『闇を闇から』番外編

segakiyui

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『テリトリー』

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 映画館から出たハルが、ぴたりと足を止めて美並も立ち止まる。
「何?」
 ハルが凝視しているのは、色とりどりの雑貨がおもちゃ箱のように詰め込まれているビルの一階。入り口から溢れ出すのは中高生主体の女の子達だ。
「どうしたの?」
「いく」
「いいよ」
 先に立って入っていくハルは、あいかわらず上下白づくめ、その色のきっぱりした気配とハル自身の周囲に構わない雰囲気に、それとなく少女達が道を開ける。
「なんか…不思議なカンジ」
「芸能人?」
 こそこそと囁き合う顔を振り返りもしないハルは、ここへ来たことがあるのだろう、一角に歩み寄ると、迷わずそこの棚から小さな容器を取った。
 ひょい、と美並に渡してくる。
「……痴漢撃退スプレー……?」
「おもちゃ」
「おもちゃ?」
「催涙スプレー、スタンガンは没収」
「没収?」
「軽犯罪法」
「そうなんだ」
「でも、使える」
「?」
「唐辛子」
「ああ」
 掌に入る小さなケースには赤唐辛子のデフォルメイラストがある。
「目に入ると痛そう」
 これを私に?
 確認すると、ハルは微かに笑った。
「あいつ」
「え……あ、京介?」
「力がない」
 テリトリーが守れない。
 ぽつりと呟いたハルが何を言いたいのかわかった。
「そう、だね」
 でも、問題は京介自身が守ろうとしないことなんだよ。
「馬鹿」
 ハルはあっさり切り捨てて、美並の手からスプレーを取り、レジで精算した。ファンシーなピンクと水色の紙袋におさまったそれを美並に渡す。
「ありがとう」
 俺も、馬鹿。
 苦笑して、ハルは身を翻した。
「踏み込めない」
 大人びた声に美並はそっとごめんね、と呟いた。
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