『パセリがつぶやく』

segakiyui

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「どういうことなのか、説明してほしいわね」
 岩崎は、詰め所の中で、田賀と望美を前に苦り切った声で切り出した。
 かほ子は興奮状態、家族に連絡して来てもらい井田にも診察してもらい、あれやこれやともめた後の席だった。井田も同席を依頼したのだが、望美とは話したくないの一点張りでさっさと引き上げてしまっている。
「事と次第によっては、栄養部部長にも来てもらうわ」
 望美は岩崎の顔に首をすくめた。へたな言い訳は逆効果だと判断して、栄養箋が普通食からずっと変わっていないこと、そのくせ、毎食手付かずで下膳されてくることが不安だと話した。
「栄養部の部長にも各々責任をもつ範囲があると言われました。栄養士が病棟の対応に口を出すのは、確かに畑違いかもしれません。けれども、ここは仮にも食事療法に重点を置いている病院でしょう? 拒食という、明らかに『食』の面での問題を抱えた患者に、栄養士が何のコメントもできないのはおかしいと思います」
 望美としては精一杯論理的に考えたつもりの意見だったが、岩崎は軽くいなした。
「だからといって、栄養士が、病棟内で勝手に患者に応対していいということではないでしょう。確かに、かほ子ちゃんは『食』の面で問題を抱えた患者かもしれない。けれど、その裏に、何か別の要因が隠されているかもしれないわ。医療側が統一した対応をしないで個々の考えでアプローチしていたら、その要因をもっと複雑にして、手に負えないものにしてしまうかもしれない」
 厳しい口調でたしなめる。
「でも、あたしは、始めに、ここに来たはずです。病棟としての対応を確かめに来たはずです。あのとき、病棟では、彼女に対して何もできない、そう言われたから…」
 望美がそこでことばを切ったのは、今日のかほ子の拒否が、予想していた以上に激しかったからだ。あの激しさを引き出したのが望美のせいで、これをきっかけに、拒食どころか自主退院まで言い出したならば、責任の取り方が難しくなる。
「……今、それを、どうこう言っても仕方がないと思います」
 それまで黙っていた田賀が、重い口を開いた。
「谷さんが、かほ子ちゃんにどんな話をしたのかも、私達は確かめていません。起こったことはこととして、今大切なのは、谷さんとかほ子ちゃんの間に何があったのを知ることだと思います。その中に、かほ子ちゃんの問題を解くカギがあるかもしれない」
 思わぬ救いの手に、望美は田賀を凝視した。
 さっき病室にやって来た田賀の、らしくない熱っぽいセリフにも驚いたが、田賀を改めて見直しもした。淡々とした正確さと真面目さだけが取り柄のような田賀の中にも、患者に対して揺れるものがあったのか、と思ったせいだ。
 ひょっとしたら、田賀をかほ子の治療に巻き込めるかもしれない。そんな期待も確かに抱いていたが、それがこんな形ではっきりしてくるとは、望美も思っていなかった。
「わかったわ」
 やれやれといった様子で岩崎が大きく息をついた。
「谷さんのしたことの責任は、取り敢えず後回しにしましょう。その代わり、かほ子ちゃんとどんな話をしたか、詳しく教えてもらいます。それでどう?」
 望美は大きくうなずいた。
「始めっから一人で何とかしようとは思ってない。話します」
 望美はかほ子とのやり取り、情景一つ一つを、丁寧に思い出した。
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