概ね満ち足りていた。

幸せで、他のことは、何も考えていなかった。





近々、王太子冊封が行われると連絡を受けた。

私は既に王太子なのだと思っていたのだが。そういえば任命式は成人した後で行うと聞いたような気がするから、今回の冊封がそれなのだろう。改めて私に任命するということだな。

婚約についても、未だ何も指示はされていない。任命式の時に発表するのかもしれないな。

それなりに準備をしなくてはならないだろうと思っていたのだが、父上を含め、各方面から

「準備は周りがするので、その日まで己の道と向き合い覚悟を固めるように。」

と、同じ台詞ばかりが返ってくる。

正装の新調等はしなくて良いのだろうか?

まあ、大きな儀式なので、伝統の礼服は決まっているし、大綬(ここでは王継承者の印を推した飾り布)さえ付けていれば、身分はわかるので、そうするのだろうか。

今まで同様、その日の朝には誰かが準備をしてくれるのだろう。

それにしても。今までならば、当日の流れや私の動きなどの説明は、こんなギリギリではなく、もっと早くに説明されていたのに、未だそれがないということは、直前にでも説明されるのだろう。

やはりクレイドの王女が準備に関わっているからか、手順に違いがあるようだ。まさか忘れてはいまいな?

いや、王族ならばこのくらいのことは、ぶっつけ本番でもできて当たり前という扱いになっているのかもしれない。何せ成人したのだからな。儀礼的なことはできて当たり前だ。

まぁそれでも確認は必要だろう。ギリギリまで何も言って来なければ、会場入りする前にでも、確認することにしよう。



流石に、その前日には、しっかりと休んでおかなくてはならないと、マリアとの逢瀬は昼間だけにした。

侍女達は何も言わないので、明日の礼服はどうなっているのかと、こちらから聞いたところ、明日の衣装は明日の朝持ってくるというので、やはり私は儀式のために心を落ち着かせて置くことが仕事なのだなと、納得して眠りについた。


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