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11.三日目、四時限
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では、みなさん、もう一度、叩かれたところの感覚を丁寧に思い出し認識して下さい。
難しい? そうですね。
では「叩いた人」を思い浮かべて下さい。
「叩かれた瞬間」を思い浮かべて下さい。
その場所の感覚が強まった人? ………はい、よろしい。
強まってはいないが、不愉快な気分になった人? …………はい、いいですね。
では、そのままで『授業の中で教師の指示によるものだった』と考えて下さい。
……………そうですね。
ある人は感覚が消え失せ、ある人は不快を感じるものや相手が変わったでしょう?
全体的にはそれに耐えられるようになったはずです。
それが「理由付け」です。
ある出来事とある感覚が自分を傷つけるようなものとして働いている場合、私達はそこで留まり動くことができなくなります。
しかし、そのままでは、様々な問題が生じます。
そこで、早急に活動を再開すること、すなわち回復が求められるのです。
そのための方法の一つとして「理由付け」というシステムがあります。
「理由付け」は個人差があります。内容に社会的に正しいものと個人的に正しいものがありますが、関連性はありません。社会的に正しくても個人的に間違っているものがあり、逆もあります。
しかし、この「理由付け」がうまく働くと、それらは一つの箱におさめられ、心の棚にしまい込まれ、傷みの回復が始まります。
……そうです。
時間の経過、という「理由付け」もあります。
けれど、それには長時間かかる場合がありますし、回復途中に新たな傷を受けると、傷が複雑になって回復により時間がかかったりします。
これから学ぶのは、その時間を短縮し、効果的な回復を導く方法です。
準備として重要なのが、「痛み」の部位、範囲、深さ、強さ、種類などの認識です。
つまり、「痛み」は、修復を必要としている部位が、自分のどこにどのような形であるのかを教えるセンサーとして使えるのです。
え? ………いえ、違います。
薬草や外科的処置ではありません。
……そうです、呪文や祈祷でもありません。
先回りはしないように。偏見につながり、必要なものを学べなくなります。
では、もう一度叩かれたところの感覚を認識して下さい。
一番辛く感じる部分は、どこにどれぐらいの深さでどのように広がっていますか。
…………鈍くなっているようならば、さきほどの手法で感覚を呼び戻して下さい。
心のような見えないものでも肉体が代行することで理解できる形になります。
また、今のように「痛み」を感じたときの感覚を認識しておけば、自分が感知できないところで傷ついている場合も拾い上げられます。
……はい、『さくりふぁいす』くん?
よくわかりません?
……………そうですか。
あなたは「叩かれた」感覚をどう感じましたか?
必要なものだと?
………………なるほど。
つらくてきつくて大変だけれど、頑張りました、と?
なるほど。
「痛み」が弱まっているのなら呼び戻して下さい。
…………戻りません?
そうですか。では、指示した手法を使って下さい。
「叩いた人」は?
………そうですね、あなた自身です。あなたへの怒りや恐怖や憎しみが動きますか?
…………そうでしょうね、難しいでしょう。
「叩かれた瞬間」は?
…………わかりにくいのも無理はないと思いますよ。
あなたは自分で叩いたのだから、あらかじめ程度もタイミングも予想できた。予想できたものが予想したとおりにやってきたとき、印象は弱まります。
だから、難しい、そう言ったはずですが。
………はい?
………説明不足?
………………なるほど。学ぶ目的をあらかじめ説明されていたならば、ちゃんと他の人に叩いてもらったというのですね。あなたがそうできなかったのは、あなたが勝手に指示を変更したせいではなく、私が十分な説明をせず、あなたに授業を理解させようとしなかった、と?
なるほど、一理ありますね。
けれど、私は少し不思議なのですが、なぜあなたは指示を変更したのですか?
一番初めに言ったはずです。
あなたがたは何を学ぼうとしてるのか、知らない、と。
『さくりふぁいす』くん、なぜ、あなたは自分で叩くことを選んだのですか?
…………ふむ。
誰かを叩きたくもなかった、誰かに叩かせてあなたに負い目をもたせたくなかった?
………名前にふさわしい、犠牲的な答えですが、この状況では二つの点で間違っています。
まず一つ目。
他の人を叩くことが苦痛で不快であること、叩いた人があなたに負い目を持って苦しむだろうこと、それは全て「あなたの世界」での「前提」です。捨てられないのなら、この先の授業は理解困難です。
二つ目。
次第にわかりますが、他者を傷つける苦痛、他者に傷つけられる苦痛、その両方とも私は授業の中で必要とするのです。始めから回避されては、教科書と筆記用具なしで膨大な講議を理解しようとするようなものです。
今あなたがみなさんの貴重な時間を自分のために浪費させていることに気付かず、自分の「美しい」犠牲に酔うのを楽しむようならば、あなたはここで学ぶ意味はないと思いますよ。
大人になったらいらっしゃい。
難しい? そうですね。
では「叩いた人」を思い浮かべて下さい。
「叩かれた瞬間」を思い浮かべて下さい。
その場所の感覚が強まった人? ………はい、よろしい。
強まってはいないが、不愉快な気分になった人? …………はい、いいですね。
では、そのままで『授業の中で教師の指示によるものだった』と考えて下さい。
……………そうですね。
ある人は感覚が消え失せ、ある人は不快を感じるものや相手が変わったでしょう?
全体的にはそれに耐えられるようになったはずです。
それが「理由付け」です。
ある出来事とある感覚が自分を傷つけるようなものとして働いている場合、私達はそこで留まり動くことができなくなります。
しかし、そのままでは、様々な問題が生じます。
そこで、早急に活動を再開すること、すなわち回復が求められるのです。
そのための方法の一つとして「理由付け」というシステムがあります。
「理由付け」は個人差があります。内容に社会的に正しいものと個人的に正しいものがありますが、関連性はありません。社会的に正しくても個人的に間違っているものがあり、逆もあります。
しかし、この「理由付け」がうまく働くと、それらは一つの箱におさめられ、心の棚にしまい込まれ、傷みの回復が始まります。
……そうです。
時間の経過、という「理由付け」もあります。
けれど、それには長時間かかる場合がありますし、回復途中に新たな傷を受けると、傷が複雑になって回復により時間がかかったりします。
これから学ぶのは、その時間を短縮し、効果的な回復を導く方法です。
準備として重要なのが、「痛み」の部位、範囲、深さ、強さ、種類などの認識です。
つまり、「痛み」は、修復を必要としている部位が、自分のどこにどのような形であるのかを教えるセンサーとして使えるのです。
え? ………いえ、違います。
薬草や外科的処置ではありません。
……そうです、呪文や祈祷でもありません。
先回りはしないように。偏見につながり、必要なものを学べなくなります。
では、もう一度叩かれたところの感覚を認識して下さい。
一番辛く感じる部分は、どこにどれぐらいの深さでどのように広がっていますか。
…………鈍くなっているようならば、さきほどの手法で感覚を呼び戻して下さい。
心のような見えないものでも肉体が代行することで理解できる形になります。
また、今のように「痛み」を感じたときの感覚を認識しておけば、自分が感知できないところで傷ついている場合も拾い上げられます。
……はい、『さくりふぁいす』くん?
よくわかりません?
……………そうですか。
あなたは「叩かれた」感覚をどう感じましたか?
必要なものだと?
………………なるほど。
つらくてきつくて大変だけれど、頑張りました、と?
なるほど。
「痛み」が弱まっているのなら呼び戻して下さい。
…………戻りません?
そうですか。では、指示した手法を使って下さい。
「叩いた人」は?
………そうですね、あなた自身です。あなたへの怒りや恐怖や憎しみが動きますか?
…………そうでしょうね、難しいでしょう。
「叩かれた瞬間」は?
…………わかりにくいのも無理はないと思いますよ。
あなたは自分で叩いたのだから、あらかじめ程度もタイミングも予想できた。予想できたものが予想したとおりにやってきたとき、印象は弱まります。
だから、難しい、そう言ったはずですが。
………はい?
………説明不足?
………………なるほど。学ぶ目的をあらかじめ説明されていたならば、ちゃんと他の人に叩いてもらったというのですね。あなたがそうできなかったのは、あなたが勝手に指示を変更したせいではなく、私が十分な説明をせず、あなたに授業を理解させようとしなかった、と?
なるほど、一理ありますね。
けれど、私は少し不思議なのですが、なぜあなたは指示を変更したのですか?
一番初めに言ったはずです。
あなたがたは何を学ぼうとしてるのか、知らない、と。
『さくりふぁいす』くん、なぜ、あなたは自分で叩くことを選んだのですか?
…………ふむ。
誰かを叩きたくもなかった、誰かに叩かせてあなたに負い目をもたせたくなかった?
………名前にふさわしい、犠牲的な答えですが、この状況では二つの点で間違っています。
まず一つ目。
他の人を叩くことが苦痛で不快であること、叩いた人があなたに負い目を持って苦しむだろうこと、それは全て「あなたの世界」での「前提」です。捨てられないのなら、この先の授業は理解困難です。
二つ目。
次第にわかりますが、他者を傷つける苦痛、他者に傷つけられる苦痛、その両方とも私は授業の中で必要とするのです。始めから回避されては、教科書と筆記用具なしで膨大な講議を理解しようとするようなものです。
今あなたがみなさんの貴重な時間を自分のために浪費させていることに気付かず、自分の「美しい」犠牲に酔うのを楽しむようならば、あなたはここで学ぶ意味はないと思いますよ。
大人になったらいらっしゃい。
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