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『後日譚』
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『ジャーナル』巻頭インタビューより抜粋。
初めまして。桜木護王です。
いや、おひさしぶりですね、と言うべきかな?(笑)
20年ぶりの『桜の護王』リメイクということで一番舞い上がってます。
今回の映画で僕は『護王』を演じるわけですが、実は20年前の、出版された直後の映画にも出てるんですよ。え? えーとほら、あの、護王の小さい時の、泣いてる子ども、あれを演じて(?)まして(笑)。そう、そうですね、だから、僕にとってこの作品は人生そのもの、に近くなってるかも。
芸名も、その時に頂いたんです、ぴったりだからって(笑)。原作を書いた母も、まさか僕が護王を演じることになるとは思っていなかったようで、話が来たとき驚いていました。今回もいいスタッフに恵まれて、いい仕上がりになっていると思います、って、これは監督が言うことですよね(笑)。
え? そうですね……また数十年後にリメイクがあるなら、今度は狂気の医学者の役をやりたいですね。不老不死を願って子どもや孫まで殺してしまう、その業みたいなもの………護王を演ったからかもしれませんが、哀しいと思います。けれど、彼を演って、初めて僕はこの物語の真の意味がわかる気もするんです。(略)
「もしもし? あ、かあさん? ああ、うん、『ジャーナル』。読んでくれたんだ? うん……いや、なんか偉そうなこと、言っちゃったなあって思ってるとこ。……ううん、寂しくないよ。とうさんも元気? 元気、だよね? …………うん、わざとひっかかる言い方した。………あのさ、この『桜の護王』、実話、なんじゃない? ………えーとつまりその、とうさんの異常な若さ、って何だろうなって思ってたんだ、ずっと。俺達家族がばらばらに離れて暮らしてること、俺が役者になったから、だけじゃないよね? とうさんのこと、もあるんじゃない? 俺、今回『護王』演ってさ、なんかいろいろすとん、と落ちるとこがあって。……なんかさ、俺があの赤ん坊だったら、つじつま、合うんだよね。始めの映画の時、かあさんが凄く渋ったのも。出るはずだった子役が体調崩して、俺が演ったけど、俺、実はさ………あの時期繰り返し、光の滝、の夢、見てたんだよ。………………泣かないでよ。………俺も泣きたくなるからさ。………俺………俺……感謝してる。………ありがとう。俺を、もう一度、迎えてくれて。かあさんにとっては、大変な覚悟だったはず、だよね? ………ありがとう。俺をちゃんと育ててくれて。…………とうさんにも伝えて。……え、わかるよ、側できりきりして怒ってるんだろ? かあさん泣かして………う、わ! …………とうさん。……とう、さん! 落ち着けって! かあさんを苛めるわけないだろ。ってか、苛めたのはあんただろ。……え? 俺は護王を演ったんだぜ? あんたがどんな気持ちだったか、ようくわかってるさ! むかつくほどな! ………でも、安心しろよ、その人は、あんたのものだ、永久に。………ああ………わかってる。………わかってるんだよ、とうさん。………だから、俺は映画に出たんだ。………え? ……わかんないのか? あれは、残るだろ? あんたとかあさんが生きてたことの、俺は生き証人だぜ? あそこに、あんたがかあさんと生きていた時間があるんだ……そういうことだろ? あんたはそれを、繰り返し見られる。どれだけ時間が流れても。…………少しは寂しくないだろ? ………え? ばか? 俺が? どうして。………あ………。………そっか……ごめん……。………俺って……浅い、なあ……。………うん……わかった。俺…できるだけ長く役者やるよ。たくさん作品に出る。どんな小さな役でも、できる限り受ける。……作品数だけ教えてやるから、探せよ、俺を。……そしたら………うん……俺はあんたを、尊敬、してるよ。あんたの……長い命と、それを生きてきた、強さに、敬意を、払う。………結婚もする。子どもも作る。……で、子どもに秘密を伝える、そっと。いつか……俺のずっと先の命で……また、あんたに会えたら………そのときはまた一緒に、暮らそう、とうさん」
受話器の彼方で、啜り泣く声が、微かに聞こえた。
桜の樹が泣いている。
孤独の傷みにではなく、報われる祈りの喜びに。
「かあさん、とうさん………」
愛してるよ。
ことばは夜空に融ける。
ただ、それだけが足りなくて、人はどれほど傷んでいるだろう。
だから俺は放つ、この想いを繰り返し。
愛してるよ。
愛してる。
うんとずっと愛してる。
完
初めまして。桜木護王です。
いや、おひさしぶりですね、と言うべきかな?(笑)
20年ぶりの『桜の護王』リメイクということで一番舞い上がってます。
今回の映画で僕は『護王』を演じるわけですが、実は20年前の、出版された直後の映画にも出てるんですよ。え? えーとほら、あの、護王の小さい時の、泣いてる子ども、あれを演じて(?)まして(笑)。そう、そうですね、だから、僕にとってこの作品は人生そのもの、に近くなってるかも。
芸名も、その時に頂いたんです、ぴったりだからって(笑)。原作を書いた母も、まさか僕が護王を演じることになるとは思っていなかったようで、話が来たとき驚いていました。今回もいいスタッフに恵まれて、いい仕上がりになっていると思います、って、これは監督が言うことですよね(笑)。
え? そうですね……また数十年後にリメイクがあるなら、今度は狂気の医学者の役をやりたいですね。不老不死を願って子どもや孫まで殺してしまう、その業みたいなもの………護王を演ったからかもしれませんが、哀しいと思います。けれど、彼を演って、初めて僕はこの物語の真の意味がわかる気もするんです。(略)
「もしもし? あ、かあさん? ああ、うん、『ジャーナル』。読んでくれたんだ? うん……いや、なんか偉そうなこと、言っちゃったなあって思ってるとこ。……ううん、寂しくないよ。とうさんも元気? 元気、だよね? …………うん、わざとひっかかる言い方した。………あのさ、この『桜の護王』、実話、なんじゃない? ………えーとつまりその、とうさんの異常な若さ、って何だろうなって思ってたんだ、ずっと。俺達家族がばらばらに離れて暮らしてること、俺が役者になったから、だけじゃないよね? とうさんのこと、もあるんじゃない? 俺、今回『護王』演ってさ、なんかいろいろすとん、と落ちるとこがあって。……なんかさ、俺があの赤ん坊だったら、つじつま、合うんだよね。始めの映画の時、かあさんが凄く渋ったのも。出るはずだった子役が体調崩して、俺が演ったけど、俺、実はさ………あの時期繰り返し、光の滝、の夢、見てたんだよ。………………泣かないでよ。………俺も泣きたくなるからさ。………俺………俺……感謝してる。………ありがとう。俺を、もう一度、迎えてくれて。かあさんにとっては、大変な覚悟だったはず、だよね? ………ありがとう。俺をちゃんと育ててくれて。…………とうさんにも伝えて。……え、わかるよ、側できりきりして怒ってるんだろ? かあさん泣かして………う、わ! …………とうさん。……とう、さん! 落ち着けって! かあさんを苛めるわけないだろ。ってか、苛めたのはあんただろ。……え? 俺は護王を演ったんだぜ? あんたがどんな気持ちだったか、ようくわかってるさ! むかつくほどな! ………でも、安心しろよ、その人は、あんたのものだ、永久に。………ああ………わかってる。………わかってるんだよ、とうさん。………だから、俺は映画に出たんだ。………え? ……わかんないのか? あれは、残るだろ? あんたとかあさんが生きてたことの、俺は生き証人だぜ? あそこに、あんたがかあさんと生きていた時間があるんだ……そういうことだろ? あんたはそれを、繰り返し見られる。どれだけ時間が流れても。…………少しは寂しくないだろ? ………え? ばか? 俺が? どうして。………あ………。………そっか……ごめん……。………俺って……浅い、なあ……。………うん……わかった。俺…できるだけ長く役者やるよ。たくさん作品に出る。どんな小さな役でも、できる限り受ける。……作品数だけ教えてやるから、探せよ、俺を。……そしたら………うん……俺はあんたを、尊敬、してるよ。あんたの……長い命と、それを生きてきた、強さに、敬意を、払う。………結婚もする。子どもも作る。……で、子どもに秘密を伝える、そっと。いつか……俺のずっと先の命で……また、あんたに会えたら………そのときはまた一緒に、暮らそう、とうさん」
受話器の彼方で、啜り泣く声が、微かに聞こえた。
桜の樹が泣いている。
孤独の傷みにではなく、報われる祈りの喜びに。
「かあさん、とうさん………」
愛してるよ。
ことばは夜空に融ける。
ただ、それだけが足りなくて、人はどれほど傷んでいるだろう。
だから俺は放つ、この想いを繰り返し。
愛してるよ。
愛してる。
うんとずっと愛してる。
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