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「自分が振られたからって、そんなひどいこと言わなくてもいいだろ」
目元をうっすら染めながら、猛がもぐもぐスパゲッティを口に運ぶ。ばさっとした白のパジャマがうっとうしいぐらいによく似合う男が、いじけながら皿を抱えているのをにやにやして見ていた正志は、はっと我に返った。
「なんで知ってんの」
「……さっき電話してきてくれた、うちの看護師が。近くのテーブルに居たんだって。高岳さん、彼女に振られてましたよぉって」
「うわ………最悪」
そんな中で月曜日バイトに行くの、あんまりだよ、とぼやくと、はぁあ、と猛が大きく溜め息をつく。
「鷹……怒ってるかなあ……」
「ん? 何」
正志はスパゲティを巻付けていた手を止めた。
「まじにすっぽかしたの? 鷹さん」
「だって…だってさ、俺ちゃんと仕事切り上げて待ってたのに、その目の前の道路をこれ見よがしに女と腕組んで歩いてくんだよ?」
きゅう、と唇を突き出して、猛は顔を顰めた。
「しかも、絶対俺に気づいてた!」
「なんでわかんの」
「俺の方見たもん」
「は?」
「だから。俺があれって思って目で追ってたら、ちらっと肩越しに振り返って薄笑いしやがったの、あいつ」
「ああ………やりそう……」
「だろ? だろ?」
猛はウーロン茶のコップを掴んでがぶがぶ飲んだ。見かけによらず、全く酒が駄目なこの従兄弟は、カクテル一杯、ビール二杯が限度なのをまだ三上に知らせていない。
「やっぱり渋ったのがまずかったのかなあ……」
「何を」
「いや、だって、おいしいカクテルを飲みに行こうって誘われててさ……夜景が綺麗だからってさ」
「………猛」
「俺って、ほら、飲むとすぐ駄目になるしさ、ケースカンファがあるからって言い訳しててさ」
「ちょっおっと待った」
正志は眉を寄せて唸る。
「カクテルに夜景?」
「うん、リゾ・ライヤ・ホテルの最上階ラウンジだって」
「もしもーし」
それってひょっとして一緒に一晩過ごそうってお誘いだったんじゃなかったの?
「しかも、猛から断ってるじゃん!」
「でも、コーヒーぐらいならいいよって言ったぞ!」
潤んだ目を上げて猛が訴える。
「そしたら、ああ、そうですか、それじゃって、店指定したの、鷹だし!」
「あ~~……」
なんか想像ついてきたなあ、と正志は溜め息をついた。
目元をうっすら染めながら、猛がもぐもぐスパゲッティを口に運ぶ。ばさっとした白のパジャマがうっとうしいぐらいによく似合う男が、いじけながら皿を抱えているのをにやにやして見ていた正志は、はっと我に返った。
「なんで知ってんの」
「……さっき電話してきてくれた、うちの看護師が。近くのテーブルに居たんだって。高岳さん、彼女に振られてましたよぉって」
「うわ………最悪」
そんな中で月曜日バイトに行くの、あんまりだよ、とぼやくと、はぁあ、と猛が大きく溜め息をつく。
「鷹……怒ってるかなあ……」
「ん? 何」
正志はスパゲティを巻付けていた手を止めた。
「まじにすっぽかしたの? 鷹さん」
「だって…だってさ、俺ちゃんと仕事切り上げて待ってたのに、その目の前の道路をこれ見よがしに女と腕組んで歩いてくんだよ?」
きゅう、と唇を突き出して、猛は顔を顰めた。
「しかも、絶対俺に気づいてた!」
「なんでわかんの」
「俺の方見たもん」
「は?」
「だから。俺があれって思って目で追ってたら、ちらっと肩越しに振り返って薄笑いしやがったの、あいつ」
「ああ………やりそう……」
「だろ? だろ?」
猛はウーロン茶のコップを掴んでがぶがぶ飲んだ。見かけによらず、全く酒が駄目なこの従兄弟は、カクテル一杯、ビール二杯が限度なのをまだ三上に知らせていない。
「やっぱり渋ったのがまずかったのかなあ……」
「何を」
「いや、だって、おいしいカクテルを飲みに行こうって誘われててさ……夜景が綺麗だからってさ」
「………猛」
「俺って、ほら、飲むとすぐ駄目になるしさ、ケースカンファがあるからって言い訳しててさ」
「ちょっおっと待った」
正志は眉を寄せて唸る。
「カクテルに夜景?」
「うん、リゾ・ライヤ・ホテルの最上階ラウンジだって」
「もしもーし」
それってひょっとして一緒に一晩過ごそうってお誘いだったんじゃなかったの?
「しかも、猛から断ってるじゃん!」
「でも、コーヒーぐらいならいいよって言ったぞ!」
潤んだ目を上げて猛が訴える。
「そしたら、ああ、そうですか、それじゃって、店指定したの、鷹だし!」
「あ~~……」
なんか想像ついてきたなあ、と正志は溜め息をついた。
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