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「ご、ごめんっ!」
悲鳴のような声を上げて、猛が急いでドアを閉めて籠ってしまう。
「ごめんごめんごめんごめんっ!」
「たけ…? …あーっ!」
「倉沢っ!」
一瞬、三上に顔を擦り寄せるようにして絆創膏を貼っていたままだった正志は、猛が何を誤解したのか気づいた。同時に我に返った三上が慌ててドアに駆け寄り押そうとするが、ドアにのしかかって
いるのか、びくともしない。
「倉沢っ、倉沢っ」
「ごめんっ、ごめんっ、俺、そんなこと、気づかなくて、ごめんっ、ごめんっ」
「倉沢っ」
「違うっ、まーちゃん、違うからっ、俺、何とも思ってないからっ」
「倉沢っ」
「何とも思ってないっ、鷹のことなんて、何とも思ってないからっ!」
「っ」
言わなくていい一言に、三上がびくりと凍りついた。
「倉沢……」
「迷惑なんだよっ、そんな他の女とかとっかえひっかえの奴のことなんか、俺っ」
「あ~、も~!」
ドアを境にどんどん泥沼に落ち込んでいく会話に、正志はいいかげんぶち切れた。
三上が思わぬ真剣さで猛のことを想ってるのはわかったし、猛は猛できっと患者のことだけでなくて三上のことばのせいで自棄になったのだろう、そんなこんなでお互い好き合っているのは歴然なのに、どんどんこじれていく。
いいよな、そらあんたらは。何があっても両想いでさ。
僕はどうすんのさ。気持ちを寄せる相手にはそっけなくされて、大切にしたはずの関係はあっさり終わっちゃって、そういう奴の前で揉めんじゃねえよ。
「倉沢っ、僕は……っ」
「三上さん、ちょっとどいて」
「いや、だって!」
「どけっつってんの……で、ちょっと黙ってて」
唸ると三上がむっとした顔で振り向いたが、次の瞬間呆気に取られた顔で硬直した。
「うわああああああっっっ!」
大音量で叫ぶ。
「わあああああああああああっ」
「た、たかおか…」
「わあああああああああああっ」
「なっ、何っ、何っ、まーちゃんっ!」
うろたえた顔で飛び出してきた猛に正志はにやっと笑った。
「三上さん、捕まえてっ!」
「あ、ああ!」
「えっ、何っ、何っ」
はっとしたように三上が猛の腕を掴んで引き寄せ、そこは抜かりなく寝室のドアを閉める。茫然とした顔の猛はあっさり三上に抱き込まれて、きょろきょろと涙でぐしゃぐしゃになった顔を振った。
「天の岩戸……大声バージョン……はー、ちょっとすっきりしたかも」
げほ、と軽く咳き込みながら、正志は苦笑した。
悲鳴のような声を上げて、猛が急いでドアを閉めて籠ってしまう。
「ごめんごめんごめんごめんっ!」
「たけ…? …あーっ!」
「倉沢っ!」
一瞬、三上に顔を擦り寄せるようにして絆創膏を貼っていたままだった正志は、猛が何を誤解したのか気づいた。同時に我に返った三上が慌ててドアに駆け寄り押そうとするが、ドアにのしかかって
いるのか、びくともしない。
「倉沢っ、倉沢っ」
「ごめんっ、ごめんっ、俺、そんなこと、気づかなくて、ごめんっ、ごめんっ」
「倉沢っ」
「違うっ、まーちゃん、違うからっ、俺、何とも思ってないからっ」
「倉沢っ」
「何とも思ってないっ、鷹のことなんて、何とも思ってないからっ!」
「っ」
言わなくていい一言に、三上がびくりと凍りついた。
「倉沢……」
「迷惑なんだよっ、そんな他の女とかとっかえひっかえの奴のことなんか、俺っ」
「あ~、も~!」
ドアを境にどんどん泥沼に落ち込んでいく会話に、正志はいいかげんぶち切れた。
三上が思わぬ真剣さで猛のことを想ってるのはわかったし、猛は猛できっと患者のことだけでなくて三上のことばのせいで自棄になったのだろう、そんなこんなでお互い好き合っているのは歴然なのに、どんどんこじれていく。
いいよな、そらあんたらは。何があっても両想いでさ。
僕はどうすんのさ。気持ちを寄せる相手にはそっけなくされて、大切にしたはずの関係はあっさり終わっちゃって、そういう奴の前で揉めんじゃねえよ。
「倉沢っ、僕は……っ」
「三上さん、ちょっとどいて」
「いや、だって!」
「どけっつってんの……で、ちょっと黙ってて」
唸ると三上がむっとした顔で振り向いたが、次の瞬間呆気に取られた顔で硬直した。
「うわああああああっっっ!」
大音量で叫ぶ。
「わあああああああああああっ」
「た、たかおか…」
「わあああああああああああっ」
「なっ、何っ、何っ、まーちゃんっ!」
うろたえた顔で飛び出してきた猛に正志はにやっと笑った。
「三上さん、捕まえてっ!」
「あ、ああ!」
「えっ、何っ、何っ」
はっとしたように三上が猛の腕を掴んで引き寄せ、そこは抜かりなく寝室のドアを閉める。茫然とした顔の猛はあっさり三上に抱き込まれて、きょろきょろと涙でぐしゃぐしゃになった顔を振った。
「天の岩戸……大声バージョン……はー、ちょっとすっきりしたかも」
げほ、と軽く咳き込みながら、正志は苦笑した。
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