『闇を闇から』番外編

segakiyui

文字の大きさ
12 / 48

『迷子の迷子の』(1)

しおりを挟む
「おやすみなさい」
 受話器の向こうに言い放って通話を切った。
「どうしたの?」
 のんびりベッドに寝そべっていた真崎が電話のやりとりを聞いて体を起こす。
「今京介から電話があったんです」
「はい?」
 僕から?
 おかしそうに唇を綻ばせて笑う相手を美並は見据える。
「僕はここに居るよね」
「そうですね」
「ほんとに僕だった?」
「京介でした」
 口調も声も困った響きの甘さも。
「へえ」
 ちょっと嫉妬しちゃうな。
 相手はくすくす笑って枕に顔を乗せる。
「これからって時に、邪魔が入ったね」
「京介、聞いていいですか?」
 さっきから引っ掛かっていたことを美並は尋ねてみることにする。
「今日、得意先から直帰したって言いましたよね?」
「うん」
「石塚さんには電話で伝えたって」
「うん」
「で、それは5時すぎだったって」
「そうだよ」
「で、問題なのは」
 石塚さんは、今日午後から急に腹痛で早退してて、部屋には誰もいなかったんですが。
「私はお休みもらってましたし」
「……」
「とりあえず3時までは居るって細田課長はおっしゃってましたが」
 そうすると京介が電話した相手は細田課長のはずですよね?
「……腹痛かあ」
「腹痛です」
「イレギュラーだよね?」
「イレギュラーですね」
「そういうことがあるなんてなあ」
「面白いですね」
「で?」
「で、とは?」
「僕はここに居るよね?」
「そうですね」
 どうみても京介ですね。
「で?」
「で、とは」
「今の電話は誰だと思うの?」
「京介だと思います」
「それにしてはそっけなかったよね」
 美並は静かに目を細める。
「目の前に居る、どう見ても京介のあなたが誰だか、まだわかりませんから」
「へえ」
 じゃあ美並は電話の僕が本物だと思ってるんだ。
「ひどいなあ」
「別にひどくないですよ」
 美並は微笑む。
「見えてるだけですから」
「え?」
「京介の中にはとても綺麗な刃があるんです」
「うん」
「あなたの中には何もないでしょう?」
 あえて言えば、ふわふわの綿、のように見えますが。
「あれ」
 ばれてたのか。
 ぼむっ。
 つぶやいた相手はいきなりぬいぐるみのクマになった。
「………なるほど」
 溜め息をついて美並はクマを拾い上げ、ゴミ袋に突っ込んで口を縛る。一瞬中でクマがじたばたしたが、無視してそのまま鞄に突っ込み、部屋の鍵を取り上げた。
「京介を見つけるまで、同行してもらいますよ」
 ばこり。
 うかつに部屋に入れた自分への怒り半分でクマの頭を殴る。
「……無事見つけられるといいんですが」
 京介を見つけられなかった時は、焼却炉にでもぶちこみますか。
 冷えた呟きにクマが静かになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...