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10.花祭(2)
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(馬鹿、だなあ)
のろのろと俯きがちに人込みの中をすり抜けて、ユーノは広場のはずれの小道に入り込む。
(逃げて、きちゃった)
せっかくアシャの側に居られたのに。
(でも)
広場に集まった人々は幸せそうだった。恋人同士、友人同士、家族同士、笑いあって嬉しそうで。ふと振り向いたアシャはちょうど娘に酒杯を満たされて、微笑みながら何か話していて。イルファとレスファートは2人1組、男達の輪の中で旅の話を面白おかしく聞かせているのか、時々どっと笑い声が起きる。
(居なくていい、よね?)
危険は去った。脅威は消えた。
なのに、ユーノはこの華やかな祝宴で、自分が何をしていいのかわからなくなって、戸惑っている。そういう自分が嫌で雰囲気だけでも楽しもうとして目を向けた先にあるのは、優しい温かい関係ばかりで。
(親……って)
あんなの、なのか。
ことばだけではなくて、動きでも、表情でも、全てが子どもに伝えている、お前が心底愛しい、と。肌を寄せ、温かみを分け与え、共に居てくれと願う指先。
(あんなふうに、想われるもの、なんだ)
そう思った瞬間に、洞窟の中で転がっていた娘と自分が重なって、間一髪生き延びたものの、どこまで生きられるのかわからない運命に、ただ独りで向かうのだと思い知った気がして。
身が竦んだ。
(諦めた、はずなのに)
ユーノは強いのだから、無条件の保護、など望んではいけない。母を支え、姉と妹を守り、父の、国民の期待に応えなくてはならない。ゼランを助け、セレドを、カザドの悪意やラズーンの見えない意図から守るのだ。
小道に入って人けがなくなったあたり、露店商か何か出ていたのだろう、片付けられた屋台と、腰を降ろして寛げそうな空き地がある。光に輝いて温かそうで、色とりどりの花びらが散っている。
「ふ、ぅ」
ユーノはそっと腰を降ろした。妙に寒くて苦しくて、膝を抱えて縮こまる。
(早く、ラズーンへ行こう)
今までこんなに辛くなったことはなかった。ああいう光景を見ても、自分には縁のないものだと諦めた………ちゃんと諦めて気持ちを切り替えてこられたのだ。
(苦しい)
『いじっぱり』
アシャの苛立った、けれど温かな思いやりのこもった声を思い出す。
『魔物(パルーク)が心配してくれていたのか』
ユーノの寝言まできちんと聞き取ってくれていた。
『……わかった、今夜はもう寝る、けれど』
熱を秘めた紫の瞳に焼かれそうで、どきどきして、けれど、その鼓動はきっとユーノのものではないのだと瞬時に言い聞かせるしかなくて、泣きそうになって。
『起こしてくれてありがとう』
(いつまで笑えるんだろう)
日ごとアシャに魅かれていく。
『うん、おやすみ』
声は震えなかったはずだ、ちゃんと普通に振る舞ったはずだ。
何も覚らせなかったはずだ、でも。
(わかって……ほしい)
ユーノの過ごしてきた夜を。追い詰められて逃げ場がなくて、ただひたすらに生き延びてきた日々を。側に居て、耳を傾けて、辛かっただろうと抱き締めてほしい。
(夢だ)
そんなことはあり得ない。
(夢だ)
だからできるだけ早くラズーンに着けるように、頑張ろう。少しでも早くアシャから離れるようにしよう。
(そうしないと)
何もかも吐き出してしまいそうになる。
(レアナ姉さまのことを)
忘れそうになる。
「…っ」
ぎゅ、と強く膝を抱き寄せた次の瞬間、ユーノは跳ね起きるように振り返った。全身を緊張させ隠し持っていた剣に手を滑らせる。
(気のせい、じゃ、ない!)
「っ!」
ざうっ、と真後ろの茂みから突き出された剣をあやうく避け、前転して逃げ、地面を蹴る。
「カザドの者かっ!」
茂みから飛び出してきた黒い影が3つ、珍しく顔に黒い仮面をつけて祭の客とも見えるが、手に光らせているのは妙な光り方をする剣、覚えに間違いがなければ痺れ薬を塗った毒剣だ。
「お前ら、しつこいんだよ!」
走り出した瞬間向きを変え、追走しようとした1人の腕を薙いだ。怯んで下がる相手の攻撃を補うように進み出てきた別の1人の剣を受け止める。がきっ、と金属音が響いた瞬間、ユーノは目を見開いた。
(この感じ?)
前に打ち合ったことがある?
(まさか、でも…誰?)
相手がユーノの視線に気付いたように一気に引いた。半身翻して逃げそうな気配、いつもならしない深追いをして踏み込んだところへ、もう1人が襲ってきて防戦になり、後ろに下がる。
(知っている相手? でも、そんな)
ユーノが闘ってきたカザド兵はほとんど倒している。逃がした敵も大怪我をしているはずだ。もし、こんなふうに闘い方に覚えがあるとしたら、何度も剣を合わせた相手ということになるが、それは親衛隊の連中しかいない。
(あの中に、裏切り者が、居た?)
セレドの中にカザドと通じている者がいた、だからこそああも易々と襲撃してこれたとすれば、馬鹿馬鹿しいほど簡単なことで。
(今も、あそこに)
ぎくりとした隙をついて突き出された剣に、とっさに防いで後ろへ1歩、茂みに近付きすぎたと思った時は遅く、首に巻き付いたものに一気に締め上げられる。
「あ……ぐっ」
(革…紐…)
細くてしなやかで滑らかで、ただの紐ではない、絞首のための獲物、そう気付いて首を怪我する覚悟で振り上げた剣は、前から迫った男にはね飛ばされる。遠慮なく締め上げてくる紐に唸りながら指をねじ込もうとするが、それもかなわない。じたばたと暴れた脚が空を蹴り、なおもきつく首を締め上げられて、ユーノは喘いだ。
(殺…される…っ)
ぼやけてくる視界に、前に立った男が剣を構え直すのが映る。口からよだれが溢れる、額から気持ち悪い汗がだらだらと流れる、呼吸が阻まれて、息をすることだけに集中してしまいそうになる、けたたましく打つ心臓がうるさい、耳鳴りが世界を圧する。
(この…ままじゃ……だめ…だ)
朦朧としながら体をねじったユーノの耳に、耳鳴りを押し退けるようにして背中から声が響いた。
「あの時に死んでおられればよかったのだ」
「っっっ!」
寒気が走った。
(この、声)
5年前、倒れて気を失う寸前に、背中を抉った相手を振り返った。意識がぼやけていて覚えていられなかった、そうだとばかり思っていた。
(お…まえは)
けれど、そうじゃなかった。
あまりにも、信じられなかった相手だったから。
あまりにも、惨い現実だったから。
同じ位置関係、同じ命の瀬戸際、繰り返されて記憶が鮮明に呼び起こされる、その記憶にユーノは凍りついた。
そうだ、あの時も、殺気は感じたけれど、それまで接近に気付かなかったのは、怪我をしていたせいばかりではない。その気配があまりにも慣れたもの、安全だと繰り返し教えられていたものだったから、無意識に警戒を緩めていたのだ。
気を許していた、その隙を狙われた。
「う…っ」
「おとなしく、されよ」
「い…や……っ」
声を絞り出し、前から迫る男の剣に逃れようと身をねじって体が動いたそのとたん、きつく紐を締められ引き戻され、あの夜と同じ場所を抉られる、相手が教えた、そのままに。
「っっあああっっ!」
ひどい、よ。
体の痛みを遥かに越えて、心を切り裂かれた衝撃に、ユーノは涙を降り零しながら絶叫した。
「ア……シャぁ……っ!!」
やっぱり気になる。
「ちょっと失礼」
「あら、どちらへ」
立ち上がったアシャに側で侍っていた娘が不審そうな声をかけてくる。その顔に唇に指を当て、微かに目を動かしてみせた。
「ま、ごめんなさい」
薄赤くなった娘の誤解をいいことに、舞台を降り、ユーノが消えた方へ歩き出す。
(戻ってこない)
ずいぶんになる。
もう1つ気になったのは、上空高くゆっくりと弧を描くように舞っている白い鳥の姿だ。ちら、とまた視線を投げると、アシャが動き出したのに気付いたように舞う範囲を変えていく。
(何だ?)
普段なら気配さえ見せないサマルカンドが、気付かなければわからないとは言え、視認できる距離まで接近してきたのに不審が広がった。
ラズーンからの連絡ならば、もっと早く接触してきているだろう。まだ成鳥に達していないとはいえ、サマルカンドが太古生物のクフィラだと知れば妙な食指を動かす輩もいるはず、その危険を冒してわざわざアシャの視界を掠めてきたのはきっと何か意味があるはずだ。
舞い降りてきやすいように人気のない空き地を探して、人込みを避け軽く俯き、目立たぬように頭から布を被って移動していると、みるみるサマルカンドが描く円を縮めてきた。
それは普通は獲物を見つけた徴だ。
「『運命(リマイン)』か?」
祭りに紛れて入り込んだ動きを察知したのかと、物陰から隠れて見上げ、アシャは眉をひそめた。
違う。あれは。
「……ユーノ…?」
危険と注意を促す旋回、未だ見つけられないユーノを思い出してぞくりとする。
「まさか…っ」
サマルカンドが舞う範囲を頼りにアシャは足を速めた。
なまじな敵に手こずるようなユーノではない、ならば戻ってこれないのは、よほどの数か、もしくは重症を負ったか。これだけの人出、そうそう目立つ場所ではやらないだろう。祭りは賑やかさを増して、あちこちで踊る人々も居る、屋台も露店商も出ている、裏路地か、それとも建物に連れ込まれて。
「ちっ」
自分が鳥肌を立てたのがわかった。竦みかけた脚を叩きつけるように走る。と、すぐ側の路地から殺気が零れ、2つの人影が飛び出すのが見えた。ちらっと見えたのは黒い仮面、日射しの中で瞬間アシャを振り返り、片方が慌てたように顔を背けた仕草にどきりとする。
(俺を、知っている?)
では、今回の敵はユーノ側というより、むしろアシャ側なのか。ならば、サマルカンドが現れたわけも納得がいく。
「くそっ!」
それならなおさら許せないと人影が飛び出した路地に駆け込み、アシャは唐突にぽかりと静まって明るい空き地に飛び出した。露店商が後で取りに来ようとしたのか半端に積まれた荷、片付けられた屋台の背後には豊かな緑。だが枝にべっとりと血しぶきが飛んで、まだ滴っているのに息を呑む。
そして、その根元には。
「ユーノ!!」
体中の血が沸騰したようだった。
叫びながら駆け寄って、いつもの冷静さも失って、鮮血に染まって倒れている小柄な姿を抱き起こす。ぐちゃり、と腕に潰れたのは引き裂かれた背中の傷、ばたばたと体を濡らしながら垂れ落ちる血がみるみる地面に広がる。意識を失って仰け反った首に巻きついた革紐、くたりとした体が重みを増してもなお軽い、もう命が残っていないほど。
「ユーノっ!」
首の革紐を解いた。ふ、と小さく、開放された喉から漏れた吐息を吸い取るように唇を合わせて、消えそうな呼吸を呼び戻す。
「……」
「ユーノ…っ!」
呼吸が緩やかに引いたまま戻らない。
ダレガ。ダレガ。ダレガ。ダレガ。
頭には何万匹という羽虫が詰め込まれたように1つのことばだけが唸っている。首を振り、過熱した視界を瞬きながらユーノを地面に横たえて上着とシャツを脱ぎ捨てた。心音は弱い。背中にシャツをあて上着を当て、もう一度唇から息を吹き込み、呼吸を確かめる。
「ユーノっっ」
呼び掛け、脈拍を確認し、弱まるかけるのに冷や汗を流しながら再び人工呼吸を試みる。出血が多い。背中を抉られ首まで締められて、こんなところに放り出されて、そう思った時点で凍るような怒りに叫びそうになる。
ダレガ。ダレガ。ダレガ。
ゼッタイ、ミツケテ、コロシテヤル。
落ち着け、と頭の奥で静かな『太皇(スーグ)』の声がした。
そこはラズーンではない。
(わかってる)
十分な設備はない。
(わかってる)
視野が狭くなり、冷静な判断を欠いている。
(わかって、いるっ)
そのままではその娘は助からない。
「く、っ」
アシャは歯を食いしばって体を起こした。目の前のユーノから、閉じた瞳から零れている涙から、一瞬目を閉じ、無理矢理意識を切り離す。
落ち着け。
崩れるな。
今ここでお前が『人』を失ってしまったらどうする。
それこそ、世界の破滅につながるだけだぞ。
呼吸を整えて眼を開けた。
心臓は動いている。呼吸は微かだが続いている。出血はどうだ、傷の程度は、深さは、今必要な手当ては何だ。
そっと抱き起こし、体温と拍動の強さと早さを再確認する。背中のシャツは血に染まってべっとり濡れているが、それが張り付いたせいで一時的な防護膜にはなっている。血の気を失って白い体を上着でくるみ抱き寄せる。後は一刻も早く保温し傷の手当てをして、ああ、その前に。
上着の懐から朱に染まった小袋を取り出した。中から青い丸薬を取り出して含み、ユーノの唇に舌で押し入れる。苦味を帯びているはずの丸薬、ユーノの血の香りが口の中に広がって咽せそうになる。
「…んふ…っ」
喘いだユーノが息苦しそうに眉を寄せながら薄目を開いた。溜まっていた涙が零れ落ち、それでも抵抗できずにアシャが含ませた丸薬を飲み下す。震える唇が微かに動く。
たす、けて。
「大丈夫だ」
心臓を鈎爪に握りしめられたように苦しくて、アシャは唸った。
「今呑んだのは強心作用がある薬だ、助けてやる、心配するな」
平静を保とうとして声が平板になった。頭の中の羽虫は静かになっているが、沸き上がってくる怒りの冷たさが尋常ではない。
ユルセナイ。
ナニモノデアロウト、ユルスコトナド、オレニハデキナイ。
ざわざわと身内を走る闇の気配を必死に堪えてことばを絞り出す。
それほど、大事なのか、この娘は。
それほどお前の制御を狂わせるのか。
自問するが答えは激情に溶けてことばにならない。
シヌナ。
オレノウデノナカデ、イクナ。
「俺が、絶対、助けてやる」
「ち…が…」
ユーノがわずかに首を振った。
「たす…け……姉…さま…」
「レアナ?」
てっきり自分を救ってくれと言われているのだと思い込んでいたアシャは眉をしかめる。少しずつ薬が効いてきているのか、心臓の拍動も呼吸も次第にはっきりしてくるのと同時に、抱えた腕にまた温かく広がり始める血に苛立って抱き上げると、小さく呻いてユーノが震える手でアシャの胸にすがった。真っ赤に濡れた指が自分の胸に紅の筋を描く、ユーノが楽になるなら、そのまま突き立ててくれても構わない、そう思ったアシャの耳に、
「姉…さま…が………あぶ…な…」
「違うだろう!」
祭りに浮かれる人々に見咎められないように裏路地へ入り込もうとしながら怒鳴った。
「お前が、危ないんだぞ!」
こんなときまで、どうして、レアナのことなんか。吐き捨てそうになって危うく踏み止まる。
「ち…が……っう」
がたがた震えながら、ユーノが涙で一杯の目で見上げてきた。
「私……襲った……の……5年……前……」
「5年前?」
荒い呼吸を吐きながら、ユーノは切ない表情に顔を歪める。
「5年間………ずっと……」
味方…だって……思って……た、のに。
「あん…まり…だ………」
「ユーノ? ユーノっ! おいっ……く、そっ」
掠れた声で呟いたユーノは自嘲するように眉を上げると、そのままアシャの腕で気を失った。
祭で人々が出払っていてよかった。
「剣士さま? どうされましたか」
「慣れない酒で寄って吐き戻した、しばらく静かに休ませてやりたいので奥を借りるぞ」
「まあそれはそれは」
留守番をしていた若い男が上半身裸のアシャとその腕に抱えられているユーノを心配そうに見遣ってくるのに、自分がついているから祭に出かけてきてもいいと促すと、男は喜んで家を出ていった。
とりあえず汚れを水で拭き浄めて連れ戻ったのは、敵にユーノが生きていると知らせたくなかったからだ。生死が不明となれば、そうすぐには次の手を打ってこないだろう。アシャが駆け付けたのもわかっているなら、もう一度策を練り直すはずだ。
「血の臭いには勘付かれなかった、か」
ほっとしてユーノを抱えたまま、借りていた部屋に入り、脚で扉を閉めて、まずは床に横たえる。手当てが済んでからベッドできちんと眠らせてやりたかった。こういうときには粗末な木の床がありがたい。
降ろした時の痛みで微かに唸ったユーノは、それでも目を開かない。真っ白な顔を見ながら、アシャは水と布を用意した。窓を閉め、扉に椅子をかませる。
成りゆきとは言え、レクスファに医療道具を置いていて助かった。吐息をつきながら上着を開き、広げたそこで静かにユーノの体を俯せ呼吸に注意する。
強心剤はよく効いているようだ。拍動は早いがしっかりしていて、少しほっとする。
「痛み止めも呑ませてやりたいが」
今すぐには無理だな、と顔をしかめながら側の机に薬を並べた。手当ての間、悲鳴を上げられてはまずいが、ようやく生死の境を越えさせたのに、その口を布で封じることなどできない。できるだけ丁寧に素早く処置して、叫び声に誰かが駆け付けてきても、夢でうなされた、と言い抜けられるといい。
(夢、か)
ユーノがうなされた夢を思い出した。あれもまた、そういうものだったのだろうか。
べっとり朱色に染まったシャツを取り除く。思ったよりは傷が浅かった。本当はとどめを刺すところだったのが、アシャが近寄ったために諦めたのだろう。
だがそれは逆に、首を締め、背中を裂いた目的が殺戮でなかったことを教えている。殺すだけではなく、いたぶろうとした気配が濃厚だ。
「……」
じり、とまた冷やかな怒りが滲みかけて、指先に意識を集中した。自分がひどく怒っていることを自覚する。不用意に刺激されて爆発しないように怒りをコントロールする。
シャツを剥がし、ユーノの衣類を切り開いた。着替えはとりあえずアシャのシャツにするとして、と水に濡らした布で傷とその周囲を拭っていったアシャは、下から現れたものに息を呑んだ。
傷。
「何…だ……これは…」
今切り裂かれた傷の真下にも、同じぐらい、いやもっと深い傷がある。脳裏を過ったのは、ここへ来るまでにカザドで襲撃されたことだ。掠っただけの傷に苦しんだユーノの腕には古傷が口を開けていた。
「…」
不安に襲われながら、急いで周囲も改める。
傷。
傷。
背中全体を埋めるように引きつれた、無数の傷痕。
「まさか…」
残っていた衣類を切って開き、次々に現れる傷痕に凍りついた。
「ば…かな…」
ユーノのほぼ全身を、大小さまざまな傷痕が覆っている。柔らかな布をそこら中裂いて無骨に縫い合わせたような、あるいは焼きごてで押したようにつるりと光った、そしてまた、見えないいろいろな太さの糸を彫り込んだような傷が、背中と言わず、華奢な首の付け根から肩、腕、微かに膨らんでいる胸や丸い臀部、大腿下腿に至るまで縦横に広がっている。かろうじて見当たらないのが手足の先と首から顔程度、つまりはユーノが衣服をつけていないところで。
「く」
着れる、わけがない。
歯を食いしばって、とっさに詰りそうになったのを堪え、アシャは手当てを進めた。消毒し、止血剤を塗り、接着剤を塗り重ねて傷を引き寄せ、ステリテープで止めていく。布を当て、包帯で丁寧に巻き包む。
「…」
指先が冷たくなっているのは、恐怖ではない、怒りからだ。
ドレスが着れるわけがない。
17の娘がこれだけの傷痕を晒す気にはなれない。ましてや、その傷がどうしてあるのかを説明する術を封じられているユーノが、晒すわけもない。
3人の娘の揃いのドレスをと望むミアナ皇妃は、本当に全く気付かなかったのか。これほどの傷は治るのにも時間がかかったはずだ。発熱もあったはずだ。眠ることもできなかったはずだ。なのに。これでは。
「生きていたほうが、奇跡、だったんじゃないか…」
包んでやると、アシャのシャツの中でユーノの体が痛々しいほど小さく見える。そっと抱き上げてベッドに寝かせ、汚れてぐしょぐしょになった衣類の片付けをしながら、アシャの胸には苛立ちと激情が渦巻いている。
なぜだ。
なぜだ。
なぜ、こいつだけが、こんな状態で放っておかれている。
あれほど平和そうな国で。
親衛隊まで職務を離れて踊りに興じるような世界で、暗い庭で、建物の影で、木立の下で、ユーノは幾晩眠れぬ夜を過ごしていたのか。
「ち、いっっ」
殴りつけたい、誰よりもまず、自分の頬を。なぜならアシャは、きっとユーノのその状態に遠からぬ責任があるはずだ、いや、今もきっと。
鋭い舌打ちをしたとたん、背後で微かに声がして、アシャは振り返った。
「……シャ……?」
「気がついたか」
「………ど……してここ…………姉さま………っっ!」
「馬鹿っ!」
ぼんやり瞳を開けたユーノがはっとしたように跳ね起きかけて凍りつく。とっさに激痛に唇を噛んでベッドに倒れ込む相手に、アシャは駆け寄る。
(また、悲鳴を噛み殺した)
きっとそれは習性なのだ。悲鳴をあげては弱っていると教えるようなものだから。弱点を教えるようなものだから。次は確実にそこを狙われるから。
だからユーノは悲鳴を上げない。
だがそれは、救出を遅らせる。助けの手を遠ざける。死ぬまで放置されてしまう。
(だから)
あれほど酷い傷を全身に負うしかなくて。1度切られた場所を無意識に避けるから、その隙間を縫うように傷を受けていくしかなくて。
「どうして…っ」
瞳を涙で曇らせながらも険しい顔でユーノが唸る。
「あいつが姉さまのところに戻ったら…っ」
「大丈夫だ」
「だってっ」
「お前の生死が不明だ」
「え…?」
「お前が生きているか死んでいるか、確かめてから動くはずだ。わざわざあんな場所でお前を狙った」
だから、事は密かに進めたかったはずだ。
「俺が早く駆け付けたから手順が狂った」
今頃慌てて確認しているはずだ。
安心させるように畳み掛けると、きりきりと歯を食いしばっていたユーノが、ゆっくり眉を緩め、ほ、う、と溜め息をついた。ゆっくりとベッドに沈み込み、ふと不安そうに瞬きして手を上げる。
「あ…っ」
「どうした?」
「ボクの…服…」
「ああ、使い物にならなくなったから処分した。………俺のじゃ不満か」
ぎゅ、と襟元をかき寄せ握り締める仕草に微妙にむっとした。
「違う…」
「じゃあなんだ」
「……見た……?」
「…………ああ」
「っ…」
びくり、とユーノが震えた。大きく見開いた目が揺れる。
「すまなかった」
そうか、と気付いてアシャは謝った。
「治療のために仕方なかったんだ」
「う…ん…」
ユーノが瞬きし、ますます襟元をきつく握る。真っ白になった顔で黒い瞳が怯え切っているのにアシャも不安になった。
「大丈夫だ、誰にも言わない」
「っっ」
「理由があったんだろう、仕方なかったんだろう、確かに女では珍しいかもしれないが、剣士なら別にどうということは」
「あ……」
慰めたつもりだったが、ユーノがますます目を見開いて困惑した。
「ユーノ?」
「剣士、なら……?」
「そうだ、剣士なら、むしろ歴戦の勇士として立派なものだ。よく頑張ってきたな」
「剣士…なら…か……」
「ユーノ…?」
「……そう……だよ…ね…」
のろのろと瞳を伏せていきながら、それでも襟元を握るこぶしは色を失うほど力を込められている。
「剣士……だよね…」
「俺の知っている限りではそれだけの傷を負って生き延びている者は少ないぞ」
たいしたものだ、そう続けながら、アシャは不安に駆られる。
(なせだ?)
ユーノの気配がどんどん弱くなる。脆くなって沈んでいって、傷の手当てはしたはずなのに、今にもまた気を失ってしまいそうだ。
ああ、そうだ、と思いついて、痛み止めを取り出して差し出した。
「とにかくこれを呑んでおけ。痛みもましになるし、回復も早くなる」
「う…ん」
ふわりと上げたユーノの瞳が今にも零れそうな涙でいっぱいで、アシャはまた凍る。
「……痛むのか?」
「え…?」
「泣いていいんだぞ、こういうときは」
「そ…か」
ユーノが微かに笑った。
「泣いて……いいのか」
いろいろ、わかっちゃったもんな、と呟きながら、ついに零しだした涙に胸が掴まれる。
側に寄って、顔を上げさせて、涙を吸い取って、そのまま唇を奪いたい。
手にした丸薬を口に含んでさっきみたいに呑ませてやって。震える舌を少し探って。
ごく、と唾を呑み込んで、自分がどれほど状況を考えない邪なことを思っているか気付いて、アシャは軽く顔を振った。
「……しかし、それだけの傷をどうして」
「……私は、アシャほど、剣がうまくない」
掠れた声でユーノが呟き、目元を手の甲で擦った。
「だから、しょっちゅうドジるんだ。今は多少使える、けど、12歳ぐらいの時は……酷くて」
口を噤む。
「12歳?」
「カザドが初めて襲撃してきたのが……それぐらい」
ぽつりぽつりと語られるユーノの過去を、アシャは鳥肌を立てながら聞いた。
(よく、無事で、いてくれた)
どの戦い1つでもユーノが生きることを諦めていたなら、今ここにユーノはいない。
(けれど、どれほどの、孤独)
たった12歳の子供が、父母を庇い、姉妹を庇って、ひたすら剣を交えて生きてきた。全身に傷を負いながら、おそらくは手当てさえも十分ではないままに。
(悲鳴も上げないで。痛みも訴えないで)
「……そのとき、背中を抉られて………」
ユーノがふいとことばを止める。まっすぐ天井に向けた瞳をそろそろと向けてくる。
「アシャ」
「なんだ」
「……この国を出たい」
「そんなに怯えなくていい、すぐに再襲撃してくるとは」
「違う」
ユーノは強い光をたたえて見つめ返してきた。
「私が襲われたと知ったら、またみんな怯えちゃう」
「……」
「せっかく、みんな、ほっとして、楽しんでるのに」
目を閉じ、静かに続けた。
「できるだけ早くここを出よう。私が襲われたことが妙な噂にならないうちに」
「しかし」
「痛み止め、あるんだよね? 回復早くなるんだよね?」
微かに笑う。
「手当てもちゃんとしてくれたんだよね? ……明日には出られる?」
「……無茶を言うな」
一瞬怒鳴り付けそうになった。
今死にかけたんだぞ。今ずたずたにされたばかりで。
なのにどうしてそこまで人を守ろうとする。
「俺には」
「アシャには仕事がある」
「仕事?」
「セレドへ戻って」
「待て」
「できるだけ早く。姉さまを、守りに」
「ユーノ」
「私にはイルファもレスもいる、けど、今あいつに対抗できるの、アシャぐらいだよ」
「あいつ?」
ぞくんと身が竦んだ。そう言えば、さっきもあいつ、と言ったなと思い出す。
「お前は自分を襲ったのが誰だか知っているのか」
「知ってるよ」
ユーノは低く嗤った。
「ずっと味方だと思ってたけど……違うんだ……そう思いたかっただけだったんだ……信じたかっただけなんだ」
つう、と額から汗が流れ落ちて、目を細めたユーノがアシャを見据える。
「私を襲ったのは……5年前と同じ」
静かな声が切なげに響いた。
「ゼランだよ」
のろのろと俯きがちに人込みの中をすり抜けて、ユーノは広場のはずれの小道に入り込む。
(逃げて、きちゃった)
せっかくアシャの側に居られたのに。
(でも)
広場に集まった人々は幸せそうだった。恋人同士、友人同士、家族同士、笑いあって嬉しそうで。ふと振り向いたアシャはちょうど娘に酒杯を満たされて、微笑みながら何か話していて。イルファとレスファートは2人1組、男達の輪の中で旅の話を面白おかしく聞かせているのか、時々どっと笑い声が起きる。
(居なくていい、よね?)
危険は去った。脅威は消えた。
なのに、ユーノはこの華やかな祝宴で、自分が何をしていいのかわからなくなって、戸惑っている。そういう自分が嫌で雰囲気だけでも楽しもうとして目を向けた先にあるのは、優しい温かい関係ばかりで。
(親……って)
あんなの、なのか。
ことばだけではなくて、動きでも、表情でも、全てが子どもに伝えている、お前が心底愛しい、と。肌を寄せ、温かみを分け与え、共に居てくれと願う指先。
(あんなふうに、想われるもの、なんだ)
そう思った瞬間に、洞窟の中で転がっていた娘と自分が重なって、間一髪生き延びたものの、どこまで生きられるのかわからない運命に、ただ独りで向かうのだと思い知った気がして。
身が竦んだ。
(諦めた、はずなのに)
ユーノは強いのだから、無条件の保護、など望んではいけない。母を支え、姉と妹を守り、父の、国民の期待に応えなくてはならない。ゼランを助け、セレドを、カザドの悪意やラズーンの見えない意図から守るのだ。
小道に入って人けがなくなったあたり、露店商か何か出ていたのだろう、片付けられた屋台と、腰を降ろして寛げそうな空き地がある。光に輝いて温かそうで、色とりどりの花びらが散っている。
「ふ、ぅ」
ユーノはそっと腰を降ろした。妙に寒くて苦しくて、膝を抱えて縮こまる。
(早く、ラズーンへ行こう)
今までこんなに辛くなったことはなかった。ああいう光景を見ても、自分には縁のないものだと諦めた………ちゃんと諦めて気持ちを切り替えてこられたのだ。
(苦しい)
『いじっぱり』
アシャの苛立った、けれど温かな思いやりのこもった声を思い出す。
『魔物(パルーク)が心配してくれていたのか』
ユーノの寝言まできちんと聞き取ってくれていた。
『……わかった、今夜はもう寝る、けれど』
熱を秘めた紫の瞳に焼かれそうで、どきどきして、けれど、その鼓動はきっとユーノのものではないのだと瞬時に言い聞かせるしかなくて、泣きそうになって。
『起こしてくれてありがとう』
(いつまで笑えるんだろう)
日ごとアシャに魅かれていく。
『うん、おやすみ』
声は震えなかったはずだ、ちゃんと普通に振る舞ったはずだ。
何も覚らせなかったはずだ、でも。
(わかって……ほしい)
ユーノの過ごしてきた夜を。追い詰められて逃げ場がなくて、ただひたすらに生き延びてきた日々を。側に居て、耳を傾けて、辛かっただろうと抱き締めてほしい。
(夢だ)
そんなことはあり得ない。
(夢だ)
だからできるだけ早くラズーンに着けるように、頑張ろう。少しでも早くアシャから離れるようにしよう。
(そうしないと)
何もかも吐き出してしまいそうになる。
(レアナ姉さまのことを)
忘れそうになる。
「…っ」
ぎゅ、と強く膝を抱き寄せた次の瞬間、ユーノは跳ね起きるように振り返った。全身を緊張させ隠し持っていた剣に手を滑らせる。
(気のせい、じゃ、ない!)
「っ!」
ざうっ、と真後ろの茂みから突き出された剣をあやうく避け、前転して逃げ、地面を蹴る。
「カザドの者かっ!」
茂みから飛び出してきた黒い影が3つ、珍しく顔に黒い仮面をつけて祭の客とも見えるが、手に光らせているのは妙な光り方をする剣、覚えに間違いがなければ痺れ薬を塗った毒剣だ。
「お前ら、しつこいんだよ!」
走り出した瞬間向きを変え、追走しようとした1人の腕を薙いだ。怯んで下がる相手の攻撃を補うように進み出てきた別の1人の剣を受け止める。がきっ、と金属音が響いた瞬間、ユーノは目を見開いた。
(この感じ?)
前に打ち合ったことがある?
(まさか、でも…誰?)
相手がユーノの視線に気付いたように一気に引いた。半身翻して逃げそうな気配、いつもならしない深追いをして踏み込んだところへ、もう1人が襲ってきて防戦になり、後ろに下がる。
(知っている相手? でも、そんな)
ユーノが闘ってきたカザド兵はほとんど倒している。逃がした敵も大怪我をしているはずだ。もし、こんなふうに闘い方に覚えがあるとしたら、何度も剣を合わせた相手ということになるが、それは親衛隊の連中しかいない。
(あの中に、裏切り者が、居た?)
セレドの中にカザドと通じている者がいた、だからこそああも易々と襲撃してこれたとすれば、馬鹿馬鹿しいほど簡単なことで。
(今も、あそこに)
ぎくりとした隙をついて突き出された剣に、とっさに防いで後ろへ1歩、茂みに近付きすぎたと思った時は遅く、首に巻き付いたものに一気に締め上げられる。
「あ……ぐっ」
(革…紐…)
細くてしなやかで滑らかで、ただの紐ではない、絞首のための獲物、そう気付いて首を怪我する覚悟で振り上げた剣は、前から迫った男にはね飛ばされる。遠慮なく締め上げてくる紐に唸りながら指をねじ込もうとするが、それもかなわない。じたばたと暴れた脚が空を蹴り、なおもきつく首を締め上げられて、ユーノは喘いだ。
(殺…される…っ)
ぼやけてくる視界に、前に立った男が剣を構え直すのが映る。口からよだれが溢れる、額から気持ち悪い汗がだらだらと流れる、呼吸が阻まれて、息をすることだけに集中してしまいそうになる、けたたましく打つ心臓がうるさい、耳鳴りが世界を圧する。
(この…ままじゃ……だめ…だ)
朦朧としながら体をねじったユーノの耳に、耳鳴りを押し退けるようにして背中から声が響いた。
「あの時に死んでおられればよかったのだ」
「っっっ!」
寒気が走った。
(この、声)
5年前、倒れて気を失う寸前に、背中を抉った相手を振り返った。意識がぼやけていて覚えていられなかった、そうだとばかり思っていた。
(お…まえは)
けれど、そうじゃなかった。
あまりにも、信じられなかった相手だったから。
あまりにも、惨い現実だったから。
同じ位置関係、同じ命の瀬戸際、繰り返されて記憶が鮮明に呼び起こされる、その記憶にユーノは凍りついた。
そうだ、あの時も、殺気は感じたけれど、それまで接近に気付かなかったのは、怪我をしていたせいばかりではない。その気配があまりにも慣れたもの、安全だと繰り返し教えられていたものだったから、無意識に警戒を緩めていたのだ。
気を許していた、その隙を狙われた。
「う…っ」
「おとなしく、されよ」
「い…や……っ」
声を絞り出し、前から迫る男の剣に逃れようと身をねじって体が動いたそのとたん、きつく紐を締められ引き戻され、あの夜と同じ場所を抉られる、相手が教えた、そのままに。
「っっあああっっ!」
ひどい、よ。
体の痛みを遥かに越えて、心を切り裂かれた衝撃に、ユーノは涙を降り零しながら絶叫した。
「ア……シャぁ……っ!!」
やっぱり気になる。
「ちょっと失礼」
「あら、どちらへ」
立ち上がったアシャに側で侍っていた娘が不審そうな声をかけてくる。その顔に唇に指を当て、微かに目を動かしてみせた。
「ま、ごめんなさい」
薄赤くなった娘の誤解をいいことに、舞台を降り、ユーノが消えた方へ歩き出す。
(戻ってこない)
ずいぶんになる。
もう1つ気になったのは、上空高くゆっくりと弧を描くように舞っている白い鳥の姿だ。ちら、とまた視線を投げると、アシャが動き出したのに気付いたように舞う範囲を変えていく。
(何だ?)
普段なら気配さえ見せないサマルカンドが、気付かなければわからないとは言え、視認できる距離まで接近してきたのに不審が広がった。
ラズーンからの連絡ならば、もっと早く接触してきているだろう。まだ成鳥に達していないとはいえ、サマルカンドが太古生物のクフィラだと知れば妙な食指を動かす輩もいるはず、その危険を冒してわざわざアシャの視界を掠めてきたのはきっと何か意味があるはずだ。
舞い降りてきやすいように人気のない空き地を探して、人込みを避け軽く俯き、目立たぬように頭から布を被って移動していると、みるみるサマルカンドが描く円を縮めてきた。
それは普通は獲物を見つけた徴だ。
「『運命(リマイン)』か?」
祭りに紛れて入り込んだ動きを察知したのかと、物陰から隠れて見上げ、アシャは眉をひそめた。
違う。あれは。
「……ユーノ…?」
危険と注意を促す旋回、未だ見つけられないユーノを思い出してぞくりとする。
「まさか…っ」
サマルカンドが舞う範囲を頼りにアシャは足を速めた。
なまじな敵に手こずるようなユーノではない、ならば戻ってこれないのは、よほどの数か、もしくは重症を負ったか。これだけの人出、そうそう目立つ場所ではやらないだろう。祭りは賑やかさを増して、あちこちで踊る人々も居る、屋台も露店商も出ている、裏路地か、それとも建物に連れ込まれて。
「ちっ」
自分が鳥肌を立てたのがわかった。竦みかけた脚を叩きつけるように走る。と、すぐ側の路地から殺気が零れ、2つの人影が飛び出すのが見えた。ちらっと見えたのは黒い仮面、日射しの中で瞬間アシャを振り返り、片方が慌てたように顔を背けた仕草にどきりとする。
(俺を、知っている?)
では、今回の敵はユーノ側というより、むしろアシャ側なのか。ならば、サマルカンドが現れたわけも納得がいく。
「くそっ!」
それならなおさら許せないと人影が飛び出した路地に駆け込み、アシャは唐突にぽかりと静まって明るい空き地に飛び出した。露店商が後で取りに来ようとしたのか半端に積まれた荷、片付けられた屋台の背後には豊かな緑。だが枝にべっとりと血しぶきが飛んで、まだ滴っているのに息を呑む。
そして、その根元には。
「ユーノ!!」
体中の血が沸騰したようだった。
叫びながら駆け寄って、いつもの冷静さも失って、鮮血に染まって倒れている小柄な姿を抱き起こす。ぐちゃり、と腕に潰れたのは引き裂かれた背中の傷、ばたばたと体を濡らしながら垂れ落ちる血がみるみる地面に広がる。意識を失って仰け反った首に巻きついた革紐、くたりとした体が重みを増してもなお軽い、もう命が残っていないほど。
「ユーノっ!」
首の革紐を解いた。ふ、と小さく、開放された喉から漏れた吐息を吸い取るように唇を合わせて、消えそうな呼吸を呼び戻す。
「……」
「ユーノ…っ!」
呼吸が緩やかに引いたまま戻らない。
ダレガ。ダレガ。ダレガ。ダレガ。
頭には何万匹という羽虫が詰め込まれたように1つのことばだけが唸っている。首を振り、過熱した視界を瞬きながらユーノを地面に横たえて上着とシャツを脱ぎ捨てた。心音は弱い。背中にシャツをあて上着を当て、もう一度唇から息を吹き込み、呼吸を確かめる。
「ユーノっっ」
呼び掛け、脈拍を確認し、弱まるかけるのに冷や汗を流しながら再び人工呼吸を試みる。出血が多い。背中を抉られ首まで締められて、こんなところに放り出されて、そう思った時点で凍るような怒りに叫びそうになる。
ダレガ。ダレガ。ダレガ。
ゼッタイ、ミツケテ、コロシテヤル。
落ち着け、と頭の奥で静かな『太皇(スーグ)』の声がした。
そこはラズーンではない。
(わかってる)
十分な設備はない。
(わかってる)
視野が狭くなり、冷静な判断を欠いている。
(わかって、いるっ)
そのままではその娘は助からない。
「く、っ」
アシャは歯を食いしばって体を起こした。目の前のユーノから、閉じた瞳から零れている涙から、一瞬目を閉じ、無理矢理意識を切り離す。
落ち着け。
崩れるな。
今ここでお前が『人』を失ってしまったらどうする。
それこそ、世界の破滅につながるだけだぞ。
呼吸を整えて眼を開けた。
心臓は動いている。呼吸は微かだが続いている。出血はどうだ、傷の程度は、深さは、今必要な手当ては何だ。
そっと抱き起こし、体温と拍動の強さと早さを再確認する。背中のシャツは血に染まってべっとり濡れているが、それが張り付いたせいで一時的な防護膜にはなっている。血の気を失って白い体を上着でくるみ抱き寄せる。後は一刻も早く保温し傷の手当てをして、ああ、その前に。
上着の懐から朱に染まった小袋を取り出した。中から青い丸薬を取り出して含み、ユーノの唇に舌で押し入れる。苦味を帯びているはずの丸薬、ユーノの血の香りが口の中に広がって咽せそうになる。
「…んふ…っ」
喘いだユーノが息苦しそうに眉を寄せながら薄目を開いた。溜まっていた涙が零れ落ち、それでも抵抗できずにアシャが含ませた丸薬を飲み下す。震える唇が微かに動く。
たす、けて。
「大丈夫だ」
心臓を鈎爪に握りしめられたように苦しくて、アシャは唸った。
「今呑んだのは強心作用がある薬だ、助けてやる、心配するな」
平静を保とうとして声が平板になった。頭の中の羽虫は静かになっているが、沸き上がってくる怒りの冷たさが尋常ではない。
ユルセナイ。
ナニモノデアロウト、ユルスコトナド、オレニハデキナイ。
ざわざわと身内を走る闇の気配を必死に堪えてことばを絞り出す。
それほど、大事なのか、この娘は。
それほどお前の制御を狂わせるのか。
自問するが答えは激情に溶けてことばにならない。
シヌナ。
オレノウデノナカデ、イクナ。
「俺が、絶対、助けてやる」
「ち…が…」
ユーノがわずかに首を振った。
「たす…け……姉…さま…」
「レアナ?」
てっきり自分を救ってくれと言われているのだと思い込んでいたアシャは眉をしかめる。少しずつ薬が効いてきているのか、心臓の拍動も呼吸も次第にはっきりしてくるのと同時に、抱えた腕にまた温かく広がり始める血に苛立って抱き上げると、小さく呻いてユーノが震える手でアシャの胸にすがった。真っ赤に濡れた指が自分の胸に紅の筋を描く、ユーノが楽になるなら、そのまま突き立ててくれても構わない、そう思ったアシャの耳に、
「姉…さま…が………あぶ…な…」
「違うだろう!」
祭りに浮かれる人々に見咎められないように裏路地へ入り込もうとしながら怒鳴った。
「お前が、危ないんだぞ!」
こんなときまで、どうして、レアナのことなんか。吐き捨てそうになって危うく踏み止まる。
「ち…が……っう」
がたがた震えながら、ユーノが涙で一杯の目で見上げてきた。
「私……襲った……の……5年……前……」
「5年前?」
荒い呼吸を吐きながら、ユーノは切ない表情に顔を歪める。
「5年間………ずっと……」
味方…だって……思って……た、のに。
「あん…まり…だ………」
「ユーノ? ユーノっ! おいっ……く、そっ」
掠れた声で呟いたユーノは自嘲するように眉を上げると、そのままアシャの腕で気を失った。
祭で人々が出払っていてよかった。
「剣士さま? どうされましたか」
「慣れない酒で寄って吐き戻した、しばらく静かに休ませてやりたいので奥を借りるぞ」
「まあそれはそれは」
留守番をしていた若い男が上半身裸のアシャとその腕に抱えられているユーノを心配そうに見遣ってくるのに、自分がついているから祭に出かけてきてもいいと促すと、男は喜んで家を出ていった。
とりあえず汚れを水で拭き浄めて連れ戻ったのは、敵にユーノが生きていると知らせたくなかったからだ。生死が不明となれば、そうすぐには次の手を打ってこないだろう。アシャが駆け付けたのもわかっているなら、もう一度策を練り直すはずだ。
「血の臭いには勘付かれなかった、か」
ほっとしてユーノを抱えたまま、借りていた部屋に入り、脚で扉を閉めて、まずは床に横たえる。手当てが済んでからベッドできちんと眠らせてやりたかった。こういうときには粗末な木の床がありがたい。
降ろした時の痛みで微かに唸ったユーノは、それでも目を開かない。真っ白な顔を見ながら、アシャは水と布を用意した。窓を閉め、扉に椅子をかませる。
成りゆきとは言え、レクスファに医療道具を置いていて助かった。吐息をつきながら上着を開き、広げたそこで静かにユーノの体を俯せ呼吸に注意する。
強心剤はよく効いているようだ。拍動は早いがしっかりしていて、少しほっとする。
「痛み止めも呑ませてやりたいが」
今すぐには無理だな、と顔をしかめながら側の机に薬を並べた。手当ての間、悲鳴を上げられてはまずいが、ようやく生死の境を越えさせたのに、その口を布で封じることなどできない。できるだけ丁寧に素早く処置して、叫び声に誰かが駆け付けてきても、夢でうなされた、と言い抜けられるといい。
(夢、か)
ユーノがうなされた夢を思い出した。あれもまた、そういうものだったのだろうか。
べっとり朱色に染まったシャツを取り除く。思ったよりは傷が浅かった。本当はとどめを刺すところだったのが、アシャが近寄ったために諦めたのだろう。
だがそれは逆に、首を締め、背中を裂いた目的が殺戮でなかったことを教えている。殺すだけではなく、いたぶろうとした気配が濃厚だ。
「……」
じり、とまた冷やかな怒りが滲みかけて、指先に意識を集中した。自分がひどく怒っていることを自覚する。不用意に刺激されて爆発しないように怒りをコントロールする。
シャツを剥がし、ユーノの衣類を切り開いた。着替えはとりあえずアシャのシャツにするとして、と水に濡らした布で傷とその周囲を拭っていったアシャは、下から現れたものに息を呑んだ。
傷。
「何…だ……これは…」
今切り裂かれた傷の真下にも、同じぐらい、いやもっと深い傷がある。脳裏を過ったのは、ここへ来るまでにカザドで襲撃されたことだ。掠っただけの傷に苦しんだユーノの腕には古傷が口を開けていた。
「…」
不安に襲われながら、急いで周囲も改める。
傷。
傷。
背中全体を埋めるように引きつれた、無数の傷痕。
「まさか…」
残っていた衣類を切って開き、次々に現れる傷痕に凍りついた。
「ば…かな…」
ユーノのほぼ全身を、大小さまざまな傷痕が覆っている。柔らかな布をそこら中裂いて無骨に縫い合わせたような、あるいは焼きごてで押したようにつるりと光った、そしてまた、見えないいろいろな太さの糸を彫り込んだような傷が、背中と言わず、華奢な首の付け根から肩、腕、微かに膨らんでいる胸や丸い臀部、大腿下腿に至るまで縦横に広がっている。かろうじて見当たらないのが手足の先と首から顔程度、つまりはユーノが衣服をつけていないところで。
「く」
着れる、わけがない。
歯を食いしばって、とっさに詰りそうになったのを堪え、アシャは手当てを進めた。消毒し、止血剤を塗り、接着剤を塗り重ねて傷を引き寄せ、ステリテープで止めていく。布を当て、包帯で丁寧に巻き包む。
「…」
指先が冷たくなっているのは、恐怖ではない、怒りからだ。
ドレスが着れるわけがない。
17の娘がこれだけの傷痕を晒す気にはなれない。ましてや、その傷がどうしてあるのかを説明する術を封じられているユーノが、晒すわけもない。
3人の娘の揃いのドレスをと望むミアナ皇妃は、本当に全く気付かなかったのか。これほどの傷は治るのにも時間がかかったはずだ。発熱もあったはずだ。眠ることもできなかったはずだ。なのに。これでは。
「生きていたほうが、奇跡、だったんじゃないか…」
包んでやると、アシャのシャツの中でユーノの体が痛々しいほど小さく見える。そっと抱き上げてベッドに寝かせ、汚れてぐしょぐしょになった衣類の片付けをしながら、アシャの胸には苛立ちと激情が渦巻いている。
なぜだ。
なぜだ。
なぜ、こいつだけが、こんな状態で放っておかれている。
あれほど平和そうな国で。
親衛隊まで職務を離れて踊りに興じるような世界で、暗い庭で、建物の影で、木立の下で、ユーノは幾晩眠れぬ夜を過ごしていたのか。
「ち、いっっ」
殴りつけたい、誰よりもまず、自分の頬を。なぜならアシャは、きっとユーノのその状態に遠からぬ責任があるはずだ、いや、今もきっと。
鋭い舌打ちをしたとたん、背後で微かに声がして、アシャは振り返った。
「……シャ……?」
「気がついたか」
「………ど……してここ…………姉さま………っっ!」
「馬鹿っ!」
ぼんやり瞳を開けたユーノがはっとしたように跳ね起きかけて凍りつく。とっさに激痛に唇を噛んでベッドに倒れ込む相手に、アシャは駆け寄る。
(また、悲鳴を噛み殺した)
きっとそれは習性なのだ。悲鳴をあげては弱っていると教えるようなものだから。弱点を教えるようなものだから。次は確実にそこを狙われるから。
だからユーノは悲鳴を上げない。
だがそれは、救出を遅らせる。助けの手を遠ざける。死ぬまで放置されてしまう。
(だから)
あれほど酷い傷を全身に負うしかなくて。1度切られた場所を無意識に避けるから、その隙間を縫うように傷を受けていくしかなくて。
「どうして…っ」
瞳を涙で曇らせながらも険しい顔でユーノが唸る。
「あいつが姉さまのところに戻ったら…っ」
「大丈夫だ」
「だってっ」
「お前の生死が不明だ」
「え…?」
「お前が生きているか死んでいるか、確かめてから動くはずだ。わざわざあんな場所でお前を狙った」
だから、事は密かに進めたかったはずだ。
「俺が早く駆け付けたから手順が狂った」
今頃慌てて確認しているはずだ。
安心させるように畳み掛けると、きりきりと歯を食いしばっていたユーノが、ゆっくり眉を緩め、ほ、う、と溜め息をついた。ゆっくりとベッドに沈み込み、ふと不安そうに瞬きして手を上げる。
「あ…っ」
「どうした?」
「ボクの…服…」
「ああ、使い物にならなくなったから処分した。………俺のじゃ不満か」
ぎゅ、と襟元をかき寄せ握り締める仕草に微妙にむっとした。
「違う…」
「じゃあなんだ」
「……見た……?」
「…………ああ」
「っ…」
びくり、とユーノが震えた。大きく見開いた目が揺れる。
「すまなかった」
そうか、と気付いてアシャは謝った。
「治療のために仕方なかったんだ」
「う…ん…」
ユーノが瞬きし、ますます襟元をきつく握る。真っ白になった顔で黒い瞳が怯え切っているのにアシャも不安になった。
「大丈夫だ、誰にも言わない」
「っっ」
「理由があったんだろう、仕方なかったんだろう、確かに女では珍しいかもしれないが、剣士なら別にどうということは」
「あ……」
慰めたつもりだったが、ユーノがますます目を見開いて困惑した。
「ユーノ?」
「剣士、なら……?」
「そうだ、剣士なら、むしろ歴戦の勇士として立派なものだ。よく頑張ってきたな」
「剣士…なら…か……」
「ユーノ…?」
「……そう……だよ…ね…」
のろのろと瞳を伏せていきながら、それでも襟元を握るこぶしは色を失うほど力を込められている。
「剣士……だよね…」
「俺の知っている限りではそれだけの傷を負って生き延びている者は少ないぞ」
たいしたものだ、そう続けながら、アシャは不安に駆られる。
(なせだ?)
ユーノの気配がどんどん弱くなる。脆くなって沈んでいって、傷の手当てはしたはずなのに、今にもまた気を失ってしまいそうだ。
ああ、そうだ、と思いついて、痛み止めを取り出して差し出した。
「とにかくこれを呑んでおけ。痛みもましになるし、回復も早くなる」
「う…ん」
ふわりと上げたユーノの瞳が今にも零れそうな涙でいっぱいで、アシャはまた凍る。
「……痛むのか?」
「え…?」
「泣いていいんだぞ、こういうときは」
「そ…か」
ユーノが微かに笑った。
「泣いて……いいのか」
いろいろ、わかっちゃったもんな、と呟きながら、ついに零しだした涙に胸が掴まれる。
側に寄って、顔を上げさせて、涙を吸い取って、そのまま唇を奪いたい。
手にした丸薬を口に含んでさっきみたいに呑ませてやって。震える舌を少し探って。
ごく、と唾を呑み込んで、自分がどれほど状況を考えない邪なことを思っているか気付いて、アシャは軽く顔を振った。
「……しかし、それだけの傷をどうして」
「……私は、アシャほど、剣がうまくない」
掠れた声でユーノが呟き、目元を手の甲で擦った。
「だから、しょっちゅうドジるんだ。今は多少使える、けど、12歳ぐらいの時は……酷くて」
口を噤む。
「12歳?」
「カザドが初めて襲撃してきたのが……それぐらい」
ぽつりぽつりと語られるユーノの過去を、アシャは鳥肌を立てながら聞いた。
(よく、無事で、いてくれた)
どの戦い1つでもユーノが生きることを諦めていたなら、今ここにユーノはいない。
(けれど、どれほどの、孤独)
たった12歳の子供が、父母を庇い、姉妹を庇って、ひたすら剣を交えて生きてきた。全身に傷を負いながら、おそらくは手当てさえも十分ではないままに。
(悲鳴も上げないで。痛みも訴えないで)
「……そのとき、背中を抉られて………」
ユーノがふいとことばを止める。まっすぐ天井に向けた瞳をそろそろと向けてくる。
「アシャ」
「なんだ」
「……この国を出たい」
「そんなに怯えなくていい、すぐに再襲撃してくるとは」
「違う」
ユーノは強い光をたたえて見つめ返してきた。
「私が襲われたと知ったら、またみんな怯えちゃう」
「……」
「せっかく、みんな、ほっとして、楽しんでるのに」
目を閉じ、静かに続けた。
「できるだけ早くここを出よう。私が襲われたことが妙な噂にならないうちに」
「しかし」
「痛み止め、あるんだよね? 回復早くなるんだよね?」
微かに笑う。
「手当てもちゃんとしてくれたんだよね? ……明日には出られる?」
「……無茶を言うな」
一瞬怒鳴り付けそうになった。
今死にかけたんだぞ。今ずたずたにされたばかりで。
なのにどうしてそこまで人を守ろうとする。
「俺には」
「アシャには仕事がある」
「仕事?」
「セレドへ戻って」
「待て」
「できるだけ早く。姉さまを、守りに」
「ユーノ」
「私にはイルファもレスもいる、けど、今あいつに対抗できるの、アシャぐらいだよ」
「あいつ?」
ぞくんと身が竦んだ。そう言えば、さっきもあいつ、と言ったなと思い出す。
「お前は自分を襲ったのが誰だか知っているのか」
「知ってるよ」
ユーノは低く嗤った。
「ずっと味方だと思ってたけど……違うんだ……そう思いたかっただけだったんだ……信じたかっただけなんだ」
つう、と額から汗が流れ落ちて、目を細めたユーノがアシャを見据える。
「私を襲ったのは……5年前と同じ」
静かな声が切なげに響いた。
「ゼランだよ」
0
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主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
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