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『その男』(5)
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大学でのサークル活動は順調だった。
大輔は全く気づかぬまま、女とちゃんと付き合うこともできなければ落とすこともできない、ついでに落ちてやることもできない半端な学生達の兄貴分として、気持ちよく看板になり続けた。眼のない女もまた星の数ほど、大輔が豪快な体育会系の顔を見せれば,それだけで信頼をおいてしまうような封建主義まっただ中のも居れば、切れ者のつもりでクールに近づき、大輔に力づくで落とされて妙に目覚めてしまうのも居て、それはそれで見ているだけでも面白かった。
「このままいけるんじゃないか」
大輔がそう言ってきたのは予想がついた。
「何が」
「お前のアタマと俺のカリスマ性で、ずっとやってけるだろ」
如何にも面倒見てやってもいんだぞ、と言いたげな表情に呆れたのは丁寧に隠して、
「いや、そこまでの器じゃない」
柔らかく辞退する。
「気が小さいから無理だ、これだって学生だからやれてるところはあるよ」
「なんだなんだ」
どしん、と4年にもなってまだ子供じみた背中への一撃。
「安心しろよ、俺は裏切ったりしないぞ」
どうだかな。
実は一度大輔がへまして、引きずり込んだ娘の親が噛みそうになった件があるのを、こっちには報告してきていない。口封じにかなりの金がばらまかれたようだと飯島が知らせてきた。ざっとあたって、まあこれならそうそう漏れるまいと様子を見たが、あれだって一歩間違えれば表沙汰になって致命的なものだった。何が致命的だったといって、大輔がそこに巻き込んでいた新入生の男を身代わりに逃げようとしたあたりで、そっちも親に泣きつきかけていたと後で聞いてひやりとした。
いい加減潮時だ。
筋肉馬鹿と一生と共にする気もないし。
「それに……就職も内定したし」
「どこだよ」
「桜木通販」
「桜木通販?」
聞かない名だなあ、と首を傾げる相手に微笑む。
「そりゃあ、大輔みたいにいいところに勤められるとは思わないよ、たいした能力もないしね」
「ああなるほど」
「小さな地元密着の通販会社だけど、フットワークが軽い」
「ふむ」
「商品の揃え方が面白い」
「違うのか?」
「違うよ、商品を見れば会社の価値観がわかる」
「コンビニ好きだって言ってたよな」
「ああ」
一瞬どきりとした。
それはちらっとしか話さなかった昔話だ。いつもの他愛ないおしゃべりについ興が乗ってしまって口を滑らせた。脳味噌が筋肉だから気にもするまいと思っていたのに。
「コンビニを見て回ってたって」
「…そうだよ」
「…なあ」
「うん?」
「最近、サークルにお膳立てだけして参加しないで、コンビニ巡りでもしてるとか?」
「…はは」
これだから、馬鹿も時に怖くなる。
確かに『赤』で『羽鳥』は姿を見せないトップとして密かに囁かれているが、正体を知っているのは飯島だけだ。
そして、飯島は、小学校での万引き事件で、「たまたま近くで見ていた同じ学校の少年」が泣き泣き庇って教師に訴えたおかげで、あわや全校の晒しものになりそうだったところを免れてから、その少年の忠実な下僕になっている。
全てを粉々にされるような鞭と、自ら身を挺して飛び込んで救出に来てくれる主という飴。
ドラマティックで甘い幻想。
人は極めてそれに弱い。
「こらこら怯えるなよ、うん?」
大輔がわははは、と笑いながら肩を組んできた。
「俺とお前は共犯者だ、そうだろ」
耳元で呟く声がカフェテリアのざわめきの中で不愉快に響く。
「俺は裏切ったりしない、だからさ」
また面白いことがあったら、俺にも声をかけろ。
「いいな?」
「ああ」
大輔は全く気づかぬまま、女とちゃんと付き合うこともできなければ落とすこともできない、ついでに落ちてやることもできない半端な学生達の兄貴分として、気持ちよく看板になり続けた。眼のない女もまた星の数ほど、大輔が豪快な体育会系の顔を見せれば,それだけで信頼をおいてしまうような封建主義まっただ中のも居れば、切れ者のつもりでクールに近づき、大輔に力づくで落とされて妙に目覚めてしまうのも居て、それはそれで見ているだけでも面白かった。
「このままいけるんじゃないか」
大輔がそう言ってきたのは予想がついた。
「何が」
「お前のアタマと俺のカリスマ性で、ずっとやってけるだろ」
如何にも面倒見てやってもいんだぞ、と言いたげな表情に呆れたのは丁寧に隠して、
「いや、そこまでの器じゃない」
柔らかく辞退する。
「気が小さいから無理だ、これだって学生だからやれてるところはあるよ」
「なんだなんだ」
どしん、と4年にもなってまだ子供じみた背中への一撃。
「安心しろよ、俺は裏切ったりしないぞ」
どうだかな。
実は一度大輔がへまして、引きずり込んだ娘の親が噛みそうになった件があるのを、こっちには報告してきていない。口封じにかなりの金がばらまかれたようだと飯島が知らせてきた。ざっとあたって、まあこれならそうそう漏れるまいと様子を見たが、あれだって一歩間違えれば表沙汰になって致命的なものだった。何が致命的だったといって、大輔がそこに巻き込んでいた新入生の男を身代わりに逃げようとしたあたりで、そっちも親に泣きつきかけていたと後で聞いてひやりとした。
いい加減潮時だ。
筋肉馬鹿と一生と共にする気もないし。
「それに……就職も内定したし」
「どこだよ」
「桜木通販」
「桜木通販?」
聞かない名だなあ、と首を傾げる相手に微笑む。
「そりゃあ、大輔みたいにいいところに勤められるとは思わないよ、たいした能力もないしね」
「ああなるほど」
「小さな地元密着の通販会社だけど、フットワークが軽い」
「ふむ」
「商品の揃え方が面白い」
「違うのか?」
「違うよ、商品を見れば会社の価値観がわかる」
「コンビニ好きだって言ってたよな」
「ああ」
一瞬どきりとした。
それはちらっとしか話さなかった昔話だ。いつもの他愛ないおしゃべりについ興が乗ってしまって口を滑らせた。脳味噌が筋肉だから気にもするまいと思っていたのに。
「コンビニを見て回ってたって」
「…そうだよ」
「…なあ」
「うん?」
「最近、サークルにお膳立てだけして参加しないで、コンビニ巡りでもしてるとか?」
「…はは」
これだから、馬鹿も時に怖くなる。
確かに『赤』で『羽鳥』は姿を見せないトップとして密かに囁かれているが、正体を知っているのは飯島だけだ。
そして、飯島は、小学校での万引き事件で、「たまたま近くで見ていた同じ学校の少年」が泣き泣き庇って教師に訴えたおかげで、あわや全校の晒しものになりそうだったところを免れてから、その少年の忠実な下僕になっている。
全てを粉々にされるような鞭と、自ら身を挺して飛び込んで救出に来てくれる主という飴。
ドラマティックで甘い幻想。
人は極めてそれに弱い。
「こらこら怯えるなよ、うん?」
大輔がわははは、と笑いながら肩を組んできた。
「俺とお前は共犯者だ、そうだろ」
耳元で呟く声がカフェテリアのざわめきの中で不愉快に響く。
「俺は裏切ったりしない、だからさ」
また面白いことがあったら、俺にも声をかけろ。
「いいな?」
「ああ」
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