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いや、ショッキングピンクのペチコートだけじゃない、真っ黒いレースのミニスカート、赤と緑のタンクトップ、つんつんに立てた金色の髪が詰め所の戸口から現れて、呆気に取られて立ちすくむ。
クリスマスツリー?
一番始めに浮かんだのはその印象だった。
「あ、あの」
「はい?」
柔らかな声で微笑んだのは真っ赤な唇。
笑うと小さな女のコみたいに見えるけれど、明らかに大学生ぐらいの女性が、追いかけるように顔を出した田中主任に首を傾げる。耳たぶにきらきら光るピアスが埋めるほどいっぱいついている。
「当日も、その格好?」
「駄目ですか?」
女性は不安そうな田中主任に肩を竦めて見せた。
「いえ……その、子ども達が驚かないかと」
「ああ」
にこっ、と女性は笑った。
「驚くのはおかあさん方だと思います。子どもは意外に平気で……」
彼女が視線を投げた先には病室の入り口でパジャマの袖を握り締めて、びっくり顔で立っている患者。
「やっほ~」
明るい声を上げながら、彼女がにこにこにこっ、と笑って黒レースの手袋で包まれた手を振ってみせると、子どもは釣られたようにそろっと手を振った。それから、そうした自分に驚いたように、お
かあさあんっ、と病室に飛び込んでいく。部屋の中で大きな声が響いた。
おかあさんっ、なんかね、なんかね、なんかすごいのがいるよっっ!
すごいの。
うーむ、的確だ、と思わず正志は呟いた。
「あ、あはは」
女性は照れたように笑って、少し頬を染めた。側に居た三上が、
「じゃあ、僕はこれで。失礼します、片桐さん」
「あ、ありがとうございます、三上さん。当日、是非来て下さい!」
「……時間があれば」
さらりと流して三上がエレベーターの方へ行きながら、何か言いたげな視線を送ってきたが、それよりも片桐と呼ばれた女性に視線を奪われていた。
なんて綺麗に動くんだろう。
手を振った動きもそうだけど、三上が去っていくときに少し頭を逸らせた動き、僅かに会釈した動き、それから気づかうように病室の子どもの方を見る動き、それらが作る空間は服装とはミスマッチ
だけれど、響く声とはぴったりで。
「では、失礼します」
ぺこりと頭を下げてこちらへ向かって歩いてくる相手をついついじっと見つめてしまうと、相手が側まで来て立ち止まった。
「何?」
「え、あ、あっ」
一気に正志の喉が干上がった。
透明な目。
猛ほど大きくなくて、三上ほど淡くない、甘い茶色の、それでもまるで奥の方まで覗き込みたくなるような、深くて透明な目。
その目が、に、とふいに笑った。
「三日後」
「え?」
「ここで歌うの」
「ここ、で?」
声が掠れて出なかった。それがたまらなく悔しくて、正志は思わず一歩彼女の前に立ち塞がる。ちょっと驚いたように見開かれた瞳が嬉しくて、またもっと覗き込む。
「来てね?」
「うん」
「じゃ」
「わかった」
当然みたいに約束して当然みたいにすぐ側をすり抜けていく彼女の熱に、内側の何かが煽られた。
クリスマスツリー?
一番始めに浮かんだのはその印象だった。
「あ、あの」
「はい?」
柔らかな声で微笑んだのは真っ赤な唇。
笑うと小さな女のコみたいに見えるけれど、明らかに大学生ぐらいの女性が、追いかけるように顔を出した田中主任に首を傾げる。耳たぶにきらきら光るピアスが埋めるほどいっぱいついている。
「当日も、その格好?」
「駄目ですか?」
女性は不安そうな田中主任に肩を竦めて見せた。
「いえ……その、子ども達が驚かないかと」
「ああ」
にこっ、と女性は笑った。
「驚くのはおかあさん方だと思います。子どもは意外に平気で……」
彼女が視線を投げた先には病室の入り口でパジャマの袖を握り締めて、びっくり顔で立っている患者。
「やっほ~」
明るい声を上げながら、彼女がにこにこにこっ、と笑って黒レースの手袋で包まれた手を振ってみせると、子どもは釣られたようにそろっと手を振った。それから、そうした自分に驚いたように、お
かあさあんっ、と病室に飛び込んでいく。部屋の中で大きな声が響いた。
おかあさんっ、なんかね、なんかね、なんかすごいのがいるよっっ!
すごいの。
うーむ、的確だ、と思わず正志は呟いた。
「あ、あはは」
女性は照れたように笑って、少し頬を染めた。側に居た三上が、
「じゃあ、僕はこれで。失礼します、片桐さん」
「あ、ありがとうございます、三上さん。当日、是非来て下さい!」
「……時間があれば」
さらりと流して三上がエレベーターの方へ行きながら、何か言いたげな視線を送ってきたが、それよりも片桐と呼ばれた女性に視線を奪われていた。
なんて綺麗に動くんだろう。
手を振った動きもそうだけど、三上が去っていくときに少し頭を逸らせた動き、僅かに会釈した動き、それから気づかうように病室の子どもの方を見る動き、それらが作る空間は服装とはミスマッチ
だけれど、響く声とはぴったりで。
「では、失礼します」
ぺこりと頭を下げてこちらへ向かって歩いてくる相手をついついじっと見つめてしまうと、相手が側まで来て立ち止まった。
「何?」
「え、あ、あっ」
一気に正志の喉が干上がった。
透明な目。
猛ほど大きくなくて、三上ほど淡くない、甘い茶色の、それでもまるで奥の方まで覗き込みたくなるような、深くて透明な目。
その目が、に、とふいに笑った。
「三日後」
「え?」
「ここで歌うの」
「ここ、で?」
声が掠れて出なかった。それがたまらなく悔しくて、正志は思わず一歩彼女の前に立ち塞がる。ちょっと驚いたように見開かれた瞳が嬉しくて、またもっと覗き込む。
「来てね?」
「うん」
「じゃ」
「わかった」
当然みたいに約束して当然みたいにすぐ側をすり抜けていく彼女の熱に、内側の何かが煽られた。
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