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『その名の下で』
しおりを挟む俺は二度と誰も見捨てない。
自分にできることが一つでもあるうちは逃げない。
そう思っていつも粘る、後5秒、後1秒。
後もう少し。
可能性が少ないならば、なおのこと。
「あいつを、ほら、連れてきただろ、だからクスリをクスリをくれよぉ!」
目の前でふぉんが男にすがる。
虚ろな眼はぎらぎらと潤み、喘ぎながら男の脚にすがりつく体はもう骨と皮だ。
「そいつを連れてこい」
男が顔をあげてはおを顎で指し示す。
「なあ、ふぉん」
猫撫で声で男がふぉんを覗き込みながら笑った。
「あいつを殺してみな? そうしたらクスリをやるよ」
「そんなっ、約束が違っ」
「ああ、それじゃあクスリはいらねえんだ? 残念だなあ」
男は手の袋からさらさらと粉を床に撒いた。
「ひぃあああ!」
ふぉんが慌てて這いずり回り、粉を舐め取るのを男が笑ってみている。
「うまいだろ? え。もっとやるぜ、後はあいつを殺ってからだ」
「う、う、う」
ふぉんが振り返るのにはおは首を横に振った。
「やめろ、ふぉん」
お互い下層の出だ。両親の顔も知らない。
けれど、ふぉんはいつか絵描きになるといい、はおはもの書きになると笑いあった。
もちろん果てしなく遠い夢だとは思っていたが、頑張っている友の姿にはおは支えられた。
だが、ふぉんはそうではなかったのだ。
いつしかクスリに頼るようになり、眠れなくなり、またクスリを手に入れるようになって、気がついたときには部屋に戻ってこないまま、組織の下でクスリを売っていた。
それでもはおにはクスリをすすめなかった、それがふぉんの優しさだったと今でもはおは思っている。
だが、組織はクスリに侵され末期になってきたふぉんの代わりにはおを引き入れようとした。
逃げ回って、ついに街を出ようとした矢先、ふぉんが話したいことがある、最後に会ってほしいと言ってきたから、誘われた場所に赴いた。
それが今のこの状況、しかも男ははおを殺すつもりというよりは、ふぉんを弄ぶための遊びの気配が濃厚だ。
「ふぉん」
「り、ん」
次の瞬間飛びかかってくるふぉんから逃げようとして引き倒された。のしかかられ首を締められ、息苦しさに脚を蹴り上げる。痩せ衰えた体は容易に吹き飛ぶ。
その一瞬にぞっとして動けなくなったはおに、またふぉんがのしかかる。男はげらげら笑ってそれを見ている。
何がだめだった。
何がまずかった。
どうしたらふぉんを救えた。
ふぉんはまるで獣のように襲ってきた。あげくに近くのパイプ椅子を掴み、はおの頭を殴ってきた。視界が眩み、口の中に血の味が広がり、激痛にはおは抵抗し、暴れた。ふぉんを殴りつけて、こぶしがふぉんの鼻血で塗れた。それでもしがみついてくる相手の腹を蹴り、ボロ屑のようにふぉんが床に崩れたのを背中に逃げた。
数日後、街の片隅でふぉんの遺体がごみ箱に捨てられているのが見つかったと聞いたとき、はおは怪我の治療で師匠の家に居た。
お前が行ってもどうにもならない。
師匠ははおがふぉんを引き取りにいくのを許さなかった。
もう終わったことだ。
師匠ははおに名前をくれた。
ふぉんの記憶を抱えたりん、と、人を愛し守れる名前、はおの二つを。
はおは、その名を背負い、今日も今を生きていく。
おわり
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