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「どこがまずかったんだ?」
「あ~」
なんだろうな、この男のわけわからんピュアさは、と正志は溜め息を重ねる。
別に三上が初めての相手というわけでもないみたいだし、確かに異色な恋ではあるにせよ、それなりにいろんな相手が入れ替わり立ち代わり猛の側に居たのを知っている正志としては、どうしてこんな露骨な誘いがぴんと来ないのかよくわからない。
かといって、それは誘われたんだよ、それを見事に蹴ってやがんの、バカだなあ、と笑ってしまうのも、何だか振られたばっかりの身としては他人事ではなくて。
「……月曜日に顔合わせたら、それとなく聞いてみるよ」
「え?」
正志は三上病院でポーター的なアルバイトをしている。
本来ならば看護師として就職できるはずだったのだが、たまたま空きができたのが産婦人科と小児科で、両方ともまだ男性看護師がおいそれと入れる環境にはない、と断られかけたのを、入れる空きがあるまで院内で働きたいと粘ったのだ。
総合病院としては少し規模が小さいが、IT化を進めている最中のやや老朽化した建物は広い敷地内に点在していて、研究棟もあったりする中、院内事情にある程度詳しくて、しかも身動き軽い人間は望まれていた。
従来なら看護助手がしていた仕事だったが、介護業務的なものが入り込んできている今、彼女らの方が患者には必要、その代行ならばと言われて理不尽な思いはあったが、一般企業なら逆のパターンってことだよな、と性別から来る待遇は受け入れた。
いつかちゃんとした働きのできる看護師になったら、きっと全部役に立つ。
そう自分を励ましつつ、涼子とのデートもほどほどにしてまで、正志なりの居場所を確保しようと頑張っていたのだが。
思わずまた溜め息が出る。
「ほんと?」
「病棟よりは、僕の方が鷹さんに会う確率高いだろうし」
「う、うん」
ぱあっと猛は嬉しそうな笑みを広げた。
「そうだよな。うん、まーちゃんならちゃんと聞いてくれるよな」
にっこり笑ってスパゲティをかき寄せる。
「だからさー、そのまーちゃんっての止めな?」
大体が、病棟勤務がきつくて碌なもの食べられないって僕んところに転がり込んだ時点で、普通の恋人なら微妙に面白くないよなあ、と思いついた時点でぎくっとする。
「……なあ、猛」
「ん?」
「鷹さんに、ここに転がり込んだの、なんて説明したの?」
「なんて?」
猛はきょとんとした。
「なんて説明って……なんで?」
「なんでって」
病棟では切れ者なのに、どうしてプライベートはここまで鈍いかな、と正志は苛つく。
「僕、男だよ?」
「うん」
「猛はゲイだろ?」
「うん」
「鷹さんはバイ」
「うん」
「疑うだろ?」
「何を」
「だーかーら!」
「……あ、えーと、まーちゃんが面倒見てくれるからって言った」
「はぁあああ???」
「ご飯とか部屋のこととか、寝るところの用意とかちゃんとしてくれるからって」
「……た~け~る~~」
そりゃ、三上が勝負に出てくるよなあ、しかもそれを振ってるし。ひょっとすると、月曜日って思ってる以上の修羅場になる? 自分の恋が壊れたところなのに、その痛手を回復する間さえなく?
正志は胸の底から深く大きな溜め息をついた。
「あ~」
なんだろうな、この男のわけわからんピュアさは、と正志は溜め息を重ねる。
別に三上が初めての相手というわけでもないみたいだし、確かに異色な恋ではあるにせよ、それなりにいろんな相手が入れ替わり立ち代わり猛の側に居たのを知っている正志としては、どうしてこんな露骨な誘いがぴんと来ないのかよくわからない。
かといって、それは誘われたんだよ、それを見事に蹴ってやがんの、バカだなあ、と笑ってしまうのも、何だか振られたばっかりの身としては他人事ではなくて。
「……月曜日に顔合わせたら、それとなく聞いてみるよ」
「え?」
正志は三上病院でポーター的なアルバイトをしている。
本来ならば看護師として就職できるはずだったのだが、たまたま空きができたのが産婦人科と小児科で、両方ともまだ男性看護師がおいそれと入れる環境にはない、と断られかけたのを、入れる空きがあるまで院内で働きたいと粘ったのだ。
総合病院としては少し規模が小さいが、IT化を進めている最中のやや老朽化した建物は広い敷地内に点在していて、研究棟もあったりする中、院内事情にある程度詳しくて、しかも身動き軽い人間は望まれていた。
従来なら看護助手がしていた仕事だったが、介護業務的なものが入り込んできている今、彼女らの方が患者には必要、その代行ならばと言われて理不尽な思いはあったが、一般企業なら逆のパターンってことだよな、と性別から来る待遇は受け入れた。
いつかちゃんとした働きのできる看護師になったら、きっと全部役に立つ。
そう自分を励ましつつ、涼子とのデートもほどほどにしてまで、正志なりの居場所を確保しようと頑張っていたのだが。
思わずまた溜め息が出る。
「ほんと?」
「病棟よりは、僕の方が鷹さんに会う確率高いだろうし」
「う、うん」
ぱあっと猛は嬉しそうな笑みを広げた。
「そうだよな。うん、まーちゃんならちゃんと聞いてくれるよな」
にっこり笑ってスパゲティをかき寄せる。
「だからさー、そのまーちゃんっての止めな?」
大体が、病棟勤務がきつくて碌なもの食べられないって僕んところに転がり込んだ時点で、普通の恋人なら微妙に面白くないよなあ、と思いついた時点でぎくっとする。
「……なあ、猛」
「ん?」
「鷹さんに、ここに転がり込んだの、なんて説明したの?」
「なんて?」
猛はきょとんとした。
「なんて説明って……なんで?」
「なんでって」
病棟では切れ者なのに、どうしてプライベートはここまで鈍いかな、と正志は苛つく。
「僕、男だよ?」
「うん」
「猛はゲイだろ?」
「うん」
「鷹さんはバイ」
「うん」
「疑うだろ?」
「何を」
「だーかーら!」
「……あ、えーと、まーちゃんが面倒見てくれるからって言った」
「はぁあああ???」
「ご飯とか部屋のこととか、寝るところの用意とかちゃんとしてくれるからって」
「……た~け~る~~」
そりゃ、三上が勝負に出てくるよなあ、しかもそれを振ってるし。ひょっとすると、月曜日って思ってる以上の修羅場になる? 自分の恋が壊れたところなのに、その痛手を回復する間さえなく?
正志は胸の底から深く大きな溜め息をついた。
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