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しおりを挟む伯爵領での生活は穏やかなものだった。貧しい領地ではあったが、季節の移り変わりが良くわかり、風を感じ、太陽の光を浴びて、広い空を眺めると、王宮での日々が夢だったように思える。
「私、あそこで、疲れていたのかしら。」
やっと息ができるようになったような感覚に、癒される日々。シャーロット様が時々手紙をくださるが、手紙の中の出来事は、もう遠い世界の話のように感じていた。私も、こっちで元気だと綴る手紙も、何か遠い昔の旧友に宛てているような、懐かしむ気持ちの方が強くなった。
私が書類仕事を手伝うことで、お兄様と義姉さんの体が空くらしく、その時間で領地の視察を増やしたり、子供達と遊べると喜んで貰えている。そのうちオリヴィアも書類だけでなく、領民と共に直接仕事をさせてもらいたいと思っている。
このままここで、穏やかに過ごしていけたら、と思えるようになった頃だった。
「え?反乱?」
「ああ。どうも、きな臭い」
お兄様が言うには、中央では、反乱の気配があるらしい。横暴な陛下に反抗勢力が手を取り始めていると言うのだ。
「ほら。お前が仕えていたお姫様、あの子を泣かせたとかで、首を跳ねられた子が居ただろう。その子の父親と、王弟の息子が怪我をさせられたとかで、王都に入ることを禁じられた若者がいたよな。その2人が手を結んだようだ。」
「そんな……子供の喧嘩くらいで、そこまでするの?」
義姉さんは、そう言って不安気に自分を抱きしめた。
「私も、噂でしか聞いたことがありませんが、そう……かもしれません。陛下は身内を害する相手には、とても厳しいお方でしたから。」
そうか。レイルはこういうことを知っていたから、本当に怖かったのかもしれない。恋心が薄れた今だから、少しだけわかる。もしも、自分の行動で、その処分が家族にまで及んだらと思うなら、あの時、素直に私を望むことなどできはしなかったのも頷ける。
「それでお兄様、どうなさるんです?」
「中央から協力要請が来たが、ウチには戦力などないから出しようがないからな。金と麦を送ることにするよ。」
「そうですね。それで良いと思います。」
「財政を圧迫するわね。」
「とはいえ、中央で何があっても、ここへ戦火は届かないさ。それで良しとするしかない。」
中央の話など、噂程度しか届かない。のんびりと時間が過ぎていくここでは、そうやって直接の要請でも届かない限り、毎日の日々は何も変わりはしない。それほどまでに、辺境に位置しているのだ。
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