『よいこのすすめ』

segakiyui

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 へたなんだとさ、ベッドが。
「ちっ」
 唇を尖らせて、正志はフライパンの中のスパゲッティを炒める。じゅわじゅわと湯気を上げているパスタはタマネギとピーマンとトマトに絡まれて、ほこほこと旨そうだって言うのに。
「ベッドがうまくてたまるかよ」
 それほど、僕と寝たか、ああん?
 数えるぐらいだろうが、ええ? 
 正志はさっきからずっと胸の中で、ぶちまけられない不穏当なぼやきを繰り返している。
 そうだ、ほんと数えるぐらいだ、だって今年に入ってまだ一回しか………一回しかなかったのに、もうへただって決めつけられるほど、だめだめだったってことか?
「う…」
 なんか無性に哀しくなってきた。
「んー、いー匂い」
「うわっ」
 背後からいきなりとんと肩に乗ってきた顔が至極嬉しそうに満足そうに呟いて、一瞬フライパンを落としかけた。
「まーちゃん、昼飯、それー?」
「猛」
 ぎゅ、と眉を顰めて、昔なじみの呼び方で尋ねてきた相手に唸った。
「それ、やめろって」
「何が? 肩に顔乗せるの?」
「違う」
 そのまーちゃんって呼び名だよ、もう二十四なんだからさ。
 そう正志が続けると、じゃあ、肩に顔乗せるのはいーんだーと寝惚けた声で応じたから、
「それもやめろ」
「えー、なんでさー」
 くふくふ笑って背中からくっついてくる体を乱暴に押し退けて、じろりと見遣る。
「そういうことするから、鷹さんに誤解されるんだろが」
「うっ」
 ぎくりとした顔で口元にこぶしを当てたのは、身長百八十はある大柄な従兄弟で、母親方の親類にあたる。今は寝起きでぼやんとしてるけれど、その実、正志がバイトしている三上病院の立派な医師で、しかも切れ者だとの噂も高い。
 もっとも、倉沢猛がねっからのゲイだって言うのは、それほどオープンになっていないはずだ。
「た、鷹のことは関係ないだろ……」
「ははぁん」
 不安そうな声に正志はにやりと笑った。
「その顔だと、昨日のデートすっぽかされたんだろ」
「………違うよ」
 大きな体を竦めて猛は悲しそうに俯いた。
「鷹がなんか綺麗な子と歩いてったからさ」
「鷹さんが? まさか」
 鷹さんというのは猛の今の恋人だ。
 本名三上鷹継、つまりは三上病院の跡継ぎだが、医療関係じゃなくて情報産業のエリート街道まっしぐら、何を間違って猛なんかを恋人にしてしまったのかと言うほどスマートな物腰で、どちらかというと猛より細身で優しげに見える。
 もっとも性格はかなりきついみたいで、猛が時々やり込められるぐらいだから、あんまり個人的に付き合いたくはないタイプだよな、と正志は思う。
「鷹さん、女の人に興味あったの?」
「………バイ……なんだよね」
「あ…そう」
 そりゃ、ちょっと不利かもなあ、と正志が呟くとと、猛がじわっと瞳を潤ませた。          
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