僕がどこにいても、君をいちばん愛してる

彩柚月

文字の大きさ
9 / 31

9

しおりを挟む

 誰?と聞かれても、自分の名前はひとつしか持っていない。
 「陽葵ひまり、だけど……。」
 「やっぱり陽葵なんだ。」
 「当たり前でしょう。あなたこそ誰なの。」
 「蓮、だよ。」
 「嘘よ。だって蓮は今日死んだもの。」
 「うーん……困ったね。」

 目の前に居る、どう見ても蓮にしか見えない人物は、困ったように笑顔を作った。

 「僕の認識では、陽葵が今日死んだんだよね。」
 目の前に居る人物が言っていることがわからない。だって、私はここに居る。どういうこと?混乱して思考が定まらない。

 「手を出してみてくれないかな?」
 「手?」
 そう言われて、素直に両手を出した。
 「触れても、いいかな?」
 「え、うん。」
 彼は、私の手を触って、にぎにぎする。
 「ちょ、何なの?」
 「いや、実体があるのかな、と思って。あるし、体温もあるね。幽霊じゃないみたいだ。」

 そう言われて、初めて、私の手を握っている手にも実態があり体温があることを認識した。

 「本当に、蓮、なの?」
 「うん。」
 
 蓮が生きている。嬉しい。死んだなんて嘘だったんだ。きっと夢を見てたんだ。

 「良かった。生きてたんだね。私、あれが最期なのかと思って、本当に……後悔したの。私、私ね、」
 「ストップ。」
 「え?」
 
 「うーん……困ったな。」
 先ほどと同じセリフをもう一度言ってから、蓮は考え込む仕草をした。

 「とりあえずさ、ちょっと移動しよう。ここに居たら怒られちゃうよ。何処に行ったら良いかな。」
 「家に帰れば良いんじゃないの?」
 「うん。ちょっと、俺も混乱してるけど、陽葵も混乱してるよね。状況の整理をしなくちゃいけないと思うんだ。ちょっと待ってて。」

 そう言って、蓮はスマホで電話をし始めた。そして、

「1000円でお願い、……うん。週末だから?どうせ部屋空いてるでしょ?3000円は高いって。中学生に集らないでよ。……うん。うん。もう一声。じゃあ1500円で。オッケ、わかった。すぐ向かうから空けといて。」
 
 電話を切って、
 「ボロい安宿だけど、貸してくれるから、そこ行こう。」
 「宿!?」
 「あ、誤解しないで。とりあえず宿へ行ってから話したかったけど、ここで少しだけ話そうか。さっきも言った通り、陽葵は今日死んで、今、お通夜の真っ最中なんだ。陽葵そっくりの君がウロウロしてたら大騒ぎになる。」
 「そっくりって……」
 「本人みたいだけど、何にしても現状把握できるまでは、ウロウロしない方がいいと思うんだ。大丈夫。一緒に考えよう。不安なら、誰か呼ぶって言いたいけど、今は思いつかない。ごめん。とりあえず落ち着かないと。」

 「家に……」
 「ダメだよ。そうだよく見て。僕は、死んだんだよね?」
 「え……でも、生きてるじゃない。」
 「多分、違う。」
 「え?」

 「行こう。あ、その服フードついてるね。ちょうど良い。かぶって。顔見せないように。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

20年、へそくり30万円が3000万円になったら、夫が毎月「今いくら?」と聞いてくる

ベテランママ。
経済・企業
2005年、ライブドアショックのちょい前から投資生活を始め、最初は投資資産30万円。で、現在はへそくり総額3000万円に。3000万円を超えた!とついうれしくて夫に報告したら、それから毎月「今いくら?」と人のへそくりを聞くようになりました。ちょっとウザイ。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...