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12.盲目の導師(1)
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「ユーノ……」
「……はい」
粉々に砕けたベッド、風が吹き込む状態の部屋の片隅、とりあえず敷き藁と布で床に盛り上げた寝床で、ユーノはさすがに首を竦めて相手を見上げた。
「動いた、ってなあ?」
ついさっきセレドから戻ったばかりのアシャは、埃塗れの薄汚れた顔にぎらぎらと正視に耐えない光を瞳に浮かべながらこちらを見下ろしている。表情は悪鬼一歩手前、あれほど心穏やかな美形がここまで殺気立つのかと思うほどの怒りの形相、声は人みな凍りつかせるという吹雪を思わせる。
「ま、まあ……その」
「まあその、じゃないっ!」
いろいろと事情があってほら。
言いかけたユーノをばしりと遮ってアシャが吠える。
「動くなと言っただろうが!」
「う」
「大人しくしてると言った!」
「だ、って」
「だっても糞もないっっ!」
断じるアシャの綺麗な形の唇から糞、と叫ばれ、思わず背後に居たイルファも引きつる。いわんや、側でイルファの上着の裾を握りしめているレスファートは、背中から見てもアシャの激怒が伝わるのだろう、ぎゅっと唇を噛みながらもさすがに反論しない。
「で、でもっ」
他にどうすればよかった。
誰も居なかったんだ。言いかけて、ユーノは堪える。その代わり、
「無事だったんだからいいだろっっ!」
元気さを証明するように声を張り上げた。
レガ襲撃から丸1日ぐっすり眠った。きっと痛み止めにそういう成分が入っていたのだろう、これまでないほど熟睡し、空腹に目覚めれば、レスファートがいそいそと、作り方を教えてもらったという柔らかでおいしい粥と煮物を持ってきてくれ、しっかり食べてなお眠った。
「それに大人しくしてるなんて言ってない、大人しく聞いておくって言ったんだっ!」
「こ、のっ」
「お、おい」
ずかずかと部屋に踏み入ったアシャが側にしゃがみ込むのにイルファが思わず声をかける。振り返ることもなく、凄みを含んだ声でアシャが吐いた。
「心配したと言ってるんだぞ」
「ボクは強いんだ…それに、居なかったやつにあれこれ言う資格なんてない」
睨みあげると、唐突にアシャの顔から一切の表情が消えた。
「な…っ」
いきなり顎を捕まれ引き寄せられる。驚きにことばを失うユーノに、
「側に居た」
「…は?」
「『運命(リマイン)』が動いたと知っていたら……離れなど、しなかった」
冷やかな声はさっきよりも温度が低い。
「お前を置いて、行きはしなかった」
睦言のような甘いことばと、表情がつり合わない。凍りついた紫の眼とも。
見えているものを全て裏切って伝えてくるのは切ない懇願、お前が大事なのだ、無茶をしないでくれと響く。
(アシャ)
そちらに踏み込んで読み取りたくなる、自分への好意を、愛情を。
「…っ」
天性の女たらしだ。
呑まれそうになってユーノは慌てて眼を閉じた。対抗できそうな唯一のことばにしがみつく。
「『運命(リマイン)』って何だよっ」
「!」
びく、と明らかに顎を掴んでいた手が震えてアシャが息を呑む気配がした。
「……『運命(リマイン)』って、あいつのこと?」
ゆっくり目を開きながら、続けて尋ねる。
「レガの背中に張り付いて……レガを操っているように見えた」
「………」
アシャが静かに手を離した。動かない表情のまま、そろそろと身を引いていく。
「……見たのか」
やがて、どさりと腰を落とした。うっとうしそうに呟きながら、床に胡座を組む。疲れ切ったような様子で、のろのろユーノを見る瞳が、さっきの勢いを失っている。
「黒い髪の、赤い目の、男とも女ともつかない、人、みたいなもの」
ユーノはアシャの無言の問いに応じた。
「……あいつは、ボクらを狙ってる? ひょっとして……」
ごく、と唾を呑む。
「ボク、を?」
「……どういうことだ」
イルファが重々しく唸りながら腕組をした。
「俺の知らない話がずいぶんあるようだな」
「……」
「そいつが女だってことも」
「っっ!」
ぎょっとした顔で弾かれたようにアシャがユーノを振り向いた。今度は見る見る青くなっていく顔に逆にユーノはうろたえた。
「いや、あの、違う、イルファが何か勘違いして」
「勘違いなもんか、触ればわかるだろ、あの感触は」
「感触…?」
イルファの突っ込みにアシャが上の空で繰り返す。
「触れば…?」
「あ、あのね、アシャ」
「触らせたのか、こいつに?」
「え、いや、そうじゃなくて、ボクが倒れたときに」
「どこまで?」
「は?」
「ああ、そいつがひっくり返ったから、抱き上げて運んだ」
イルファが何か文句あるのか、と言いたげに顎をしゃくって言い放つ。
「抱き上げ」
茫然とした様子でアシャが繰り返し、ユーノは不安になった。
「あの……どうしたの、アシャ。大丈夫?」
「あ~…」
ふいにレスファートがひくっと引き付けるように顔を歪めた。見ると、今にも吹き出しそうな表情で見返してきて、
「あのね、アシャ」
「なんだ」
「……もうちょっと話してくれたほうがいいみたい。話せることだけ」
素早く片目をつぶったのはイルファには見えなかったはずだ。はっとしたようにアシャが我に返る。自分が何をしていたのか、どういう振る舞いをしていたのか、ようやくわかったように少し血の気が戻る。舌打ちしそうな悔しげな顔、やがて、ゆっくり大きな息をついて、諦めたように立ち上がった。
「わかった……事情を話そう」
「『運命(リマイン)』というのは、簡単に言えばラズーンへの敵対者、だ」
アシャは横たわったユーノの側に腰を降ろし、イルファとレスファートも近くに寄って座る。
「言い方を変えれば、この世界の『秩序』の破壊者だな。……ユーノ、ラズーンの役割は?」
「あ、えーと」
突然質問されてユーノは戸惑い、慌てて幼い頃に学んだ知識を掘り返す。
「ラズーンは世界の『統治者』。諸国を束ねる中央機関。最大の王国にして性別を持たぬ神々が住まう、伝説と栄光に包まれた場所」
「その通りだ」
アシャはどこかうんざりした顔で頷いた。
「政治的な意味でも、地理的な意味でも世界の中心と言っていい、が、それ以上の役割がある。ラズーンはこの世界の……」
言い淀み、ことばを探すように天井を見上げたが、小さく溜め息をついて、
「構成1つ1つを生み出し造り出す源でもある」
「構成、1つ1つ?」
「もともとラズーンには2つの部分があった。『統治者』と『判定者』だ」
引っ掛かりかけたユーノをさらりと流して、アシャはことばを続けた。
「お互いに必要な役割を果たし、世界はそれで安定していた、だが」
眉をひそめた顔に暗い翳りが滲んだ。
「ラズーン支配が長く続くうちに、『判定者』の役割を担っていたものが、自分達こそこの世界を治めるべきものであると言って『運命(リマイン)』を名乗り、ラズーン支配を拒み出した。我らなしにはラズーンは有り得ない、ならば我らこそ、支配の長であるべきだ、と」
「……『判定者』の役割って何?」
「暗殺」
ぽつりと応じたアシャが殺気を滲ませた笑みを広げ、ユーノを見返す。
「『統治者』の意図に背くもの、または『統治者』の手違いで起こった事件や関連する存在を消す、それが役割だった」
「世界は、見えてるほど平和じゃねえ、そういうことか?」
イルファが確かめる。
「そうなるな」
アシャは苦い表情でユーノから目を逸らせた。
「力づくの、とうちは」
レスファートが暗誦するように呟く。
「あらそいしか、うまない、って」
「その通りだ」
アシャは静かに繰り返した。
「望まぬ方向と違う存在を押しつぶす愚を、誰よりも知っているはずのラズーンだったが、それに代わる方法もまた見つけられなかった」
低い声が掠れて続く。
「200年ごとの祭の意味を、どれほどの人間が理解していたのか、ということだ」
「200年ごとの祭?」
「……ラズーンは、200年祭を行う」
アシャはゆっくりと顔を上げた。緩やかに巡らせた視線でユーノを捉える。
「その時世界は変動する」
紫の瞳が言い様のない妖しい煌めきに満ちた。
「全てが根底から揺さぶられて」
ごくん、とイルファが唾を呑む。
レスファートも緊張した顔でアシャを見つめる。
ましてやその瞳に正面から見据えられて、ユーノはことばを失った。
(ラズーンの200年祭)
そんなことばは聞いたことがない。200年と一口に言うが、寿命を全うしても4~5世代ほどが生きる時間を一括りにしてしまう時間単位は、国の歴史にしか存在しない。
「っ」
ふいにそれはセレドが成り立った時から現在に至るまでの時間だと気付いて、どきりとした。まるで、セレドがラズーンのその祭りによって生まれ、祭りによって滅びていくような不安な気持ちになって、思わず口を開く。
「それって」
今あちこちに現れている太古生物と関係があるのか。『運命(リマイン)』と呼ばれる者が襲ってきたことや、カザドの魔手が伸びてきたこととも無関係ではないのか。
ひょっとして今世界は大きく崩れていこうとしていて、その余波をセレドも受けている、そういうことではないのか。
「ボクがラズーンに招かれたことにも関係があるの?」
「ラズーンに招かれた?」
「!」
しまった。
イルファが訝しそうな声を上げて、ユーノは舌打ちしかけた。側に居るのを失念していた。
「それはどういう意味だ?」
イルファがうっそりと問いかけた。
「ああ、サマルカンドを慣らしたそうだな」
問いを巧みに遮ってアシャが表情を緩める。
「え、あ、ああ、あの、クフィラ?」
ラズーンの200年祭とは何なのか。そして、そんなことを知っているアシャは一体何者なのか。
そういう疑問をもろとも逸らされそうな気配はあったが、イルファに突っ込まれては困るものもある。
ユーノは慌ててアシャに応じた。
「慣らしてなんかいないよ、ただ無我夢中で」
「サマルはもう1人の主人を見つけた、そう言ってたぞ」
アシャはにっこりと嬉しそうに笑って立ち上がった。砕けた窓枠に近寄って隙間から乗り出し、
「サマル!」
左腕を突き出して叫ぶと、激しい羽音が響いて白い鳥が舞い降りてくる。
「今回はお手柄だったぞ」
腰あたりで軽く横へ突き出したアシャの片腕に乗るクフィラはアシャの頭を軽く越える大きさだ。
「クゥア?」
どこか甘えた声で鳴いて、首を曲げてアシャの頭に自分の頭を寄せる仕草、重くはないのか、そう思った矢先にアシャがユーノを振り返る。
「呼んでみろ、ユーノ」
「うん」
ユーノは寝床に起き直った。
「サマルカンド」
「クェッ!」
ふわ、とアシャの手から舞い上がったクフィラは大きさに似合わない静けさを保って、ゆっくりユーノの近くに舞い降りる。
「ク、ゥ」
そのままお辞儀をするように頭を下げ、ユーノがつられて伸ばした左腕めがけて浮き上がる。鋭い爪を一瞬だしたが、ユーノの腕を掴んだ瞬間は、赤ん坊でも掴むような柔らかな感触しか残さない。そればかりか、レスファートよりも軽くて、ユーノは驚いた。
「いい子だね」
そっと囁いてもう片方の手を伸ばす。
「ク、クゥ」
クフィラは喉の奥で微かに鳴いて、甘えるように頭をユーノの掌に押し付けた。滑らかで艶やかな羽毛の感触、生き物の温もりがじわりと伝わる。
「お前にやる」
「え?」
「護衛用だ」
アシャがぼそりと低い声を出した。
「俺が間に合わなかった時のために」
「でも、そんな」
「クッ、ガッ」
ふいにクフィラが威嚇するように鋭い声を出して、ユーノはびくりとした。冠毛を軽く逆立てている。忙しく見開いて瞬きする瞳は冗談じゃない、と怒っているようだ。
「サマルカンドも心配だそうだ」
アシャがゆっくりと目を細めて笑った。
「俺と同じように」
「アシャと…?」
「お前が倒れたまま目を覚まさないと聞かされた時の俺の気持ちを」
細めた目の色が変わる。
「ちょっとは考えてくれ」
「あ…」
それは聞きようによっては甘いことば、思わず勝手に頭が優しい空想を広げようとしたとたん、
「聞きたいことがある」
イルファが不穏な調子で唸った。胡座を組んだまま、がっちりと腕を組み、アシャとユーノを等分に見比べる。
「俺はずっと悩んでいた」
「何を」
アシャが眉を寄せた。
「お前が男に興味がないのか、俺に興味がないのか」
「……」
一瞬白々とした空気が座に広がった。
サマルカンドでさえ、微妙なものを感じ取ったのか、ふいとユーノの腕を離れて部屋の隅へ舞い降り、自分に用がないと見極めたように窓の裂け目から再び舞い上がって消える。
「……イルファ」
アシャがうんざりした声を出した。
「俺は男に興味はないし、お前にはちゃんと友人としての礼を尽してる」
「にしても、そいつに比べて扱いが軽い」
「当たり前だろう、ユーノは主人…」
「だが、理由がわかった」
「は?」
「そいつは、女だ」
「っ、イルファっ」
ぐい、と指でまともに示されて、ユーノは思わず噛みついた。
「馬鹿なこと言い出すなっっ」
「お前はそいつに惚れてるから、俺より扱いが丁寧なんだ」
「っっ」
全身火を噴くかとユーノは思った。アシャのことなのに、自分の気持ちを指摘されたようで、居畳まれなくてアシャの方を見られない。
「ボクのどこかが女だよっ!」
「あるだろうが、感触の違いが」
「剣を持ってこいよ!」
今すぐ立ち会え、多少柔らかくて細っこくても、イルファの相手ぐらい簡単だ、叩きのめしてふざけた台詞を撤回させてやる。
らしくないほど取り乱してしまったのは、幾度となく夜会で味わった居心地の悪さのせいだ。来訪者をもてなす宴で、ユーノが相手をした人間がいつも伝えてきた、レアナ達の方をうらやましげに見遣る気配。聞こえないとでも思ったのか、中には、こっそり仲間うちに、ああ、あっちの姫の方がよかったなあ、と呟くのも居て。
きっと同じような困惑をアシャも感じているに違いない、好き勝手に判断されて。
そう思うと我慢できなかった。
「怪我人を相手にする趣味はない」
「しつこいぞ、イルファ、怪我ならとっくに…っ!」
ふいに肩を掴まれてぎょっとした。振り返る間もなく引き寄せられたのはアシャの胸、包まれるように回った腕が次の瞬間、前の合わせを解き、一気に肩から衣服をずり落とす。
「っっっ」
さすがに、イルファの目の前で包帯で巻かれた薄い胸を晒されてユーノは凍った。レスファートも大きく目を見開いたまま声もない。
「あのなあ、イルファ」
無意識に服を引き上げようとした腕を止められ、泣きそうになったユーノの耳に、本当に嫌そうな不愉快そうなアシャの声が頭上から落ちてくる。
「よく見ろ」
「おい」
「このどこが女の体だ? え?」
ぴたぴた、とアシャの手がユーノの胸の上で躍った。
「待て」
「こんな薄っぺらい女の胸があるか?」
返ってイルファの方が戸惑い、心配そうな目でユーノとアシャを交互に見る。
「それに肩にも腕にも傷だらけ、女がこれだけ傷を負って、無事に済むと思ってるのか?」
「まあ、そりゃ…」
イルファが無遠慮にじろじろと肩から胸を見た。
「しかし……凄い傷だな」
「幼い頃から剣術に明け暮れたそうだ」
アシャが淡々と言い放って、もういいだろ、と衣服を肩に引き上げてくれるのを、ユーノは必死に引き寄せる。
「そこら中に怪我をして、みっともないから見せたくなかったんだ、な、ユーノ」
それに、お前にくらべれば、どんなやつだって筋肉は柔らかいってことにならないか?
アシャが軽く言い放つのに、竦みそうになる気持ちを引き上げて笑った。
「あーあ、見られちゃった」
ドコガ女ノ体。
「せっかく生まれついての剣の天才だと思われたかったのにな」
コンナ薄ッペライ女ノ胸ガアルカ。
「ほんと傷だらけなんだよ、他のも見る?」
ミットモナイカラ見セタクナカッタ。
(アシャも、そう思ってたんだ)
泣き出しそうなのを堪えた。
(みっともないって、思ってたんだ)
「いや……もういい」
イルファが不承不承首を振る。
「わかった。つまり、お前は主人だからそいつに優しくて、そいつに惚れてるわけじゃないんだな?」
「俺にも好みと言うものがある」
アシャが背後で苦笑した。
「可愛い女は一杯知ってるからな」
「……ボクにも、好みが、あるよ」
衣服を整えて何とかアシャの胸から離れ、ユーノはイルファを睨みつけた。
「次に同じこと言ったら、今度こそぶっ飛ばす」
「わかったわかった、悪かった悪かった。そうだな、第一、女ならお前がそんな扱いをするわけはないな」
詫びに粥でも作ろう。
「ぼく、が!」
立ち上がったイルファにはっとしたようにレスファートが立ち上がる。
「ぼくが、作るよ、すごく、おいしいのを。ね……ユーノ…?」
いたわるように振り向くアクアマリンの瞳が微かに潤んでいるのに、ユーノは微笑んだ。
「うん、頼む」
「俺の粥のどこがまずい」
「ぜんぶ」
こともなげに言い返して、レスファートがイルファを部屋から追い出していく。
2人の足音が水でも汲みに行ったのかばたばたと遠ざかっていくのを耳に、ユーノはゆっくり俯いた。
「ユーノ、」
「ありがとう、アシャ」
何か言いかけたアシャのことばを遮る。
謝罪も、言い訳も、説明も、何も聞きたくなかった。
「おかげでばれずに済んだよ、とっさの機転、すごいね、助かった」
「いや、俺は」
「それで、実は今ので傷がちょっと痛くなって」
のろのろと顔を上げる。まだ振り向けるほど立ち直れていない。まっすぐ前を向いたまま続ける。
「痛み止めが欲しいんだけど、だめかな」
尋ねる声が平板だ。
「持ってくる」
「うん」
背後からアシャが立ち上がるのと同時にそろりと横になって壁を向いた。零れ落ちた涙はぎりぎり何とか見えなかったはずだと声を励ます。
「ひょっとしたら、寝てるかもしれないから、もし寝てたら、起こさないで」
「……わかった」
「それから」
ゆっくり目を閉じて声が震えないように頑張る。
「明日には、ここを出よう」
「え?」
「どうしても早く、行きたいところがある」
いつかセレドを出られたなら行ってみたいと言ってたところ、ラズーンへの道中にあっただろう?
「ああ、ネークの導師、か」
「うん、どうしても」
どうしても、早く行きたい。
「世界が変動するなら、なおさら早く」
「………わかった。道をあたっておこう」
「お願い」
アシャはそれ以上追求することもなく部屋を静かに出て行く。
俺ニモ好ミト言ウモノガアル。
(そんなこと、わかってる)
1人になった部屋の中で、ユーノは体を竦めてきつく唇を噛み締めた。
「……はい」
粉々に砕けたベッド、風が吹き込む状態の部屋の片隅、とりあえず敷き藁と布で床に盛り上げた寝床で、ユーノはさすがに首を竦めて相手を見上げた。
「動いた、ってなあ?」
ついさっきセレドから戻ったばかりのアシャは、埃塗れの薄汚れた顔にぎらぎらと正視に耐えない光を瞳に浮かべながらこちらを見下ろしている。表情は悪鬼一歩手前、あれほど心穏やかな美形がここまで殺気立つのかと思うほどの怒りの形相、声は人みな凍りつかせるという吹雪を思わせる。
「ま、まあ……その」
「まあその、じゃないっ!」
いろいろと事情があってほら。
言いかけたユーノをばしりと遮ってアシャが吠える。
「動くなと言っただろうが!」
「う」
「大人しくしてると言った!」
「だ、って」
「だっても糞もないっっ!」
断じるアシャの綺麗な形の唇から糞、と叫ばれ、思わず背後に居たイルファも引きつる。いわんや、側でイルファの上着の裾を握りしめているレスファートは、背中から見てもアシャの激怒が伝わるのだろう、ぎゅっと唇を噛みながらもさすがに反論しない。
「で、でもっ」
他にどうすればよかった。
誰も居なかったんだ。言いかけて、ユーノは堪える。その代わり、
「無事だったんだからいいだろっっ!」
元気さを証明するように声を張り上げた。
レガ襲撃から丸1日ぐっすり眠った。きっと痛み止めにそういう成分が入っていたのだろう、これまでないほど熟睡し、空腹に目覚めれば、レスファートがいそいそと、作り方を教えてもらったという柔らかでおいしい粥と煮物を持ってきてくれ、しっかり食べてなお眠った。
「それに大人しくしてるなんて言ってない、大人しく聞いておくって言ったんだっ!」
「こ、のっ」
「お、おい」
ずかずかと部屋に踏み入ったアシャが側にしゃがみ込むのにイルファが思わず声をかける。振り返ることもなく、凄みを含んだ声でアシャが吐いた。
「心配したと言ってるんだぞ」
「ボクは強いんだ…それに、居なかったやつにあれこれ言う資格なんてない」
睨みあげると、唐突にアシャの顔から一切の表情が消えた。
「な…っ」
いきなり顎を捕まれ引き寄せられる。驚きにことばを失うユーノに、
「側に居た」
「…は?」
「『運命(リマイン)』が動いたと知っていたら……離れなど、しなかった」
冷やかな声はさっきよりも温度が低い。
「お前を置いて、行きはしなかった」
睦言のような甘いことばと、表情がつり合わない。凍りついた紫の眼とも。
見えているものを全て裏切って伝えてくるのは切ない懇願、お前が大事なのだ、無茶をしないでくれと響く。
(アシャ)
そちらに踏み込んで読み取りたくなる、自分への好意を、愛情を。
「…っ」
天性の女たらしだ。
呑まれそうになってユーノは慌てて眼を閉じた。対抗できそうな唯一のことばにしがみつく。
「『運命(リマイン)』って何だよっ」
「!」
びく、と明らかに顎を掴んでいた手が震えてアシャが息を呑む気配がした。
「……『運命(リマイン)』って、あいつのこと?」
ゆっくり目を開きながら、続けて尋ねる。
「レガの背中に張り付いて……レガを操っているように見えた」
「………」
アシャが静かに手を離した。動かない表情のまま、そろそろと身を引いていく。
「……見たのか」
やがて、どさりと腰を落とした。うっとうしそうに呟きながら、床に胡座を組む。疲れ切ったような様子で、のろのろユーノを見る瞳が、さっきの勢いを失っている。
「黒い髪の、赤い目の、男とも女ともつかない、人、みたいなもの」
ユーノはアシャの無言の問いに応じた。
「……あいつは、ボクらを狙ってる? ひょっとして……」
ごく、と唾を呑む。
「ボク、を?」
「……どういうことだ」
イルファが重々しく唸りながら腕組をした。
「俺の知らない話がずいぶんあるようだな」
「……」
「そいつが女だってことも」
「っっ!」
ぎょっとした顔で弾かれたようにアシャがユーノを振り向いた。今度は見る見る青くなっていく顔に逆にユーノはうろたえた。
「いや、あの、違う、イルファが何か勘違いして」
「勘違いなもんか、触ればわかるだろ、あの感触は」
「感触…?」
イルファの突っ込みにアシャが上の空で繰り返す。
「触れば…?」
「あ、あのね、アシャ」
「触らせたのか、こいつに?」
「え、いや、そうじゃなくて、ボクが倒れたときに」
「どこまで?」
「は?」
「ああ、そいつがひっくり返ったから、抱き上げて運んだ」
イルファが何か文句あるのか、と言いたげに顎をしゃくって言い放つ。
「抱き上げ」
茫然とした様子でアシャが繰り返し、ユーノは不安になった。
「あの……どうしたの、アシャ。大丈夫?」
「あ~…」
ふいにレスファートがひくっと引き付けるように顔を歪めた。見ると、今にも吹き出しそうな表情で見返してきて、
「あのね、アシャ」
「なんだ」
「……もうちょっと話してくれたほうがいいみたい。話せることだけ」
素早く片目をつぶったのはイルファには見えなかったはずだ。はっとしたようにアシャが我に返る。自分が何をしていたのか、どういう振る舞いをしていたのか、ようやくわかったように少し血の気が戻る。舌打ちしそうな悔しげな顔、やがて、ゆっくり大きな息をついて、諦めたように立ち上がった。
「わかった……事情を話そう」
「『運命(リマイン)』というのは、簡単に言えばラズーンへの敵対者、だ」
アシャは横たわったユーノの側に腰を降ろし、イルファとレスファートも近くに寄って座る。
「言い方を変えれば、この世界の『秩序』の破壊者だな。……ユーノ、ラズーンの役割は?」
「あ、えーと」
突然質問されてユーノは戸惑い、慌てて幼い頃に学んだ知識を掘り返す。
「ラズーンは世界の『統治者』。諸国を束ねる中央機関。最大の王国にして性別を持たぬ神々が住まう、伝説と栄光に包まれた場所」
「その通りだ」
アシャはどこかうんざりした顔で頷いた。
「政治的な意味でも、地理的な意味でも世界の中心と言っていい、が、それ以上の役割がある。ラズーンはこの世界の……」
言い淀み、ことばを探すように天井を見上げたが、小さく溜め息をついて、
「構成1つ1つを生み出し造り出す源でもある」
「構成、1つ1つ?」
「もともとラズーンには2つの部分があった。『統治者』と『判定者』だ」
引っ掛かりかけたユーノをさらりと流して、アシャはことばを続けた。
「お互いに必要な役割を果たし、世界はそれで安定していた、だが」
眉をひそめた顔に暗い翳りが滲んだ。
「ラズーン支配が長く続くうちに、『判定者』の役割を担っていたものが、自分達こそこの世界を治めるべきものであると言って『運命(リマイン)』を名乗り、ラズーン支配を拒み出した。我らなしにはラズーンは有り得ない、ならば我らこそ、支配の長であるべきだ、と」
「……『判定者』の役割って何?」
「暗殺」
ぽつりと応じたアシャが殺気を滲ませた笑みを広げ、ユーノを見返す。
「『統治者』の意図に背くもの、または『統治者』の手違いで起こった事件や関連する存在を消す、それが役割だった」
「世界は、見えてるほど平和じゃねえ、そういうことか?」
イルファが確かめる。
「そうなるな」
アシャは苦い表情でユーノから目を逸らせた。
「力づくの、とうちは」
レスファートが暗誦するように呟く。
「あらそいしか、うまない、って」
「その通りだ」
アシャは静かに繰り返した。
「望まぬ方向と違う存在を押しつぶす愚を、誰よりも知っているはずのラズーンだったが、それに代わる方法もまた見つけられなかった」
低い声が掠れて続く。
「200年ごとの祭の意味を、どれほどの人間が理解していたのか、ということだ」
「200年ごとの祭?」
「……ラズーンは、200年祭を行う」
アシャはゆっくりと顔を上げた。緩やかに巡らせた視線でユーノを捉える。
「その時世界は変動する」
紫の瞳が言い様のない妖しい煌めきに満ちた。
「全てが根底から揺さぶられて」
ごくん、とイルファが唾を呑む。
レスファートも緊張した顔でアシャを見つめる。
ましてやその瞳に正面から見据えられて、ユーノはことばを失った。
(ラズーンの200年祭)
そんなことばは聞いたことがない。200年と一口に言うが、寿命を全うしても4~5世代ほどが生きる時間を一括りにしてしまう時間単位は、国の歴史にしか存在しない。
「っ」
ふいにそれはセレドが成り立った時から現在に至るまでの時間だと気付いて、どきりとした。まるで、セレドがラズーンのその祭りによって生まれ、祭りによって滅びていくような不安な気持ちになって、思わず口を開く。
「それって」
今あちこちに現れている太古生物と関係があるのか。『運命(リマイン)』と呼ばれる者が襲ってきたことや、カザドの魔手が伸びてきたこととも無関係ではないのか。
ひょっとして今世界は大きく崩れていこうとしていて、その余波をセレドも受けている、そういうことではないのか。
「ボクがラズーンに招かれたことにも関係があるの?」
「ラズーンに招かれた?」
「!」
しまった。
イルファが訝しそうな声を上げて、ユーノは舌打ちしかけた。側に居るのを失念していた。
「それはどういう意味だ?」
イルファがうっそりと問いかけた。
「ああ、サマルカンドを慣らしたそうだな」
問いを巧みに遮ってアシャが表情を緩める。
「え、あ、ああ、あの、クフィラ?」
ラズーンの200年祭とは何なのか。そして、そんなことを知っているアシャは一体何者なのか。
そういう疑問をもろとも逸らされそうな気配はあったが、イルファに突っ込まれては困るものもある。
ユーノは慌ててアシャに応じた。
「慣らしてなんかいないよ、ただ無我夢中で」
「サマルはもう1人の主人を見つけた、そう言ってたぞ」
アシャはにっこりと嬉しそうに笑って立ち上がった。砕けた窓枠に近寄って隙間から乗り出し、
「サマル!」
左腕を突き出して叫ぶと、激しい羽音が響いて白い鳥が舞い降りてくる。
「今回はお手柄だったぞ」
腰あたりで軽く横へ突き出したアシャの片腕に乗るクフィラはアシャの頭を軽く越える大きさだ。
「クゥア?」
どこか甘えた声で鳴いて、首を曲げてアシャの頭に自分の頭を寄せる仕草、重くはないのか、そう思った矢先にアシャがユーノを振り返る。
「呼んでみろ、ユーノ」
「うん」
ユーノは寝床に起き直った。
「サマルカンド」
「クェッ!」
ふわ、とアシャの手から舞い上がったクフィラは大きさに似合わない静けさを保って、ゆっくりユーノの近くに舞い降りる。
「ク、ゥ」
そのままお辞儀をするように頭を下げ、ユーノがつられて伸ばした左腕めがけて浮き上がる。鋭い爪を一瞬だしたが、ユーノの腕を掴んだ瞬間は、赤ん坊でも掴むような柔らかな感触しか残さない。そればかりか、レスファートよりも軽くて、ユーノは驚いた。
「いい子だね」
そっと囁いてもう片方の手を伸ばす。
「ク、クゥ」
クフィラは喉の奥で微かに鳴いて、甘えるように頭をユーノの掌に押し付けた。滑らかで艶やかな羽毛の感触、生き物の温もりがじわりと伝わる。
「お前にやる」
「え?」
「護衛用だ」
アシャがぼそりと低い声を出した。
「俺が間に合わなかった時のために」
「でも、そんな」
「クッ、ガッ」
ふいにクフィラが威嚇するように鋭い声を出して、ユーノはびくりとした。冠毛を軽く逆立てている。忙しく見開いて瞬きする瞳は冗談じゃない、と怒っているようだ。
「サマルカンドも心配だそうだ」
アシャがゆっくりと目を細めて笑った。
「俺と同じように」
「アシャと…?」
「お前が倒れたまま目を覚まさないと聞かされた時の俺の気持ちを」
細めた目の色が変わる。
「ちょっとは考えてくれ」
「あ…」
それは聞きようによっては甘いことば、思わず勝手に頭が優しい空想を広げようとしたとたん、
「聞きたいことがある」
イルファが不穏な調子で唸った。胡座を組んだまま、がっちりと腕を組み、アシャとユーノを等分に見比べる。
「俺はずっと悩んでいた」
「何を」
アシャが眉を寄せた。
「お前が男に興味がないのか、俺に興味がないのか」
「……」
一瞬白々とした空気が座に広がった。
サマルカンドでさえ、微妙なものを感じ取ったのか、ふいとユーノの腕を離れて部屋の隅へ舞い降り、自分に用がないと見極めたように窓の裂け目から再び舞い上がって消える。
「……イルファ」
アシャがうんざりした声を出した。
「俺は男に興味はないし、お前にはちゃんと友人としての礼を尽してる」
「にしても、そいつに比べて扱いが軽い」
「当たり前だろう、ユーノは主人…」
「だが、理由がわかった」
「は?」
「そいつは、女だ」
「っ、イルファっ」
ぐい、と指でまともに示されて、ユーノは思わず噛みついた。
「馬鹿なこと言い出すなっっ」
「お前はそいつに惚れてるから、俺より扱いが丁寧なんだ」
「っっ」
全身火を噴くかとユーノは思った。アシャのことなのに、自分の気持ちを指摘されたようで、居畳まれなくてアシャの方を見られない。
「ボクのどこかが女だよっ!」
「あるだろうが、感触の違いが」
「剣を持ってこいよ!」
今すぐ立ち会え、多少柔らかくて細っこくても、イルファの相手ぐらい簡単だ、叩きのめしてふざけた台詞を撤回させてやる。
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きっと同じような困惑をアシャも感じているに違いない、好き勝手に判断されて。
そう思うと我慢できなかった。
「怪我人を相手にする趣味はない」
「しつこいぞ、イルファ、怪我ならとっくに…っ!」
ふいに肩を掴まれてぎょっとした。振り返る間もなく引き寄せられたのはアシャの胸、包まれるように回った腕が次の瞬間、前の合わせを解き、一気に肩から衣服をずり落とす。
「っっっ」
さすがに、イルファの目の前で包帯で巻かれた薄い胸を晒されてユーノは凍った。レスファートも大きく目を見開いたまま声もない。
「あのなあ、イルファ」
無意識に服を引き上げようとした腕を止められ、泣きそうになったユーノの耳に、本当に嫌そうな不愉快そうなアシャの声が頭上から落ちてくる。
「よく見ろ」
「おい」
「このどこが女の体だ? え?」
ぴたぴた、とアシャの手がユーノの胸の上で躍った。
「待て」
「こんな薄っぺらい女の胸があるか?」
返ってイルファの方が戸惑い、心配そうな目でユーノとアシャを交互に見る。
「それに肩にも腕にも傷だらけ、女がこれだけ傷を負って、無事に済むと思ってるのか?」
「まあ、そりゃ…」
イルファが無遠慮にじろじろと肩から胸を見た。
「しかし……凄い傷だな」
「幼い頃から剣術に明け暮れたそうだ」
アシャが淡々と言い放って、もういいだろ、と衣服を肩に引き上げてくれるのを、ユーノは必死に引き寄せる。
「そこら中に怪我をして、みっともないから見せたくなかったんだ、な、ユーノ」
それに、お前にくらべれば、どんなやつだって筋肉は柔らかいってことにならないか?
アシャが軽く言い放つのに、竦みそうになる気持ちを引き上げて笑った。
「あーあ、見られちゃった」
ドコガ女ノ体。
「せっかく生まれついての剣の天才だと思われたかったのにな」
コンナ薄ッペライ女ノ胸ガアルカ。
「ほんと傷だらけなんだよ、他のも見る?」
ミットモナイカラ見セタクナカッタ。
(アシャも、そう思ってたんだ)
泣き出しそうなのを堪えた。
(みっともないって、思ってたんだ)
「いや……もういい」
イルファが不承不承首を振る。
「わかった。つまり、お前は主人だからそいつに優しくて、そいつに惚れてるわけじゃないんだな?」
「俺にも好みと言うものがある」
アシャが背後で苦笑した。
「可愛い女は一杯知ってるからな」
「……ボクにも、好みが、あるよ」
衣服を整えて何とかアシャの胸から離れ、ユーノはイルファを睨みつけた。
「次に同じこと言ったら、今度こそぶっ飛ばす」
「わかったわかった、悪かった悪かった。そうだな、第一、女ならお前がそんな扱いをするわけはないな」
詫びに粥でも作ろう。
「ぼく、が!」
立ち上がったイルファにはっとしたようにレスファートが立ち上がる。
「ぼくが、作るよ、すごく、おいしいのを。ね……ユーノ…?」
いたわるように振り向くアクアマリンの瞳が微かに潤んでいるのに、ユーノは微笑んだ。
「うん、頼む」
「俺の粥のどこがまずい」
「ぜんぶ」
こともなげに言い返して、レスファートがイルファを部屋から追い出していく。
2人の足音が水でも汲みに行ったのかばたばたと遠ざかっていくのを耳に、ユーノはゆっくり俯いた。
「ユーノ、」
「ありがとう、アシャ」
何か言いかけたアシャのことばを遮る。
謝罪も、言い訳も、説明も、何も聞きたくなかった。
「おかげでばれずに済んだよ、とっさの機転、すごいね、助かった」
「いや、俺は」
「それで、実は今ので傷がちょっと痛くなって」
のろのろと顔を上げる。まだ振り向けるほど立ち直れていない。まっすぐ前を向いたまま続ける。
「痛み止めが欲しいんだけど、だめかな」
尋ねる声が平板だ。
「持ってくる」
「うん」
背後からアシャが立ち上がるのと同時にそろりと横になって壁を向いた。零れ落ちた涙はぎりぎり何とか見えなかったはずだと声を励ます。
「ひょっとしたら、寝てるかもしれないから、もし寝てたら、起こさないで」
「……わかった」
「それから」
ゆっくり目を閉じて声が震えないように頑張る。
「明日には、ここを出よう」
「え?」
「どうしても早く、行きたいところがある」
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「ああ、ネークの導師、か」
「うん、どうしても」
どうしても、早く行きたい。
「世界が変動するなら、なおさら早く」
「………わかった。道をあたっておこう」
「お願い」
アシャはそれ以上追求することもなく部屋を静かに出て行く。
俺ニモ好ミト言ウモノガアル。
(そんなこと、わかってる)
1人になった部屋の中で、ユーノは体を竦めてきつく唇を噛み締めた。
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