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『売れっ子』
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「やあ」
「おや」
図書館で出会った2人の作家は気まずい顔で挨拶を交わした。
「お忙しそうですな」
「そちらこそ」
受けたYが照れ笑いをして、手にしていたカードを隠そうとする。そのタイトルを覗き込んだKが、素早く読み上げた。
「はああん、ロボット心理学応用論」
「この間、『読者』から突き上げられたんです」
渋い顔でYが溜息をつく。
「小説の中で使った人名が、なぜその名前でなくてはならないのか、とね。読者に小説の展開を暗示させるような姓名しか使用してはならないという小説条約第78条に抵触している、というんですよ」
「厄介なことですな。大戦後、碌なことがない」
「人類はほとんど死んでしまって……生き残った人間は全て作家にされてしまった…」
「紙だけを侵す爆弾なんて考えたのはどの国だったんですかね。メディアに収められていたものも結構あったが、かなりの数の作品が紙製の本にのみ収録されていたから、全体量としては小説が激減した」
Yが重く首を振る。
「問題は『あいつら』が小説を楽しんでたってことですよ。音楽や絵画、詩や和歌俳句などは『感性』が大きく関わってくるが、小説は『感性』なしでも、場面さえ理解できれば読めないことはない。『あいつら』は古き良き時代を懐かしんでるんですよ、我々の書く小説で」
「メディアの読み込みは一瞬で済んでしまうし、絶対量はいつも圧倒的に足りないし。小説条約も、理解を深めるために作られたそうですよ」
Kが付け加え、2人は同時に大きな溜息をついた。
「嫌なご時世ですよ」
Kはぼそりと呟いて、手にしたカードのタイトルを眺めた。『機械学初心者用~よくわかる小説条約~』。
「昔のように自由気ままに書ければねえ」
「お、いけない」
Yが声を上げた。
「そろそろ編集者が来る頃だ」
言い終わるか終わらないかで入口から1台の編集者ロボットM2が滑り込んで来た。電子眼でYを捉えると、けたたましく叫びながら近づいて来る。
「センセイ、センセイ、ゲンコーデキマシタカ?」
「これだけは昔から同じ文句だ」
Yは苦笑した。
「センセイ、センセイノ作品、評判ガイイデスヨ。RBタイプニ『受ケテ』マス」
「RBは企業幹部クラスでしたね」
Kが羨ましげに呟いた。
「私なんかZYタイプ、宇宙船監視要員の定時チェックの暇つぶしにしか読んでもらえていない」
「センセイ、センセイ、ハヤク、ゲンコークダサイ」
「ああ、わかってる」
YはKと一緒に貸し出し手続きの窓口で立ち止まった。司書ロボットがにっこり笑って手を差し出す。その手にカードを乗せながら、小さな声で呟いた。
「人口200に、ロボット口37億…か」
「え?」
Kが振り返った。
「嫌ね、ここでは売れない作家なぞいないだろうなあ、と」
「それはそうでしょうね」
2人は乾いた声で笑った。
終わり
「おや」
図書館で出会った2人の作家は気まずい顔で挨拶を交わした。
「お忙しそうですな」
「そちらこそ」
受けたYが照れ笑いをして、手にしていたカードを隠そうとする。そのタイトルを覗き込んだKが、素早く読み上げた。
「はああん、ロボット心理学応用論」
「この間、『読者』から突き上げられたんです」
渋い顔でYが溜息をつく。
「小説の中で使った人名が、なぜその名前でなくてはならないのか、とね。読者に小説の展開を暗示させるような姓名しか使用してはならないという小説条約第78条に抵触している、というんですよ」
「厄介なことですな。大戦後、碌なことがない」
「人類はほとんど死んでしまって……生き残った人間は全て作家にされてしまった…」
「紙だけを侵す爆弾なんて考えたのはどの国だったんですかね。メディアに収められていたものも結構あったが、かなりの数の作品が紙製の本にのみ収録されていたから、全体量としては小説が激減した」
Yが重く首を振る。
「問題は『あいつら』が小説を楽しんでたってことですよ。音楽や絵画、詩や和歌俳句などは『感性』が大きく関わってくるが、小説は『感性』なしでも、場面さえ理解できれば読めないことはない。『あいつら』は古き良き時代を懐かしんでるんですよ、我々の書く小説で」
「メディアの読み込みは一瞬で済んでしまうし、絶対量はいつも圧倒的に足りないし。小説条約も、理解を深めるために作られたそうですよ」
Kが付け加え、2人は同時に大きな溜息をついた。
「嫌なご時世ですよ」
Kはぼそりと呟いて、手にしたカードのタイトルを眺めた。『機械学初心者用~よくわかる小説条約~』。
「昔のように自由気ままに書ければねえ」
「お、いけない」
Yが声を上げた。
「そろそろ編集者が来る頃だ」
言い終わるか終わらないかで入口から1台の編集者ロボットM2が滑り込んで来た。電子眼でYを捉えると、けたたましく叫びながら近づいて来る。
「センセイ、センセイ、ゲンコーデキマシタカ?」
「これだけは昔から同じ文句だ」
Yは苦笑した。
「センセイ、センセイノ作品、評判ガイイデスヨ。RBタイプニ『受ケテ』マス」
「RBは企業幹部クラスでしたね」
Kが羨ましげに呟いた。
「私なんかZYタイプ、宇宙船監視要員の定時チェックの暇つぶしにしか読んでもらえていない」
「センセイ、センセイ、ハヤク、ゲンコークダサイ」
「ああ、わかってる」
YはKと一緒に貸し出し手続きの窓口で立ち止まった。司書ロボットがにっこり笑って手を差し出す。その手にカードを乗せながら、小さな声で呟いた。
「人口200に、ロボット口37億…か」
「え?」
Kが振り返った。
「嫌ね、ここでは売れない作家なぞいないだろうなあ、と」
「それはそうでしょうね」
2人は乾いた声で笑った。
終わり
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