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翌日。
容子は弘をベビーカーに乗せて、大崎の牛乳パックの回収を手伝った。
街のあちこちの張り紙を見て、少しずつだがパックが集められる。
よく洗って切り開いて持ってきてもらうように頼んではいるのだが、入れれればいいんだろうとばかりに箱
の中に突っ込んであるものもあって、それらを整理するのに、結構手間がかかった。
弘はいつものことだから、始めしばらくは面白そうに見ていたが、退屈になったらしくぐずり出し、宥めながらの作業だった。
ときおり、通りかかった近所の人が「ご苦労様です」「大変ですね」と声をかけてくれる。だが、物珍しげにじろじろ見て行く人、聞こえよがしに「子どもをくくりつけといて、ねえ」とか「ああいうの、いかにも努力してますって感じで嫌よねえ」とか呟いていく人もいる。
自分で納得してやっていることだから、と思いながらも、今の容子には人の評価一つ一つが気になった。
「大崎さんは、どうして回収を始めたの?」
ふと容子は尋ねてみた。
大崎はきょとんとしていたが、
「そうねえ、テレビで特集見てからかな。昔、アマゾンて密林のイメージだったのよね。それが今じゃ、ほんと貧弱になってて……地球の緑の地図だかを見たときもショックだった。どんどん茶色になっていくのよね、この惑星。順や他の子ども達、ひょっとして、木や森を博物館で見るのかもしれない。そう思ったらぞっとしちゃって。子ども産むまでそうも思わなかったのにね」
「うん…わかるわ」
容子は答えて弘を抱き上げた。整理されたパックに手をかけようとするのを制して、
「私達の時に使い切った、なんて言われたくないわよね」
「だからさ、うちはペーパータオルは使ってないし、メモは広告の裏。封筒も来たのを裏返して糊ではって使うの。みっともないかもしれないし、ケチだと思われてるかもしれない。でも、それで、少しでも順に緑が残せるならいいのよ」
からからと大崎は笑った。
「強いなあ、大崎さんは」
容子はため息をついた。
「わたしは駄目だわ、迷ってばかり…」
「何を?」
「う…ん…」
容子は答えかねて口ごもった。
そこまでいろんなことで紙を節約している大崎にすれば、容子の『書きたい気持ち』がどれほどのものだろうと、紙を無駄にしているとしか思えないに違いない。それを話したときに、当然のように投げかけられる質問を、容子は恐れた。
『一体、何のために書いてるの?』
「さあて、終わった。助かった、ありがとう」
「いいえ、お役に立てないで」
大崎の声に立ち上がり、容子は弘をベビーカーに戻した。長い間座っていて疲れた腰をゆっくり伸ばし、大崎と別れた。
容子は弘をベビーカーに乗せて、大崎の牛乳パックの回収を手伝った。
街のあちこちの張り紙を見て、少しずつだがパックが集められる。
よく洗って切り開いて持ってきてもらうように頼んではいるのだが、入れれればいいんだろうとばかりに箱
の中に突っ込んであるものもあって、それらを整理するのに、結構手間がかかった。
弘はいつものことだから、始めしばらくは面白そうに見ていたが、退屈になったらしくぐずり出し、宥めながらの作業だった。
ときおり、通りかかった近所の人が「ご苦労様です」「大変ですね」と声をかけてくれる。だが、物珍しげにじろじろ見て行く人、聞こえよがしに「子どもをくくりつけといて、ねえ」とか「ああいうの、いかにも努力してますって感じで嫌よねえ」とか呟いていく人もいる。
自分で納得してやっていることだから、と思いながらも、今の容子には人の評価一つ一つが気になった。
「大崎さんは、どうして回収を始めたの?」
ふと容子は尋ねてみた。
大崎はきょとんとしていたが、
「そうねえ、テレビで特集見てからかな。昔、アマゾンて密林のイメージだったのよね。それが今じゃ、ほんと貧弱になってて……地球の緑の地図だかを見たときもショックだった。どんどん茶色になっていくのよね、この惑星。順や他の子ども達、ひょっとして、木や森を博物館で見るのかもしれない。そう思ったらぞっとしちゃって。子ども産むまでそうも思わなかったのにね」
「うん…わかるわ」
容子は答えて弘を抱き上げた。整理されたパックに手をかけようとするのを制して、
「私達の時に使い切った、なんて言われたくないわよね」
「だからさ、うちはペーパータオルは使ってないし、メモは広告の裏。封筒も来たのを裏返して糊ではって使うの。みっともないかもしれないし、ケチだと思われてるかもしれない。でも、それで、少しでも順に緑が残せるならいいのよ」
からからと大崎は笑った。
「強いなあ、大崎さんは」
容子はため息をついた。
「わたしは駄目だわ、迷ってばかり…」
「何を?」
「う…ん…」
容子は答えかねて口ごもった。
そこまでいろんなことで紙を節約している大崎にすれば、容子の『書きたい気持ち』がどれほどのものだろうと、紙を無駄にしているとしか思えないに違いない。それを話したときに、当然のように投げかけられる質問を、容子は恐れた。
『一体、何のために書いてるの?』
「さあて、終わった。助かった、ありがとう」
「いいえ、お役に立てないで」
大崎の声に立ち上がり、容子は弘をベビーカーに戻した。長い間座っていて疲れた腰をゆっくり伸ばし、大崎と別れた。
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