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『僕を探して』(4)
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「凄いね」
広々とした入り口には誰もいない、門番さえも。
招くように両側から競り上がっていく真っ白な絨毯を敷かれた階段、その先は正面に浮かぶ半透明の扉の中へ。
「行こうか」
「はい、京介」
微笑む伊吹に確信する、そうかこれは、あの、未来へ続くための階段。
「一段、二段」
「、く」
数えて踏みしめると、側で伊吹が顔を歪める。
見下ろすその足先がいつの間にか紅に濡れている。白くてほっそりした脚と滑らかな甲、艶やかに光るペディキュアなしの爪は今、自ら流す血で真っ赤に染まっていて。
人魚姫。
命がけで王子を慕った、自らのことばを失い、自由に泳ぐ鰭を奪われ、痛みに震える足で、今一歩ずつ人への階段を上がっていく。
「三段、四段」
「、は」
涙が零れ落ちる。きっと痛い、身を焼くほどに。今まで培ったもの、育てたもの、大事に守ってきたもの全てを、京介と歩くために捨ててくれているその激痛、それに報いるほど自分は強くなれただろうか。
「五段、六段」
「ん…っ」
小さく呻くその声を、ベッドでも聞いた、繰り返した数々の危機、乗り越えてきた数々の出来事、その闇の中できっと、こうやって繰り返し伊吹は堪えて進んで来てくれた、それに報いるほどの自分をちゃんと見つけてきただろうか。
「伊吹……美並……」
泣きながら、喘いで階段の先を見上げた。
「美並……」
まだ遠い。まだ階段は途切れない。
「美並……っ」
視界が滲む。
もう諦めていいんじゃないの?
これほど大事な人を泣かせて、これほど大事な人を傷つけて、この先に何がある?
今ならまだ間に合う、今ならきっとまだ。
伊吹を無事に返してやれる。
「だめです、京介…っ」
はっ、と強く息を吐いて、伊吹が呟いて我に返る。
「進んで」
「でも」
「前に」
「だって」
「前に」
「だって…っ」
ああ。
一瞬振り返った背後に、見てしまった、伊吹の血で染まった深紅の絨毯、背後にまるで紅の裳裾を引くように。
「いぶ……」
「美並…っ」
呻くような熱い声が、伊吹の唇から漏れる、薄紅に染まった頬を、歪めた顔を濡らす涙を追うように。
「私は…っ……真崎……っ……みな……み……っっ!」
「、く、うっ!」
瞬間、背中に羽根が生えた。
よろめくように階段を上がる伊吹を両腕で抱え上げる。抱き締めて、その重みに崩れそうなのを歯を食いしばって、けれどもう振り向くことなど考えない、まっすぐに、ただまっすぐに上を目指す、彼方の先を。
「僕は」
誓う。
「離さない」
君を。
「何があろうと」
離さない。
視界に翻る大輔の顔、恵子の顔、孝の顔、ハルの、大石の、数々の、自分の前に立ち塞がった顔に叫ぶ。
「離さないっ!」
階段の最後の一段を、美並を抱えたまま上がり切った先、扉の前で立ち塞がり薄く微笑むのは、他ならぬ自分、予想はしていたが、砕けたガラスの心で人形のように虚ろな瞳の真崎京介、その男。
「僕を、二度と、手放さないっっっ!」
突き進んで、その体にまっすぐ突っ込んでいって。
その瞬間。
「あっ…」
わかったよ、京介。
散り散りになっていく自分がそっと抱き締め返してくれた気がした。
広々とした入り口には誰もいない、門番さえも。
招くように両側から競り上がっていく真っ白な絨毯を敷かれた階段、その先は正面に浮かぶ半透明の扉の中へ。
「行こうか」
「はい、京介」
微笑む伊吹に確信する、そうかこれは、あの、未来へ続くための階段。
「一段、二段」
「、く」
数えて踏みしめると、側で伊吹が顔を歪める。
見下ろすその足先がいつの間にか紅に濡れている。白くてほっそりした脚と滑らかな甲、艶やかに光るペディキュアなしの爪は今、自ら流す血で真っ赤に染まっていて。
人魚姫。
命がけで王子を慕った、自らのことばを失い、自由に泳ぐ鰭を奪われ、痛みに震える足で、今一歩ずつ人への階段を上がっていく。
「三段、四段」
「、は」
涙が零れ落ちる。きっと痛い、身を焼くほどに。今まで培ったもの、育てたもの、大事に守ってきたもの全てを、京介と歩くために捨ててくれているその激痛、それに報いるほど自分は強くなれただろうか。
「五段、六段」
「ん…っ」
小さく呻くその声を、ベッドでも聞いた、繰り返した数々の危機、乗り越えてきた数々の出来事、その闇の中できっと、こうやって繰り返し伊吹は堪えて進んで来てくれた、それに報いるほどの自分をちゃんと見つけてきただろうか。
「伊吹……美並……」
泣きながら、喘いで階段の先を見上げた。
「美並……」
まだ遠い。まだ階段は途切れない。
「美並……っ」
視界が滲む。
もう諦めていいんじゃないの?
これほど大事な人を泣かせて、これほど大事な人を傷つけて、この先に何がある?
今ならまだ間に合う、今ならきっとまだ。
伊吹を無事に返してやれる。
「だめです、京介…っ」
はっ、と強く息を吐いて、伊吹が呟いて我に返る。
「進んで」
「でも」
「前に」
「だって」
「前に」
「だって…っ」
ああ。
一瞬振り返った背後に、見てしまった、伊吹の血で染まった深紅の絨毯、背後にまるで紅の裳裾を引くように。
「いぶ……」
「美並…っ」
呻くような熱い声が、伊吹の唇から漏れる、薄紅に染まった頬を、歪めた顔を濡らす涙を追うように。
「私は…っ……真崎……っ……みな……み……っっ!」
「、く、うっ!」
瞬間、背中に羽根が生えた。
よろめくように階段を上がる伊吹を両腕で抱え上げる。抱き締めて、その重みに崩れそうなのを歯を食いしばって、けれどもう振り向くことなど考えない、まっすぐに、ただまっすぐに上を目指す、彼方の先を。
「僕は」
誓う。
「離さない」
君を。
「何があろうと」
離さない。
視界に翻る大輔の顔、恵子の顔、孝の顔、ハルの、大石の、数々の、自分の前に立ち塞がった顔に叫ぶ。
「離さないっ!」
階段の最後の一段を、美並を抱えたまま上がり切った先、扉の前で立ち塞がり薄く微笑むのは、他ならぬ自分、予想はしていたが、砕けたガラスの心で人形のように虚ろな瞳の真崎京介、その男。
「僕を、二度と、手放さないっっっ!」
突き進んで、その体にまっすぐ突っ込んでいって。
その瞬間。
「あっ…」
わかったよ、京介。
散り散りになっていく自分がそっと抱き締め返してくれた気がした。
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