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小児科のプレイルームは病棟の中央近くにある4人部屋程度の空間で、作った当初はベッドも置けない部屋をなぜ作らなければいけないのかとずいぶん言われたらしいが、病院長でもありオーナーでもある三上洋一郎はがんとして譲らなかった。
『よくは知らないけどさ、鷹のためだったって』
ずっと前に猛がそう正志に話してくれたことがある。
今でこそ三上は病気なんてしたことがあるのか、というぐらい元気でタフでしたたかな男だけれど、昔はこの病院に入院していたことがあったぐらい弱かった、らしい。
それで同情して魅かれたの、とからかったら、うっすら赤くなって、違うよ、ばか、と猛は目を逸らせ、
『とんでもないとこで凄いんだよ、あいつは』
照れくさそうに惚気てくれたのだが。
「どう見たってしっかり惚れてんだから、さっさとまとまっちゃえばいいのに」
ぼやきながら正志は何とか時間内に仕事を終えて、病棟の渡り廊下を急ぎ足に歩いていく。
せめて、こっちを巻き込むのはやめてほしいんだよな。
左の首筋に張った絆創膏が突っ張って落ち着かない。タートルネックは着てきたけれど、普段はポロシャツ系だから目立つんじゃないかと微妙に気になる。
「えーと、プレイルームは………と、なんじゃ、こりゃ」
ひょいと覗き込んで正志は固まった。
プレイルームの片隅、ちょうど舞台になる軽く一段上がった板の間のど真ん中に、緑色の真っ黒な目をむいた3、4歳ぐらいはある大きさの立位歩行できるような蛙が立っている。
「かえる……だよな?」
「『タロン隊長』よん」
「うあわっ」
腰を屈めて覗き込んだ左耳にぼそっと囁かれて、思わず大声を上げて飛び退いた。
「来てくれたんだ?」
「あ」
にこっと笑ったのはまさしく『彼女』で、綺麗に赤く塗った唇がきらきらと光を跳ねていた。
思わず目を魅きつけられてごくんと唾を呑むと、軽いウィンクを投げて寄せてきた体は、この前の『クリスマスツリー』仕様、つんつん尖った金髪に今日はビーズのリボンなんかつけている。
「嬉しいなあ」
「あ、あの」
「ん?」
「た、たろ隊長、って?」
「『タロン隊長』。あの子のことだよ。等身大」
「と、とうしんだい?」
「うん、アニメに出てくるタロン人なの。今人気があってね、等身大のが出たから、ちょうどいいかって買っちゃった」
「………いくらするの、あれ」
思わず尋ねてしまった正志に、相手が僅かに苦笑する。
「ふぅん」
「何?」
「いや、確かにそれなら振られるの、無理ないかなあって」
「う」
無邪気に断言されてことばに詰まった。
『よくは知らないけどさ、鷹のためだったって』
ずっと前に猛がそう正志に話してくれたことがある。
今でこそ三上は病気なんてしたことがあるのか、というぐらい元気でタフでしたたかな男だけれど、昔はこの病院に入院していたことがあったぐらい弱かった、らしい。
それで同情して魅かれたの、とからかったら、うっすら赤くなって、違うよ、ばか、と猛は目を逸らせ、
『とんでもないとこで凄いんだよ、あいつは』
照れくさそうに惚気てくれたのだが。
「どう見たってしっかり惚れてんだから、さっさとまとまっちゃえばいいのに」
ぼやきながら正志は何とか時間内に仕事を終えて、病棟の渡り廊下を急ぎ足に歩いていく。
せめて、こっちを巻き込むのはやめてほしいんだよな。
左の首筋に張った絆創膏が突っ張って落ち着かない。タートルネックは着てきたけれど、普段はポロシャツ系だから目立つんじゃないかと微妙に気になる。
「えーと、プレイルームは………と、なんじゃ、こりゃ」
ひょいと覗き込んで正志は固まった。
プレイルームの片隅、ちょうど舞台になる軽く一段上がった板の間のど真ん中に、緑色の真っ黒な目をむいた3、4歳ぐらいはある大きさの立位歩行できるような蛙が立っている。
「かえる……だよな?」
「『タロン隊長』よん」
「うあわっ」
腰を屈めて覗き込んだ左耳にぼそっと囁かれて、思わず大声を上げて飛び退いた。
「来てくれたんだ?」
「あ」
にこっと笑ったのはまさしく『彼女』で、綺麗に赤く塗った唇がきらきらと光を跳ねていた。
思わず目を魅きつけられてごくんと唾を呑むと、軽いウィンクを投げて寄せてきた体は、この前の『クリスマスツリー』仕様、つんつん尖った金髪に今日はビーズのリボンなんかつけている。
「嬉しいなあ」
「あ、あの」
「ん?」
「た、たろ隊長、って?」
「『タロン隊長』。あの子のことだよ。等身大」
「と、とうしんだい?」
「うん、アニメに出てくるタロン人なの。今人気があってね、等身大のが出たから、ちょうどいいかって買っちゃった」
「………いくらするの、あれ」
思わず尋ねてしまった正志に、相手が僅かに苦笑する。
「ふぅん」
「何?」
「いや、確かにそれなら振られるの、無理ないかなあって」
「う」
無邪気に断言されてことばに詰まった。
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