23 / 48
『テリトリー』
しおりを挟む
映画館から出たハルが、ぴたりと足を止めて美並も立ち止まる。
「何?」
ハルが凝視しているのは、色とりどりの雑貨がおもちゃ箱のように詰め込まれているビルの一階。入り口から溢れ出すのは中高生主体の女の子達だ。
「どうしたの?」
「いく」
「いいよ」
先に立って入っていくハルは、あいかわらず上下白づくめ、その色のきっぱりした気配とハル自身の周囲に構わない雰囲気に、それとなく少女達が道を開ける。
「なんか…不思議なカンジ」
「芸能人?」
こそこそと囁き合う顔を振り返りもしないハルは、ここへ来たことがあるのだろう、一角に歩み寄ると、迷わずそこの棚から小さな容器を取った。
ひょい、と美並に渡してくる。
「……痴漢撃退スプレー……?」
「おもちゃ」
「おもちゃ?」
「催涙スプレー、スタンガンは没収」
「没収?」
「軽犯罪法」
「そうなんだ」
「でも、使える」
「?」
「唐辛子」
「ああ」
掌に入る小さなケースには赤唐辛子のデフォルメイラストがある。
「目に入ると痛そう」
これを私に?
確認すると、ハルは微かに笑った。
「あいつ」
「え……あ、京介?」
「力がない」
テリトリーが守れない。
ぽつりと呟いたハルが何を言いたいのかわかった。
「そう、だね」
でも、問題は京介自身が守ろうとしないことなんだよ。
「馬鹿」
ハルはあっさり切り捨てて、美並の手からスプレーを取り、レジで精算した。ファンシーなピンクと水色の紙袋におさまったそれを美並に渡す。
「ありがとう」
俺も、馬鹿。
苦笑して、ハルは身を翻した。
「踏み込めない」
大人びた声に美並はそっとごめんね、と呟いた。
「何?」
ハルが凝視しているのは、色とりどりの雑貨がおもちゃ箱のように詰め込まれているビルの一階。入り口から溢れ出すのは中高生主体の女の子達だ。
「どうしたの?」
「いく」
「いいよ」
先に立って入っていくハルは、あいかわらず上下白づくめ、その色のきっぱりした気配とハル自身の周囲に構わない雰囲気に、それとなく少女達が道を開ける。
「なんか…不思議なカンジ」
「芸能人?」
こそこそと囁き合う顔を振り返りもしないハルは、ここへ来たことがあるのだろう、一角に歩み寄ると、迷わずそこの棚から小さな容器を取った。
ひょい、と美並に渡してくる。
「……痴漢撃退スプレー……?」
「おもちゃ」
「おもちゃ?」
「催涙スプレー、スタンガンは没収」
「没収?」
「軽犯罪法」
「そうなんだ」
「でも、使える」
「?」
「唐辛子」
「ああ」
掌に入る小さなケースには赤唐辛子のデフォルメイラストがある。
「目に入ると痛そう」
これを私に?
確認すると、ハルは微かに笑った。
「あいつ」
「え……あ、京介?」
「力がない」
テリトリーが守れない。
ぽつりと呟いたハルが何を言いたいのかわかった。
「そう、だね」
でも、問題は京介自身が守ろうとしないことなんだよ。
「馬鹿」
ハルはあっさり切り捨てて、美並の手からスプレーを取り、レジで精算した。ファンシーなピンクと水色の紙袋におさまったそれを美並に渡す。
「ありがとう」
俺も、馬鹿。
苦笑して、ハルは身を翻した。
「踏み込めない」
大人びた声に美並はそっとごめんね、と呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる