『よいこのすすめ』

segakiyui

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「なんでまた……って、あ、ひょっとして、今のことば、まともに言ったの?」
「……こっちも熱くなってたから」
 気まずそうに視線を逸らせる三上に呆気に取られる。
 そりゃまずいでしょう。
 自分の責任で患者を死なせたと思い込んだ猛に、なお録音しとけばよかっただなんて、患者も猛も放り出すようなことを言っちゃ、猛が激怒するのも無理はない。
「意外と……不器用なんだね、三上さん」
「………被らなくていい責任だ」
 ぼそりとぶっきらぼうに返事が戻ってくる。
「倉沢の責任じゃない」
「あー、それはそうだけど」
 っていうか、それを最初に言わなくちゃいけなかっただろうに。
 きっと三上は猛が苦しむのを恐れて、相手の判断ミスと責任を指摘するつもりでそう言ったのだろう。けれど、それは猛には自分が病院に勤める医師としては不用心すぎると責められたように取れた
かもしれない。
 ああ、だからか、と思った。
 この間からの一件で、猛は三上に嫌われたと思っている。そこへまたミスを重ねたから、目一杯落ち込んでしまったのだろう。いつもなら正志が愚痴なり何なり聞いておさまるところが、正志が風邪
で寝込んでいたから、一人で何とかしようとして。
「それで酒か……単純っつーか、馬鹿っつーか」
「馬鹿はないだろう」
 むかっとしたように三上が顔を上げた。
「僕はてっきり…」
「?」
「てっきり…………君のところに戻ってるものだと思って」
 あー。ここにも一人誤解してるのが居たんだっけ。
「だから、安心して」
 そうでもないのだろう。それはそれで心配になって、きっと今までずっとあちこち探し回っていたのだろう。
「………どうして君はそこまでいろいろ知ってながら、倉沢をちゃんと受けとめてやらないんだ」
 おいおい、こっちにお鉢が回ってきたよ。
 正志はうんざりしてため息をついた。
「僕はそういう役割じゃないし」
「役割?」
「それに、猛はお酒飲めないんだよ。飲めない男が酒飲んで気がまぎれるわけないでしょう? だから馬鹿ってったの」
「飲めない?」
「そう、飲めないの。だから」
 はぁ、と肩を落としながら向きを変える。
「いつかのラウンジデートは猛にうまく通じてないからね? そればかりか、猛、あんたに嫌われたって落ち込んでるんだから」
「僕に……嫌われた……?? 落ち込んでる……??」
 三上は困惑し切った声で呟いている。
 ひょっとして、この人もこういうことには凄く鈍い人なのか?
 正志はがしがし頭を掻きながら台所へ戻った。 
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