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14.ダノマの赤い華(4)
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「…まさか」
「今までは本能的に避けられたのかも知れんが、その傷も、癖の隙をつかれてのものじゃねえかな」
お前ほど剣の才があって、しかもそんな幼い時から剣に親しんで、なおそこまで怪我をしっぱなしというのは、たぶんそうだろう。
茫然とするユーノにイルファが考え込んだ口調で呟く。
「気付かな、かったよ…」
「だろうな」
そんな事をしていたなんて。
しかもそれに気付かなかったなんて。
ゼランが、そう教えた、のか? いつの間にか、見えないところで、そう訓練していたのか、ユーノが自分で傷つくように? 自分から危険なところに我が身を晒すように?
ぞくりとした。
それだけなんだろうか、ゼランが植え付けた癖は。まだ他にもあって、それがたまたま見つかっていないだけなんじゃないのか。
(剣を習い直さなくちゃならない)
衝撃とともに覚った。
(でないと、何をするかわからない)
「なるほどな」「っ!」
「遅いぞ!」
嬉しそうにイルファが顔を上げ、ユーノは背後を振り返った。
湯気の向こうにアシャの顔がぼんやりと浮かんでいる。滑らかな肩と細いながらも整った筋肉に覆われた首筋、意外にかっちりとした腕が視界に飛び込んで、思わず見とれた。女性的な顔だちに乱れた金褐色の髪をうっとうしそうにかきあげる姿、相手が全裸だとふいに気付いて顔が熱くなる。
(ば、かっ)
なんて格好で入ってくるんだ。
(って、私は何を考えてるっ)
罵倒しながら、もちろん理不尽だとはわかっているが、軽く湯を浴びて側へ滑り込んでくるアシャの方を向けなくなった。逃げ出しそうになるのを堪え、扉の方を向いているのが精一杯だ。
ざぶりと湯が揺れる。湯の下で一瞬アシャの指が腕に触れてぎくりとした。
「実はちょっと気になったことがある」
ユーノと背中を合わせるように、さりげなくイルファの視界を遮りながら、腕に触れたアシャの指が戸口へ動くように合図してくる。
(あ)
今のうちに、上がれ。
(そうか)
アシャがイルファの相手をしているうちに、背中を向けて湯舟から出れば、身体つきをそれほど注目されない。
「あつ……ボク、もう上がるね」
うんざりした声で唸って、ざぶざぶ湯を掻き分けて離れる。
「え、もうか?」
「なんだ、イルファ、俺と話すよりユーノと話す方が楽しいのか」
覗き込みかけたイルファを制するようにアシャがからかってくれ、そんなことはない、俺はお前と風呂に入るのは楽しいぞ、と慌てたように弁解を始めるイルファに、急いで湯舟から出て戸口をすり抜ける。
「ふ、ぅ」
どうなるかと思った。
隣室で水滴を拭い、急いで用意の服を着ながら溜め息をつく。
もしアシャが来てくれなかったら。
思った瞬間、すぐ側を通り抜けていったしなやかな身体を思い出した。
「……」
意外に筋肉質、だった。着痩せする性質なんだ。裸になった方が骨格も立派だし、身体つきも男らしいし、なのに動きは柔らかくて、肌も滑らかそうだったし、抱き締められたらさぞかし安心して気持ちいいだろう…。
「っ、」
ぼんやり考えていた先がとんでもない方向に落ち込んでぎょっとし、みるみる熱を上げていく頭を必死に擦り倒す。
「ばかなこと、考えて」
そんなことはありえない。
そんなことがあるとしたら。
「……」
そんなことを望めるのは。
「………」
姉さまだけ。
「…………ふ」
布で顔を覆う。
真っ赤になっているだろう自分が情けなくてみっともない。自分のものではない人に抱かれる夢を考えてしまったのが愚かでうっとうしい。
「まずい、なあ……」
あんな姿を見てしまったら、きっと婚儀の時だって、その夜のことを考えてしまうだろう。
アシャの腕に抱かれるレアナのことを、その安心を、その快さを想像してしまう。どんな風に誘うかとか、どんな風に受け止めてくれるかとか、どんな風に愛してくれるのかとか。
「う、」
愛してくれるか、だって?
頭がくらくらする。
話に聞いただけの夜の営みは、ユーノを女と見ていない輩の自慢話も含め、乙女達が想像する優しくて温かいものより、熱を伝えて現実的だ。自分にはきっと関係ない、そう思いつつも耳をそばだてたのは、男が女のどの部分に魅かれるかの一節で、何よりあの柔らかな肌、そう笑った声を聞いた瞬間に突き落とされた気がした。
(柔らかな、肌、なんて、ないよなあ)
苦笑しながらそっと自分の体を摩る。
傷だらけで、柔らかくも滑らかでもない肌を愛しんでくれる相手など居るのだろうか。
ましてや、あの、アシャが?
(そういうことは経験が豊富そうだし)
「婚儀前に国を出る、かな…」
それでもきっと、眠れない夜に想うだろう、あの腕の中で眠る幸福を。
「導師」
どうしたらいいんだろう。こうして日々降り積もっていく、アシャへの想いを抱えて、どこまで壊れずにいられるんだろう。
「頑張らなくちゃ」
少しでもアシャの側に長く居たいなら。
「隠し通さなきゃ」
覚られないように、気付かれないように。
「でも……」
夢、なら、いい、かな。
ちょっとだけ、自分が、とか、夢、見ても。
ずきずきする胸に呟いたとたん、
「…ちっ」
舌打ちして自分をののしる。
ばかやろう。
そんなの、姉さまへの裏切りと同じだ。
顔を強く擦り、イルファが気を変えて出てこないうちにと、ユーノはさっさと寝室に向かった。
夜はいつのまにかとっぷり暮れて、月が頭上に昇っていた。
煌々と照らす光を浴びて、渡り廊下をアシャは進む。
ユーノに何の話があるんだと散々イルファに絡まれた。濡れた髪は既に乾き始めている。伸びてきたそれをさくりと掻き上げ、ユーノの首筋に絡みついていた髪の毛を思い出した。
『気付かな、かったよ…』
茫然とした声が、濡れてくしゃくしゃになった髪の毛が絡みつく細い首の向こうから響く。
ただでさえ、ゼランに裏切られていたという事実はユーノを傷つけている。そのうえ手取り足取り教えられた剣に、自分の命を危険に晒すような罠が仕掛けられていたと知って、微かに震えた肩が痛々しかった。
「俺が先に気付いていれば」
唇を噛んでアシャは眉を寄せた。
そうすれば、あんなに無造作に知らせることはしなかった、それとなく剣を教えて、それとなく隙に気付かせて。
「この上に剣を教える?」
自分の思いつきを嘲笑った。
17歳の少女として、ユーノは十分に強い。天賦の才能とはこういうものなのかと何度も思わせる。
それは遠くラズーンに住まう『太皇(スーグ)』がアシャに対して感じたものを想像させた。稀に見る才能、豊かな力量、王たるにふさわしい器、だがしかし。
アシャは目を伏せ、髪を掻き上げたまま立ち止まる。頭に当る掌の感触、それもまた、遠い日に自分を愛おしんだ掌を思わせる。
だがしかし。
その存在は、これまでの世界の理を破壊する。
それを『王』として選んでよいのか。ただ優れた資質があるからと世界の命運を自分の手で変えてしまっていいのか。
『太皇(スーグ)』の胸にあっただろう逡巡はゼランの惑いでもある。
自らを、世界を滅ぼす敵を造り上げてしまうかもしれない……。
「………」
あなたはどうして俺を選べたんだ。
彼方の地の穏やかな眼に問いかける。
いくらでも選択肢はあったはずだ。ギヌアだって居た、彼の資質も十分に豊かだった。彼を選べば、何も問題はなかった、アシャはその位を望んでいなかったのだから。
なぜ、俺を。
ひょっとして『太皇(スーグ)』の中にも蠢いたものがあるのだろうか、世界の命運も自らの保守も捨て去って、力の花開くさまを見てみたいという魔性の囁きが。
今アシャの中に沸き起こる微かな興奮と同じように。
(もう、十分じゃないか)
湯舟の中に浸っていた身体がそっと振り返った時、首筋が吸い込まれるように湯に消えていて、そのままどこかに漂っていってしまいそうで、つい、指を伸ばした。触れたのは波打つように引き攣れた皮膚、ぴくりと揺れて逃げそうな気配に掴みかけ、かろうじて自制した。
イルファとの間に滑り込む、背中に湯を通して柔らかな熱が伝わってくる、けれどその熱は震えて、まるで褥の中でこれから互いに求め合う前の危うさで。
ごくりと唾を呑んだ気配に気付かれただろうか。
「………狡いな、男は」
目を閉じて揺れる気持ちにしばらく酔う。開かせたい、まだ誰も見たことがないあの花を。自分の手で、最後の最後まで。
危うい衝動をずらせば、ユーノの剣の罠を消すために剣を教え込みたいという意志に変わる。
変えたい、ユーノを、この掌の中で。
この激しくて理不尽な衝動を、ゼランもまた味わっていたのだろう。
単に敵となるから剣に罠を仕込んだのではなく、いつか自分の敵となり、誰か他の男のものとなる、その屈折がどこかに潜んでいたからこそ、身を安全に守る盾を与える代わりに、自ら屠られるしかないような剣を植え込んだのではないか。
畜生が。
顔をしかめる。同じ鞭が自らを打つ。
「なら、俺は…?」
どうする。
迷いつつ、再びゆっくり歩き始め、ユーノ達の寝室に辿り着いた。
「……ユーノ? 寝たか?」
低く声をかけたが、答えがないのにそっと扉を開く。
部屋に入ると、そこにも窓から注いだ銀色の光が満ちていた。
ユーノを待ちくたびれて眠ってしまったらしいレスファートが、ベッドの上で丸くなっている。乱れた髪がきらきらと輝き、閉じられたまつげも銀色にけぶっている。小さく開けた唇から微かな寝息、軽く身動きしてレスファートは呟く。
「ん……ユーノ……イルファの……ばか」
その側に、微笑みながら上がけをかけてやるユーノの姿があった。
湯上がりの薄い衣1枚、それでも手足をしっかり覆う服を身に着けている相手に胸が傷む。
ユーノの剣に隙があるのは確かだ。それが危険なことも。
だが、剣を教えるならば、一層ユーノを危険に追い込むことにはならないか。
そうするぐらいなら。
(俺が守ればいい)
片時も側を離れず、敵には盾となり、疲労には床となり、哀しみには憩いとなり、空腹には心身を満たす食物となり。
「、ごほっ」
「アシャ?」
一体何を食わせるつもりなんだ俺は、と思わずむせたアシャにはっとしたように振り返ったユーノが怪訝な顔になった。
「どうしたの?」
「あ、いや、レスの傷はどうかと思ってな」
「大丈夫みたい……よく寝てる」
微笑むユーノは愛おしそうにレスファートを見下ろす。一瞬、そこに横たわっているのが自分でないことに嫉妬して、アシャはゆっくりと近付いた。
開け放った窓から風が静かに入ってくる。
「いい風だな」
「うん……静かで気持ちいい夜だよ………ねえ、アシャ」
ユーノの柔らかな声に、窓際まで行って振り返った。
「なんだ」
「……私に剣を教えて」
「え…」
「私の剣には罠がある、それはもう聞いてたよね?」
「ああ」
「カザド相手ではしのげても『運命(リマイン)』相手じゃ難しい、アシャもそう思うでしょ?」
「……ああ」
「だから、剣を教えて」
ひたりと見つめ返してくるユーノの顔に迷いはない。月光を浴びていつもより白く見える顔、噛み締めていたのか唇がほんのりと色づいて開いている。
「『ラズーン』へ行かなくちゃならない、絶対。『ラズーン』へ行って、どんな御用があるかは知らないけど、でもカザドの非道も訴えて」
続けたことばに、そんなことも考えていたのか、と頷いた。
「忠誠を誓って、姉さま達が安心して暮らせるようにセレドもちゃんと見守って下さいとお願いして」
必死な目の色は黒く澄んで僅かに潤んでいる。
「もし、万が一、私が」
戻れなくても。
「……」
呟いた声に胸を突かれた。
(死ぬ、つもりで)
「セレドが安泰に続くように」
「守ってもらおうと考えないのか」
ことばが零れ出てしまった。
「え?」
「お前は誰かに守ってもらおうとは考えないのか」
「わ、たし…?」
私は。
思いもかけないことばを聞いたという顔で目を見開いたユーノは、やがて目を伏せて苦笑した。
「誰、に?」
からかうような、掠れた声が響いた。
「誰が…」
守れる。
「どうして…」
守ろうなんて、考える。
「私は」
無意識のような仕草でそっと片腕を触って自分を抱える。
「……無理、だ」
「そんなことはない!」
思わず強く言い放って、アシャは窓から離れた。両手を差し伸べ、今にも崩れそうに見える相手に近寄る。
「お前だって、独りじゃきっと」
「きっと…?」
のろのろと顔を上げたユーノが潤んだ瞳を細めて笑う。
「……それ、でも」
無理なものは、
「俺が」
その先を言わせたくなくて、肩に手をかけ引き寄せる。
「俺が、」
「あ…しゃ…?」
ふわり、と体が揺れ、腕の中に倒れ込んでくるように見えた。そのまま抱き締め、顔を上げさせ、今にも泣き出しそうな唇を一気に塞いでしまおう。顔を寄せた、次の一瞬。
ジャッ!
「っ!」
チャリッ! ギャギャッ!
「アシャっ!」
突然響いた剣戟の音に、ユーノは一瞬にして体勢を立て直した。窓から庭へ、視線を走らせたとたんに身を翻してベッドの上の剣を掴み、止める間もなく窓から外へ飛び下りる。
「誰か襲われてるっ!」
「ちぃいいいっっ!」
どこのくそ餓鬼だ、こんな夜中に馬鹿馬鹿しいまねをしやがって!
舌打ちしながらアシャもすぐさま後を追う。短剣1本しかしのばせていないが、怒りが十分容赦ない攻撃にしてくれることは確信できる。
「アオクーッ!」
先を行くユーノの猛々しい声が響き渡った。
ジェブの樹へ数人の男に追い詰められたアオクが、傍らに抱えたほの白い塊を庇うように剣を振るいながら、ユーノの姿を認めたのだろう、叫び返してくる。
「来るなーっ!」
「冗談!」
一言のもとに1人を切り捨てたユーノは生き生きと次の敵に躍りかかった。抜いたか抜かぬ間に1人が倒れ、次の1人も驚いた顔で仰け反っていく。だが、ユーノの剣は再び鞘におさまっていて、抜かれた気配がない。
「どこで覚えたっ!」
飛びかかってきた相手を叩きのめしながら尋ねたアシャに、ユーノがにっと不敵な笑みを返す。
「昼間、道端でやってた!」
目の前に立ち塞がった敵に瞬時身を沈めて静止、相手がぎょっとした顔で止まったとたん、幻を残してユーノの手が剣を抜き放ち、一閃した後すぐに鞘におさめられる。
「おいっ」
アオクが茫然とした顔になった。
「それは近衛でも遣い手が限られる剣だぞっ」
「そんなこと言ってる場合?」
「っく!」
慌てて防戦に入るアオクに、けれどこれは奇襲の方が効果的だよね、すぐ距離取られるから、と息も切らせずに剣の扱いを変えるユーノに、アシャも唖然とした。
(見よう見まねで、よくもそこまで)
この分では本当にアシャの、『視察官(オペ)』の剣まで身につけてしまうかもしれない。
(『銀の王族』の『視察官(オペ)』だと?)
前代未聞まずありえない設定、そう考え、ことばの意味に気付く。
(ありえない、展開)
たとえばアシャの存在。
たとえばユーノの特性。
かつてないほどの太古生物の繁殖跳梁と、『運命(リマイン)』の侵蝕。
既にこの200年祭がありえないことの連続ではないのか。
ひょっとして。
ひょっとしたら、『太皇(スーグ)』はこれを見越して、アシャを選んでいたのだろうか。平穏な200年を治めるものとしてではなく、動乱と混沌の世界に新しい基準を得るために。
「……たい…した腕…だな」
一通り敵を倒してアオクの元にユーノともども駆け寄ると、はあはあと荒い息を吐きながら汗に塗れた相手が唸った。
「見損なっていた…申し訳ない」
「いいよ、人は見かけによらないって覚えてくれれば」
ユーノがしらっとやり返すのに溜め息をついて、アシャはアオクの背後に庇われていた人物に気付いた。
「そちらは」
ユーノより少し年上といったところか、額に紅玉を細い金鎖で垂らしている。濃い茶色の髪が白と金のまばゆいばかりの衣装の肩に波打っている。澄んだ薄茶色の目が不安そうにユーノを、続いてアシャを見た。
「どなたなの、アオク」
細い声で尋ねるのに、アオクは安心させるように笑って振り返ってみせ、
「客人だ。問題ない。ユーノ、それにアシャだ」
「驚かせて申し訳ありません」
アシャの声に相手はほっと軽く吐息をついて微笑み返す。
「ボクらは、アオクの家に泊めてもらっているんです」
「そう、ですか」
ユーノのことばにおどおどと頷いた。
「紹介しよう」
アオクがその華奢な肩をそっと抱き、向き直る。
「エキオラ………第三王子クノーラス様に嫁ぐ、俺の幼馴染みだ」
「今までは本能的に避けられたのかも知れんが、その傷も、癖の隙をつかれてのものじゃねえかな」
お前ほど剣の才があって、しかもそんな幼い時から剣に親しんで、なおそこまで怪我をしっぱなしというのは、たぶんそうだろう。
茫然とするユーノにイルファが考え込んだ口調で呟く。
「気付かな、かったよ…」
「だろうな」
そんな事をしていたなんて。
しかもそれに気付かなかったなんて。
ゼランが、そう教えた、のか? いつの間にか、見えないところで、そう訓練していたのか、ユーノが自分で傷つくように? 自分から危険なところに我が身を晒すように?
ぞくりとした。
それだけなんだろうか、ゼランが植え付けた癖は。まだ他にもあって、それがたまたま見つかっていないだけなんじゃないのか。
(剣を習い直さなくちゃならない)
衝撃とともに覚った。
(でないと、何をするかわからない)
「なるほどな」「っ!」
「遅いぞ!」
嬉しそうにイルファが顔を上げ、ユーノは背後を振り返った。
湯気の向こうにアシャの顔がぼんやりと浮かんでいる。滑らかな肩と細いながらも整った筋肉に覆われた首筋、意外にかっちりとした腕が視界に飛び込んで、思わず見とれた。女性的な顔だちに乱れた金褐色の髪をうっとうしそうにかきあげる姿、相手が全裸だとふいに気付いて顔が熱くなる。
(ば、かっ)
なんて格好で入ってくるんだ。
(って、私は何を考えてるっ)
罵倒しながら、もちろん理不尽だとはわかっているが、軽く湯を浴びて側へ滑り込んでくるアシャの方を向けなくなった。逃げ出しそうになるのを堪え、扉の方を向いているのが精一杯だ。
ざぶりと湯が揺れる。湯の下で一瞬アシャの指が腕に触れてぎくりとした。
「実はちょっと気になったことがある」
ユーノと背中を合わせるように、さりげなくイルファの視界を遮りながら、腕に触れたアシャの指が戸口へ動くように合図してくる。
(あ)
今のうちに、上がれ。
(そうか)
アシャがイルファの相手をしているうちに、背中を向けて湯舟から出れば、身体つきをそれほど注目されない。
「あつ……ボク、もう上がるね」
うんざりした声で唸って、ざぶざぶ湯を掻き分けて離れる。
「え、もうか?」
「なんだ、イルファ、俺と話すよりユーノと話す方が楽しいのか」
覗き込みかけたイルファを制するようにアシャがからかってくれ、そんなことはない、俺はお前と風呂に入るのは楽しいぞ、と慌てたように弁解を始めるイルファに、急いで湯舟から出て戸口をすり抜ける。
「ふ、ぅ」
どうなるかと思った。
隣室で水滴を拭い、急いで用意の服を着ながら溜め息をつく。
もしアシャが来てくれなかったら。
思った瞬間、すぐ側を通り抜けていったしなやかな身体を思い出した。
「……」
意外に筋肉質、だった。着痩せする性質なんだ。裸になった方が骨格も立派だし、身体つきも男らしいし、なのに動きは柔らかくて、肌も滑らかそうだったし、抱き締められたらさぞかし安心して気持ちいいだろう…。
「っ、」
ぼんやり考えていた先がとんでもない方向に落ち込んでぎょっとし、みるみる熱を上げていく頭を必死に擦り倒す。
「ばかなこと、考えて」
そんなことはありえない。
そんなことがあるとしたら。
「……」
そんなことを望めるのは。
「………」
姉さまだけ。
「…………ふ」
布で顔を覆う。
真っ赤になっているだろう自分が情けなくてみっともない。自分のものではない人に抱かれる夢を考えてしまったのが愚かでうっとうしい。
「まずい、なあ……」
あんな姿を見てしまったら、きっと婚儀の時だって、その夜のことを考えてしまうだろう。
アシャの腕に抱かれるレアナのことを、その安心を、その快さを想像してしまう。どんな風に誘うかとか、どんな風に受け止めてくれるかとか、どんな風に愛してくれるのかとか。
「う、」
愛してくれるか、だって?
頭がくらくらする。
話に聞いただけの夜の営みは、ユーノを女と見ていない輩の自慢話も含め、乙女達が想像する優しくて温かいものより、熱を伝えて現実的だ。自分にはきっと関係ない、そう思いつつも耳をそばだてたのは、男が女のどの部分に魅かれるかの一節で、何よりあの柔らかな肌、そう笑った声を聞いた瞬間に突き落とされた気がした。
(柔らかな、肌、なんて、ないよなあ)
苦笑しながらそっと自分の体を摩る。
傷だらけで、柔らかくも滑らかでもない肌を愛しんでくれる相手など居るのだろうか。
ましてや、あの、アシャが?
(そういうことは経験が豊富そうだし)
「婚儀前に国を出る、かな…」
それでもきっと、眠れない夜に想うだろう、あの腕の中で眠る幸福を。
「導師」
どうしたらいいんだろう。こうして日々降り積もっていく、アシャへの想いを抱えて、どこまで壊れずにいられるんだろう。
「頑張らなくちゃ」
少しでもアシャの側に長く居たいなら。
「隠し通さなきゃ」
覚られないように、気付かれないように。
「でも……」
夢、なら、いい、かな。
ちょっとだけ、自分が、とか、夢、見ても。
ずきずきする胸に呟いたとたん、
「…ちっ」
舌打ちして自分をののしる。
ばかやろう。
そんなの、姉さまへの裏切りと同じだ。
顔を強く擦り、イルファが気を変えて出てこないうちにと、ユーノはさっさと寝室に向かった。
夜はいつのまにかとっぷり暮れて、月が頭上に昇っていた。
煌々と照らす光を浴びて、渡り廊下をアシャは進む。
ユーノに何の話があるんだと散々イルファに絡まれた。濡れた髪は既に乾き始めている。伸びてきたそれをさくりと掻き上げ、ユーノの首筋に絡みついていた髪の毛を思い出した。
『気付かな、かったよ…』
茫然とした声が、濡れてくしゃくしゃになった髪の毛が絡みつく細い首の向こうから響く。
ただでさえ、ゼランに裏切られていたという事実はユーノを傷つけている。そのうえ手取り足取り教えられた剣に、自分の命を危険に晒すような罠が仕掛けられていたと知って、微かに震えた肩が痛々しかった。
「俺が先に気付いていれば」
唇を噛んでアシャは眉を寄せた。
そうすれば、あんなに無造作に知らせることはしなかった、それとなく剣を教えて、それとなく隙に気付かせて。
「この上に剣を教える?」
自分の思いつきを嘲笑った。
17歳の少女として、ユーノは十分に強い。天賦の才能とはこういうものなのかと何度も思わせる。
それは遠くラズーンに住まう『太皇(スーグ)』がアシャに対して感じたものを想像させた。稀に見る才能、豊かな力量、王たるにふさわしい器、だがしかし。
アシャは目を伏せ、髪を掻き上げたまま立ち止まる。頭に当る掌の感触、それもまた、遠い日に自分を愛おしんだ掌を思わせる。
だがしかし。
その存在は、これまでの世界の理を破壊する。
それを『王』として選んでよいのか。ただ優れた資質があるからと世界の命運を自分の手で変えてしまっていいのか。
『太皇(スーグ)』の胸にあっただろう逡巡はゼランの惑いでもある。
自らを、世界を滅ぼす敵を造り上げてしまうかもしれない……。
「………」
あなたはどうして俺を選べたんだ。
彼方の地の穏やかな眼に問いかける。
いくらでも選択肢はあったはずだ。ギヌアだって居た、彼の資質も十分に豊かだった。彼を選べば、何も問題はなかった、アシャはその位を望んでいなかったのだから。
なぜ、俺を。
ひょっとして『太皇(スーグ)』の中にも蠢いたものがあるのだろうか、世界の命運も自らの保守も捨て去って、力の花開くさまを見てみたいという魔性の囁きが。
今アシャの中に沸き起こる微かな興奮と同じように。
(もう、十分じゃないか)
湯舟の中に浸っていた身体がそっと振り返った時、首筋が吸い込まれるように湯に消えていて、そのままどこかに漂っていってしまいそうで、つい、指を伸ばした。触れたのは波打つように引き攣れた皮膚、ぴくりと揺れて逃げそうな気配に掴みかけ、かろうじて自制した。
イルファとの間に滑り込む、背中に湯を通して柔らかな熱が伝わってくる、けれどその熱は震えて、まるで褥の中でこれから互いに求め合う前の危うさで。
ごくりと唾を呑んだ気配に気付かれただろうか。
「………狡いな、男は」
目を閉じて揺れる気持ちにしばらく酔う。開かせたい、まだ誰も見たことがないあの花を。自分の手で、最後の最後まで。
危うい衝動をずらせば、ユーノの剣の罠を消すために剣を教え込みたいという意志に変わる。
変えたい、ユーノを、この掌の中で。
この激しくて理不尽な衝動を、ゼランもまた味わっていたのだろう。
単に敵となるから剣に罠を仕込んだのではなく、いつか自分の敵となり、誰か他の男のものとなる、その屈折がどこかに潜んでいたからこそ、身を安全に守る盾を与える代わりに、自ら屠られるしかないような剣を植え込んだのではないか。
畜生が。
顔をしかめる。同じ鞭が自らを打つ。
「なら、俺は…?」
どうする。
迷いつつ、再びゆっくり歩き始め、ユーノ達の寝室に辿り着いた。
「……ユーノ? 寝たか?」
低く声をかけたが、答えがないのにそっと扉を開く。
部屋に入ると、そこにも窓から注いだ銀色の光が満ちていた。
ユーノを待ちくたびれて眠ってしまったらしいレスファートが、ベッドの上で丸くなっている。乱れた髪がきらきらと輝き、閉じられたまつげも銀色にけぶっている。小さく開けた唇から微かな寝息、軽く身動きしてレスファートは呟く。
「ん……ユーノ……イルファの……ばか」
その側に、微笑みながら上がけをかけてやるユーノの姿があった。
湯上がりの薄い衣1枚、それでも手足をしっかり覆う服を身に着けている相手に胸が傷む。
ユーノの剣に隙があるのは確かだ。それが危険なことも。
だが、剣を教えるならば、一層ユーノを危険に追い込むことにはならないか。
そうするぐらいなら。
(俺が守ればいい)
片時も側を離れず、敵には盾となり、疲労には床となり、哀しみには憩いとなり、空腹には心身を満たす食物となり。
「、ごほっ」
「アシャ?」
一体何を食わせるつもりなんだ俺は、と思わずむせたアシャにはっとしたように振り返ったユーノが怪訝な顔になった。
「どうしたの?」
「あ、いや、レスの傷はどうかと思ってな」
「大丈夫みたい……よく寝てる」
微笑むユーノは愛おしそうにレスファートを見下ろす。一瞬、そこに横たわっているのが自分でないことに嫉妬して、アシャはゆっくりと近付いた。
開け放った窓から風が静かに入ってくる。
「いい風だな」
「うん……静かで気持ちいい夜だよ………ねえ、アシャ」
ユーノの柔らかな声に、窓際まで行って振り返った。
「なんだ」
「……私に剣を教えて」
「え…」
「私の剣には罠がある、それはもう聞いてたよね?」
「ああ」
「カザド相手ではしのげても『運命(リマイン)』相手じゃ難しい、アシャもそう思うでしょ?」
「……ああ」
「だから、剣を教えて」
ひたりと見つめ返してくるユーノの顔に迷いはない。月光を浴びていつもより白く見える顔、噛み締めていたのか唇がほんのりと色づいて開いている。
「『ラズーン』へ行かなくちゃならない、絶対。『ラズーン』へ行って、どんな御用があるかは知らないけど、でもカザドの非道も訴えて」
続けたことばに、そんなことも考えていたのか、と頷いた。
「忠誠を誓って、姉さま達が安心して暮らせるようにセレドもちゃんと見守って下さいとお願いして」
必死な目の色は黒く澄んで僅かに潤んでいる。
「もし、万が一、私が」
戻れなくても。
「……」
呟いた声に胸を突かれた。
(死ぬ、つもりで)
「セレドが安泰に続くように」
「守ってもらおうと考えないのか」
ことばが零れ出てしまった。
「え?」
「お前は誰かに守ってもらおうとは考えないのか」
「わ、たし…?」
私は。
思いもかけないことばを聞いたという顔で目を見開いたユーノは、やがて目を伏せて苦笑した。
「誰、に?」
からかうような、掠れた声が響いた。
「誰が…」
守れる。
「どうして…」
守ろうなんて、考える。
「私は」
無意識のような仕草でそっと片腕を触って自分を抱える。
「……無理、だ」
「そんなことはない!」
思わず強く言い放って、アシャは窓から離れた。両手を差し伸べ、今にも崩れそうに見える相手に近寄る。
「お前だって、独りじゃきっと」
「きっと…?」
のろのろと顔を上げたユーノが潤んだ瞳を細めて笑う。
「……それ、でも」
無理なものは、
「俺が」
その先を言わせたくなくて、肩に手をかけ引き寄せる。
「俺が、」
「あ…しゃ…?」
ふわり、と体が揺れ、腕の中に倒れ込んでくるように見えた。そのまま抱き締め、顔を上げさせ、今にも泣き出しそうな唇を一気に塞いでしまおう。顔を寄せた、次の一瞬。
ジャッ!
「っ!」
チャリッ! ギャギャッ!
「アシャっ!」
突然響いた剣戟の音に、ユーノは一瞬にして体勢を立て直した。窓から庭へ、視線を走らせたとたんに身を翻してベッドの上の剣を掴み、止める間もなく窓から外へ飛び下りる。
「誰か襲われてるっ!」
「ちぃいいいっっ!」
どこのくそ餓鬼だ、こんな夜中に馬鹿馬鹿しいまねをしやがって!
舌打ちしながらアシャもすぐさま後を追う。短剣1本しかしのばせていないが、怒りが十分容赦ない攻撃にしてくれることは確信できる。
「アオクーッ!」
先を行くユーノの猛々しい声が響き渡った。
ジェブの樹へ数人の男に追い詰められたアオクが、傍らに抱えたほの白い塊を庇うように剣を振るいながら、ユーノの姿を認めたのだろう、叫び返してくる。
「来るなーっ!」
「冗談!」
一言のもとに1人を切り捨てたユーノは生き生きと次の敵に躍りかかった。抜いたか抜かぬ間に1人が倒れ、次の1人も驚いた顔で仰け反っていく。だが、ユーノの剣は再び鞘におさまっていて、抜かれた気配がない。
「どこで覚えたっ!」
飛びかかってきた相手を叩きのめしながら尋ねたアシャに、ユーノがにっと不敵な笑みを返す。
「昼間、道端でやってた!」
目の前に立ち塞がった敵に瞬時身を沈めて静止、相手がぎょっとした顔で止まったとたん、幻を残してユーノの手が剣を抜き放ち、一閃した後すぐに鞘におさめられる。
「おいっ」
アオクが茫然とした顔になった。
「それは近衛でも遣い手が限られる剣だぞっ」
「そんなこと言ってる場合?」
「っく!」
慌てて防戦に入るアオクに、けれどこれは奇襲の方が効果的だよね、すぐ距離取られるから、と息も切らせずに剣の扱いを変えるユーノに、アシャも唖然とした。
(見よう見まねで、よくもそこまで)
この分では本当にアシャの、『視察官(オペ)』の剣まで身につけてしまうかもしれない。
(『銀の王族』の『視察官(オペ)』だと?)
前代未聞まずありえない設定、そう考え、ことばの意味に気付く。
(ありえない、展開)
たとえばアシャの存在。
たとえばユーノの特性。
かつてないほどの太古生物の繁殖跳梁と、『運命(リマイン)』の侵蝕。
既にこの200年祭がありえないことの連続ではないのか。
ひょっとして。
ひょっとしたら、『太皇(スーグ)』はこれを見越して、アシャを選んでいたのだろうか。平穏な200年を治めるものとしてではなく、動乱と混沌の世界に新しい基準を得るために。
「……たい…した腕…だな」
一通り敵を倒してアオクの元にユーノともども駆け寄ると、はあはあと荒い息を吐きながら汗に塗れた相手が唸った。
「見損なっていた…申し訳ない」
「いいよ、人は見かけによらないって覚えてくれれば」
ユーノがしらっとやり返すのに溜め息をついて、アシャはアオクの背後に庇われていた人物に気付いた。
「そちらは」
ユーノより少し年上といったところか、額に紅玉を細い金鎖で垂らしている。濃い茶色の髪が白と金のまばゆいばかりの衣装の肩に波打っている。澄んだ薄茶色の目が不安そうにユーノを、続いてアシャを見た。
「どなたなの、アオク」
細い声で尋ねるのに、アオクは安心させるように笑って振り返ってみせ、
「客人だ。問題ない。ユーノ、それにアシャだ」
「驚かせて申し訳ありません」
アシャの声に相手はほっと軽く吐息をついて微笑み返す。
「ボクらは、アオクの家に泊めてもらっているんです」
「そう、ですか」
ユーノのことばにおどおどと頷いた。
「紹介しよう」
アオクがその華奢な肩をそっと抱き、向き直る。
「エキオラ………第三王子クノーラス様に嫁ぐ、俺の幼馴染みだ」
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