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「高岳くーん」
小児科へ郵便物を届けにいくと、早速田中玲子に絡まれた。
「聞いたわよー」
「……何をですか」
「ふ、ら、れ、た、んだって?」
「か、ん、け、い、ないでしょ」
くすくす笑うショートヘアの看護師はこれでも腕ききの主任で、猛もいつも頼りにしている。
「えげつない理由を聞いたわよ?」
「さっさと忘れて下さい」
「あんまりえげつないから忘れられない」
「あのね」
じろりと睨むと、きゃあ、まさしくんがおこったああ、と『ひらがな』ではしゃいで身を翻して詰め所に戻る。
「なんだよ、ほんとに」
「まー……ま、さし!」
朝から三上には絡まれるし、そこら中であれこれ言われるし、一体看護師のネットワークって何なのさ、とぼやいていると、正志を見付けて廊下の端から猛が嬉しそうに駆け寄ってきた。さすがにまーちゃん、とは呼ばなかったが、こっちもどこか甘えた口調の呼び方でがっくりする。
「おはようございます、倉沢先生」
「何言ってんの、今朝も一緒だったじゃん」
「ばっ」
にこにこ腕を掴んで覗き込んでくる相手に思わずうろたえて周囲を見た。万が一、今の台詞が聞こえるところに三上が居たら、もう目も当てられない。破滅しかない。ほんと、これ以上の混乱は避けたい。
急いで非常階段の踊り場まで引っ張ってきて、説教した。
「あのね、誤解を招くようなこと言わないの!」
「誤解?」
「朝が一緒だって大声で言わないの」
「なんで? 同居してんだから別に」
「あーのーねー」
「従兄弟同士が同居してたっておかしくないじゃん」
「いや、だからさ」
「それに俺は正志に興味ないし」
「ううう」
違うだろ? 根本的に何か大きく間違ってるだろ、お前。二つも年上でなんでそんなに妙なところでお子さまなんだよ、発想が。
「ちょっとはいろいろ自覚しろよ、自分のこととか、人の気持ちとかっ」
「あ、鷹に聞いてくれた?」
ハートマークがつきそうなほど嬉しそうな声で猛が笑った。
「さすが、まーちゃん」
「………聞けてない」
「え?」
「………聞けてないって。何か鷹さん、むちゃくちゃ怒ってるぞ?」
「え……」
すううっと猛が見る見る青くなった。
小児科へ郵便物を届けにいくと、早速田中玲子に絡まれた。
「聞いたわよー」
「……何をですか」
「ふ、ら、れ、た、んだって?」
「か、ん、け、い、ないでしょ」
くすくす笑うショートヘアの看護師はこれでも腕ききの主任で、猛もいつも頼りにしている。
「えげつない理由を聞いたわよ?」
「さっさと忘れて下さい」
「あんまりえげつないから忘れられない」
「あのね」
じろりと睨むと、きゃあ、まさしくんがおこったああ、と『ひらがな』ではしゃいで身を翻して詰め所に戻る。
「なんだよ、ほんとに」
「まー……ま、さし!」
朝から三上には絡まれるし、そこら中であれこれ言われるし、一体看護師のネットワークって何なのさ、とぼやいていると、正志を見付けて廊下の端から猛が嬉しそうに駆け寄ってきた。さすがにまーちゃん、とは呼ばなかったが、こっちもどこか甘えた口調の呼び方でがっくりする。
「おはようございます、倉沢先生」
「何言ってんの、今朝も一緒だったじゃん」
「ばっ」
にこにこ腕を掴んで覗き込んでくる相手に思わずうろたえて周囲を見た。万が一、今の台詞が聞こえるところに三上が居たら、もう目も当てられない。破滅しかない。ほんと、これ以上の混乱は避けたい。
急いで非常階段の踊り場まで引っ張ってきて、説教した。
「あのね、誤解を招くようなこと言わないの!」
「誤解?」
「朝が一緒だって大声で言わないの」
「なんで? 同居してんだから別に」
「あーのーねー」
「従兄弟同士が同居してたっておかしくないじゃん」
「いや、だからさ」
「それに俺は正志に興味ないし」
「ううう」
違うだろ? 根本的に何か大きく間違ってるだろ、お前。二つも年上でなんでそんなに妙なところでお子さまなんだよ、発想が。
「ちょっとはいろいろ自覚しろよ、自分のこととか、人の気持ちとかっ」
「あ、鷹に聞いてくれた?」
ハートマークがつきそうなほど嬉しそうな声で猛が笑った。
「さすが、まーちゃん」
「………聞けてない」
「え?」
「………聞けてないって。何か鷹さん、むちゃくちゃ怒ってるぞ?」
「え……」
すううっと猛が見る見る青くなった。
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