『segakiyui短編集』

segakiyui

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『電話ボックス』

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 受話器を取り上げると、聞き慣れた友人の声が響いてきた。
「ああ、うん、今暇だけど……え? 外で?」
 俺は眉を寄せた。
「家じゃまずいのか?」
 声を低めて問うと友人は同意した。近くの電話ボックスからかけ直してくれと言う。
「サラ金にでも追われてるのか? ……冗談だよ、出てやるよ」
 俺はアパートを出て、近くにあった電話ボックスに近づいた。携帯がこれほど普及してるのに、最近出来たばかりらしく、まだ新しい。少し向こうにもう一つ、電話ボックスの明かりが見える。
 気のせいだろうか最近電話ボックスが増えた。昔みたいに透明な箱のものばかりじゃなくて、ちょっと気取ったデザインのものも多い。木や竹のレリーフを施してあるのもあるが、あまりいただけない。質感が違いすぎる。
「あ、もしもし、うん、俺だ」
 友人はすぐに出た。
「どこにいるって? えーと……ほら、アパートの斜め前、児童公園のとこの新しいやつ。…いや、子どもなんていないよ、夜中だぜ」
 俺は友人の大げさな用心を嗤った。
「何話しても大丈夫だよ……え、南米?」
 友人はいきなり奇妙な話を始めた。
 南米に、虫に獲物を呼び寄せさせて食べる、食虫植物がいると言う。引き込み役の虫は植物と共生関係にあって、残った獲物の切れ端を頂くのだと言う。
 どう思う、と友人は尋ねてきた。
「まあ…植物は動けないし、色んな手も使わざるを得ないよな……けど待てよ、話ってのはそのことなのか? ……おい、何をそんなに笑って……」
 背後でみしり、と何かが軋む音がした。同時に不意に甘い匂いが広がり、電話ボックスの中に立ち込める。吸い込んだ途端にくらりとして電話機に掴まり……悲鳴を上げた。
 それは金属ではなかった。
 色んな太さのツルが絡み合って塊となった電話機の模造品。投げ捨てた受話器も空中で形を失い、うねうねと俺に襲いかかって来る。なのに、友人の笑い声は、そっくりそのまま、受話器から響き渡って………。

 人通りの絶えた道端で、明かりを消した電話ボックスが、何かを咀嚼するように膨らみ、縮み、上下に前後に伸び縮みしている。
 やがて、その動きが止まると、電話ボックスはしゃんと背筋を伸ばすように体を伸ばして固まった。
 ぽわ、と小さな明かりが灯り、次第に光度を増しながら中身を照らし出す。
 電話機と昔懐かしいテレフォンカードの販売機、作り付けの棚に電話帳。
 人影のないその空間を、少しの悪意もないことを示すように、明々と。

                                    終わり
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