『segakiyui短編集』

segakiyui

文字の大きさ
13 / 148

『100人の赤ん坊と100人のお母さん』

しおりを挟む
 ある国に、お母さんを信じていない王様がおりました。
 小さい頃にお母さんと離れ、一人で暮らしてきたせいかも知れません。
 王様は「お母さん」と呼ばれる女と、ミルクを飲むような赤ん坊が大嫌いでした。
 そこである日、次のようなお触れを出しました。
『5歳以下の子どもを持った母親は、
 この国よりすぐに出て行き、
 2度と戻ってきてはならない』
 違反した者は死刑にすると言うのです。
 さあ国中は大騒ぎです。
 1人の勇敢な女が王様に会いに行って、こう言いました。
「あんまりひどい法律です。王様にもお母様はいらっしゃるでしょうに」
「わしには母親なぞいないのだ」
「母親がいなくて生まれてくる子どもはおりません」
「わしは1人で大きくなったのだ」
「人は、親なくして育つものではありません」
「では、女、わしと一つ、賭けをしよう」
 王様は1つの条件を出しました。
 5歳以下の子どもを持つ100人の母親とその子どもを広場に集め、全ての母と子がお互いに間違えずに相手を選べば女の勝ち、1人でも選べなければ王様の勝ち。
 ただし、その100人の中には口もきけない、生まれたばかりの子どもも入れると言うのです。
「どうじゃな、賭けに勝てば、お触れはやめよう。それに、そなたも出るのじゃぞ」
「わかりました」
 女は静かに頷きました。
 いよいよ、王様との賭けの日がやってきました。
 広場は、心配そうな母親と、訳もわからず1人にされて泣き喚く子どもで一杯です。
 周りには国中の人々、少し高い所に王様が座っています。
「それ!」
 声と同時に、母と子は呼び合い探し合って、見る見るうちに抱き合っていきます。97組、98組、99組まで抱き合いました。広場の中に残されたのは、火の付いたように泣いている1人の赤ん坊と、あの勇敢な女だけです。
 女はゆっくり赤ん坊の側に寄り、愛を込めて赤ん坊を抱き上げました。
 その途端、王様は大きな声で言いました。
「そーら、間違った!!」
 実は、王様は、子どもの中に1人の捨て子を混ぜたのです。女の子どもと同じような年頃の、同じ性別の子どもを混ぜて、女を試したのでした。
 ところが、女は少しも慌てず、その赤ん坊に乳を含ませながら言いました。
「知っております」
「なんと!」
 王様はびっくりして尋ねました。
「賭けに負けてしまったのだぞ。どうして、その子を抱き上げたのだ」
「見知らぬ所へ連れて来られ、怯えて乳を求めて泣いている子を、どうして抱き上げずにいられましょうか」
 答えた女の頬に涙が一筋伝わるのを見て、王様ははっとしました。
「そうか……わしも、そうして誰かに抱き上げてもらったのか」
 王様は低い声で言いました。
 お触れはすぐに取りやめになりました。
 その後、母と子の溢れる街の中を、時折楽しそうに散歩する、王様の姿が見られるようになりました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...