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「はい、こっち向いて」
数十分後、ようやく手を離してくれたからと居間に出てきた三上を、ダイニングテーブルに誘って、正志はコーヒーを淹れ、絆創膏を出した。
「もう血は止まってる」
「キスでもしてきた?」
「……」
「また少し血が出てるよ」
微妙に引きつった三上が渋々顔を突き出す。
「スーツについても困るし、もう遅いから泊まっていくだろ、そしたらシーツとか汚されても困るし」
「いや、別にソファかどこかで」
「あのねえ」
や、僕もずいぶん鈍い方だけどさ、と思わず眉を寄せた。
「男同士ってのはよくわからないけど、僕だったら、恋人が正体なくして寝てる隣のベッドで別の男が一緒に寝るけど、お前は部屋の外で大人しくしてろって言われたら、結構むかつくと思う」
「う」
「僕、風邪引いてて、正直いってぐだぐだなんだよ。今、これ以上面倒なことであんたに恨まれたり、猛に愚痴られたりしたくないの」
「……いいのか」
「はい?」
「君は……いいのか」
探るような視線で三上が見つめてきて、ああ、そっか、ここははっきり言っておかなくちゃならないなと思い直す。
「あのね、僕は女の方がいいの」
「しかし」
「何が哀しくて、あんなでっついのをどうにかしたいとか思わなくちゃならないんだよ」
「けれど、倉沢は可愛いんだぞ」
「……」
もしもーし。
余りにはっきり断言されて、一瞬正志はことばを失ってしまった。まじまじと見返すと、疑われているのかと思ったらしい三上が、貼ろうとした絆創膏を押しとどめて繰り返す。
「凄く、可愛いんだ」
「………あの」
「いつも一所懸命で、必死で、患者にも看護師にも評判がいいけど、それはあいつが頼んだことをしてやったりすると、にこおって笑うあの顔のせいだと思う。無邪気で心底こっちを信じてるって感じで」
「あの」
「それは、その笑顔が僕だけに向けられているとは自惚れていない。倉沢はみんなに好かれてるし、愛されている。けどしかし、倉沢が頼りにしているのは、どう見ても君しかいないようだし、それはきっと、その、深い想いあってのことじゃないかと思う」
「や、だから」
「君はそう、かもしれないが……倉沢は……倉沢の方は……」
口ごもってしまった三上の方が可愛いらしいと思ってしまったのは、恋情というより、小さな男の子の一所懸命さに向けるような気持ちで。
「……猛はきっと……あんたのことが好きだよ」
「……え?」
「ほら、口出して」
「あ、ああ」
少し顔を横向けた三上の口元に絆創膏を貼りつけたとたん、三上がいきなり立ち上がった。
「わっ」
「くら……っ」
「へ?」
振り向くと、境のドアを開いたところで真っ青になって立ち竦んでいる猛の姿があった。
数十分後、ようやく手を離してくれたからと居間に出てきた三上を、ダイニングテーブルに誘って、正志はコーヒーを淹れ、絆創膏を出した。
「もう血は止まってる」
「キスでもしてきた?」
「……」
「また少し血が出てるよ」
微妙に引きつった三上が渋々顔を突き出す。
「スーツについても困るし、もう遅いから泊まっていくだろ、そしたらシーツとか汚されても困るし」
「いや、別にソファかどこかで」
「あのねえ」
や、僕もずいぶん鈍い方だけどさ、と思わず眉を寄せた。
「男同士ってのはよくわからないけど、僕だったら、恋人が正体なくして寝てる隣のベッドで別の男が一緒に寝るけど、お前は部屋の外で大人しくしてろって言われたら、結構むかつくと思う」
「う」
「僕、風邪引いてて、正直いってぐだぐだなんだよ。今、これ以上面倒なことであんたに恨まれたり、猛に愚痴られたりしたくないの」
「……いいのか」
「はい?」
「君は……いいのか」
探るような視線で三上が見つめてきて、ああ、そっか、ここははっきり言っておかなくちゃならないなと思い直す。
「あのね、僕は女の方がいいの」
「しかし」
「何が哀しくて、あんなでっついのをどうにかしたいとか思わなくちゃならないんだよ」
「けれど、倉沢は可愛いんだぞ」
「……」
もしもーし。
余りにはっきり断言されて、一瞬正志はことばを失ってしまった。まじまじと見返すと、疑われているのかと思ったらしい三上が、貼ろうとした絆創膏を押しとどめて繰り返す。
「凄く、可愛いんだ」
「………あの」
「いつも一所懸命で、必死で、患者にも看護師にも評判がいいけど、それはあいつが頼んだことをしてやったりすると、にこおって笑うあの顔のせいだと思う。無邪気で心底こっちを信じてるって感じで」
「あの」
「それは、その笑顔が僕だけに向けられているとは自惚れていない。倉沢はみんなに好かれてるし、愛されている。けどしかし、倉沢が頼りにしているのは、どう見ても君しかいないようだし、それはきっと、その、深い想いあってのことじゃないかと思う」
「や、だから」
「君はそう、かもしれないが……倉沢は……倉沢の方は……」
口ごもってしまった三上の方が可愛いらしいと思ってしまったのは、恋情というより、小さな男の子の一所懸命さに向けるような気持ちで。
「……猛はきっと……あんたのことが好きだよ」
「……え?」
「ほら、口出して」
「あ、ああ」
少し顔を横向けた三上の口元に絆創膏を貼りつけたとたん、三上がいきなり立ち上がった。
「わっ」
「くら……っ」
「へ?」
振り向くと、境のドアを開いたところで真っ青になって立ち竦んでいる猛の姿があった。
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