『segakiyui短編集』

segakiyui

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『野良猫とポスト』

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 雨の日も雪の日も、赤いポストの隣でずっと待っている猫が居た。
 待っている、というのは、来る人来る人を時に首を傾げ覗き込むように見るからで。
 そしてまた待ち人が来ていないのは、手紙を投函する相手が訝しげに見下ろすのに、じっと瞬きもせず見つめ返し、相手が目を逸らすと静かに自分の前足を舐め始めるからで。
 それはまるで、誰も自分のことは知らないのだ、と言い聞かせるようで。
 誰も自分には興味がないとわかっているとつぶやいているようで。
 それでもひとしきり前足を舐め終わると、くるっと耳元から顔を撫でて、さあまたやり直しと言いたげに胸を張って脚を揃えて待っている姿は、いつしか名物になり。
 カメラを向けるもの。
 遠巻きに指差すもの。
 目の前にティッシュに載せられたフィッシュ&チップスが置かれるようになって、猫は初めてうるさそうにそれを見下ろし、そろりと横へ半歩、居場所をずらした。
 その後はもう誰も餌をやるものはなくて。
 それでも時折そこから離れて、しばらくすると口の回りを舐めながら戻ってくるのは、どこかでちゃんと食事をしてるのだろうし、毛並みもそれほど悪くならないから、手入れをする場所もあるのだろうと。
 周囲の注意が薄れた頃,一人のポストマンがやってきて。
「あれ? まだいたのか」
 無造作に話しかける声。
「あれから随分立つのに」
 猫はいそいそと腰を上げて、ポストマンの手に撫でられる。嬉しそうに目を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らし。
 ああ、なんだ、あいつを待ってたのか。
 よかったんじゃないか、まあこれで。
 周囲は満足そうに囁きあって離れていき、ポストマンは、ほら、いつものやるか、と懐から出した葉書を一枚銜えさせると、猫を抱き上げて投入口へ。
 そして猫は心得たように、首尾伸ばしてごそごそ葉書をポストイン。
「お前、ほんとこれ好きだよなあ」
 ポストマンは猫を降ろし、袋を開いてポストから手紙を取り出しながら笑う。
「来るたんびにせがむんだから」
 苦笑しながら猫の出した葉書を抜き出し、懐へ。
「また今度な」
 ポストマンは仕事を終え、野良猫もまた定位置に戻り、満足そうに前足を舐めて顔を拭き。
 誰か気づいただろうか。
 野良猫に触れたのはポストマンだけ。
 降ろされる瞬間、微かに離されるまいと爪をたてたのだけど。
 ポストマンは遠ざかる。
 野良猫もまた、餌を漁りに出かけてく。
 願うことなら嵐の日が、それほど多くないといい。
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