『よいこのすすめ』

segakiyui

文字の大きさ
25 / 74

25

しおりを挟む
「ご、ごめんっ!」
 悲鳴のような声を上げて、猛が急いでドアを閉めて籠ってしまう。
「ごめんごめんごめんごめんっ!」
「たけ…? …あーっ!」
「倉沢っ!」
 一瞬、三上に顔を擦り寄せるようにして絆創膏を貼っていたままだった正志は、猛が何を誤解したのか気づいた。同時に我に返った三上が慌ててドアに駆け寄り押そうとするが、ドアにのしかかって
いるのか、びくともしない。
「倉沢っ、倉沢っ」
「ごめんっ、ごめんっ、俺、そんなこと、気づかなくて、ごめんっ、ごめんっ」
「倉沢っ」
「違うっ、まーちゃん、違うからっ、俺、何とも思ってないからっ」
「倉沢っ」
「何とも思ってないっ、鷹のことなんて、何とも思ってないからっ!」
「っ」
 言わなくていい一言に、三上がびくりと凍りついた。
「倉沢……」
「迷惑なんだよっ、そんな他の女とかとっかえひっかえの奴のことなんか、俺っ」
「あ~、も~!」
 ドアを境にどんどん泥沼に落ち込んでいく会話に、正志はいいかげんぶち切れた。
 三上が思わぬ真剣さで猛のことを想ってるのはわかったし、猛は猛できっと患者のことだけでなくて三上のことばのせいで自棄になったのだろう、そんなこんなでお互い好き合っているのは歴然なのに、どんどんこじれていく。
 いいよな、そらあんたらは。何があっても両想いでさ。
 僕はどうすんのさ。気持ちを寄せる相手にはそっけなくされて、大切にしたはずの関係はあっさり終わっちゃって、そういう奴の前で揉めんじゃねえよ。
「倉沢っ、僕は……っ」
「三上さん、ちょっとどいて」
「いや、だって!」
「どけっつってんの……で、ちょっと黙ってて」
 唸ると三上がむっとした顔で振り向いたが、次の瞬間呆気に取られた顔で硬直した。
「うわああああああっっっ!」
 大音量で叫ぶ。
「わあああああああああああっ」
「た、たかおか…」
「わあああああああああああっ」
「なっ、何っ、何っ、まーちゃんっ!」
 うろたえた顔で飛び出してきた猛に正志はにやっと笑った。
「三上さん、捕まえてっ!」
「あ、ああ!」
「えっ、何っ、何っ」
 はっとしたように三上が猛の腕を掴んで引き寄せ、そこは抜かりなく寝室のドアを閉める。茫然とした顔の猛はあっさり三上に抱き込まれて、きょろきょろと涙でぐしゃぐしゃになった顔を振った。
「天の岩戸……大声バージョン……はー、ちょっとすっきりしたかも」
 げほ、と軽く咳き込みながら、正志は苦笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...