18 / 27
王太子の事情
12
しおりを挟むマリアを伯爵家の養子にしていたことが無駄にならなかったようだ。
もしも男爵令嬢のままだったら、愛人にできなかったと聞いて、自分がマリアとの未来のために努力したことは報われたのだと、達成感もあった。
これで、心ゆくまでマリアと愛し合える。
マリアは何か微妙な表情をしていたが、最近まで男爵令嬢だったことを思えば、不安でも仕方ないだろう。
式も挙げることはできなくとも、私の心も体も全てマリアに捧げる。
初夜のマリアは少し涙を流した。
なんといじらしく可愛らしいことか。
もう離さない。
一生大切にする。
ずっと側に居てくれ。
毎日、大切に愛を注いだ。
学生の時ほど刺激はなくなったが、それでも、他愛のない会話を交わし、時折散歩を共にし、時には街歩きもした。ほんの数回ではあるが、共に夜会にも出た。
私に割り当てられる予算が随分少なくなったせいで、何度かクレイドの王女に直談判することもあったが、概ね満ち足りていた。
幸せで、他のことは、何も考えていなかった。
近々、王太子冊封が行われると連絡を受けた。
私は既に王太子なのだと思っていたのだが。そういえば任命式は成人した後で行うと聞いたような気がするから、今回の冊封がそれなのだろう。改めて私に任命するということだな。
婚約についても、未だ何も指示はされていない。任命式の時に発表するのかもしれないな。
それなりに準備をしなくてはならないだろうと思っていたのだが、父上を含め、各方面から
「準備は周りがするので、その日まで己の道と向き合い覚悟を固めるように。」
と、同じ台詞ばかりが返ってくる。
正装の新調等はしなくて良いのだろうか?
まあ、大きな儀式なので、伝統の礼服は決まっているし、大綬(ここでは王継承者の印を推した飾り布)さえ付けていれば、身分はわかるので、そうするのだろうか。
今まで同様、その日の朝には誰かが準備をしてくれるのだろう。
それにしても。今までならば、当日の流れや私の動きなどの説明は、こんなギリギリではなく、もっと早くに説明されていたのに、未だそれがないということは、直前にでも説明されるのだろう。
やはりクレイドの王女が準備に関わっているからか、手順に違いがあるようだ。まさか忘れてはいまいな?
いや、王族ならばこのくらいのことは、ぶっつけ本番でもできて当たり前という扱いになっているのかもしれない。何せ成人したのだからな。儀礼的なことはできて当たり前だ。
まぁそれでも確認は必要だろう。ギリギリまで何も言って来なければ、会場入りする前にでも、確認することにしよう。
流石に、その前日には、しっかりと休んでおかなくてはならないと、マリアとの逢瀬は昼間だけにした。
侍女達は何も言わないので、明日の礼服はどうなっているのかと、こちらから聞いたところ、明日の衣装は明日の朝持ってくるというので、やはり私は儀式のために心を落ち着かせて置くことが仕事なのだなと、納得して眠りについた。
68
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』
鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」
――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。
理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。
あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。
マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。
「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」
それは諫言であり、同時に――予告だった。
彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。
調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。
一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、
「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。
戻らない。
復縁しない。
選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。
これは、
愚かな王太子が壊した国と、
“何も壊さずに離れた令嬢”の物語。
静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる